ロック・フェスは幼児虐待の道具になっていないだろうか

photograph by Go Okuda

7月26日(金)から28日(日)にかけて、フジ・ロック・フェスティバル'13が開催された。第17回を迎えた今回は25日(木)の前夜祭も含めて、のべ11万1千人を動員。レディオヘッドや再結成ストーン・ローゼズら人気アーティストが出演した昨年の14万人には及ばなかったものの、ライヴ・パフォーマンスはまったく遜色ない充実度だった。

初日、メイン・ステージであるグリーン・ステージにはナイン・インチ・ネイルズが登場。活動休止を経ての再始動ライヴ一発目となったステージは、今秋発売予定のニュー・アルバム『ヘジテイション・マークス』からの新曲「コピー・オブ・ア」でスタート。「マーチ・オブ・ザ・ピッグス」や「ウィッシュ」、「クローサー」「ヘッド・ライク・ア・ホール」などの名曲も演奏された。数枚の照明パネル(?)を駆使したライティングも見事だったが、 降りしきる豪雨と稲妻・雷鳴が加勢して生み出す一大ヴィジュアル・スペクタクルは、フジ・ロック史上屈指の昂ぶりを感じさせた。

2日目はビョークが音楽とヴィジュアルを兼ね備えたトータルなパフォーマンスを披露。3日目のザ・キュアーは全36曲、3時間近くのショーで、フェスの歴史にその名を刻んだ。

さらにアメリカン・ルーツ・ミュージックをUKロックで解釈したマムフォード&サンズ、野外に「ユー・メイド・ミー・リアライズ」の轟音ドローン・ノイズが響きわたったマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、古色蒼然たるヴィンテージ・ハード・ロックで攻めたジェントルマンズ・ピストルズ、あまりにヘヴィなサウンドにフジ・ロック史上初(たぶん)のサークル・ピットが発生したキルスウィッチ・エンゲイジなどなど、例年以上の熱い面々によるライヴの連続は、誇張でなくパラダイスだった。

...大人にとっては、だ。

●夏フェスは子供にとって苛酷な環境

幅広い年齢層をターゲットにした、自然との調和を図るフェスティバルということで、近年は親子連れも目立つようになったフジ・ロック。ベビーカーをガラガラ押しながらステージを移動する姿は微笑ましいが、ハッキリ言って、この環境はかなり苛酷なものだ。降りしきる雨、時に顔を覗かす灼熱の太陽。大人でもキツイのだから、子供にとってはそうとうな試練であることは間違いない。しかも子供たちは音楽が好きで自主的に来ているわけでもなく、親に連れてこられただけだ。

ベビーカーにかけられた雨よけビニールの向こうにいる幼児の立場になってみよう。激しい雨がビニールにぶつかって、視界を閉ざされ、大音量の演奏と観衆の声援が耳をつんざく。しかもそれが何時間も、普段の就寝時間をはるかに過ぎた深夜まで続くのだ。初日、ナイン・インチ・ネイルズ終演後の午後11時半過ぎ、興奮に瞳孔を開かせながらベビーカーを押す父親がいた。その手首には、3日通し券のリストバンドがあった。これは幼児虐待といえるのではないだろうか。

フジ・ロック会場には『KIDS LAND』があって、子供たちが遊ぶことが出来る。メリーゴーラウンドやぬいぐるみ劇などお楽しみも多く、不躾な大人がズカズカ入ってくることもない(ゴミの分別も含め、フジ・ロックの観客のマナーは世界トップ級だろう)。ただ、この施設はあくまでテンポラリーなもので、ずっと居座るわけにもいかない。子供たちは3日間の多くを、大自然と大音量の脅威に晒されながら過ごすことになる。

極端な例であるが、去る6月、イギリスのグラストンベリー・フェスティバルで、ローリング・ストーンズのライヴ直後に女性ファンが産気づき、出産したという話があった。馬鹿である。そのせいで死産だったり障害が残ったらどうするのか。日本のフェスも、他人事ではない。脱水症状や低体温で死傷者が出てからでは遅いのだ。

●フェスを最高の思い出にしよう

ただ、パパやママとおでかけして、普段味わうことの出来ないシチュエーションに身を置くことは、子供にとって最高に楽しい思い出ともなりえる。ライヴを見るだけではない。ステージ間の通路で、足を浸すことが出来る小川で、屋台エリアで、たくさんの笑顔を見ることが出来た。

不便さを楽しむのがフジ・ロックだとは、よく言われることだ。子連れで会場を訪れるパパやママには、もっと不便を楽しんで欲しい。雨具や着替え、タオル、飲み物、お菓子、ウェットティシュー、虫よけ薬、日焼け止め、レジャーシートなど、あらゆる事態に備えて欲しい。そして、子供たちが思いきり楽しめる環境作りをして欲しい。大人のエゴだけでなく、子供も一緒に楽しめるお膳立てをして欲しい。そして、たとえ見たいバンドがあっても、状況を判断して、会場を去る心の余裕を持って欲しい。

これはフジ・ロックだけに限ったことではなく、夏フェス全般について言えることだ。これから10年後・20年後、子供たちが来たくなるフェスを演出するのは、大人たちなのだ。