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20世紀音楽の巨匠テリー・ライリーが来日、21世紀日本の新進アーティスト・寒川裕人とコラボレーション

山崎智之音楽ライター
Terry Riley

世界で最も重要な現役音楽家の一人。テリー・ライリーをそう呼ぶことに、異を唱える人は少ないだろう。

1935年、カリフォルニア州コルファックスに生まれたライリーはサンフランシスコ州立大学とサンフランシスコ音楽学校を卒業後、インド古典声楽の巨匠パンディット・プラン・ナートに師事。スティーヴ・ライヒやラ・モンテ・ヤングとも交流しながら、即興演奏とミニマリズムを基調とする独自の音楽性を創り上げていく。

1960年代の音楽革命『In C』『ア・レインボウ・イン・カーヴド・エアー』

1964年に発表された『In C』はハ長調を基調に、53の独立したフレーズを異なった位置から開始、反復するという曲で、音楽におけるミニマリズムを世界に知らしめた。ライリーはこの曲の演奏者数について「35人ぐらいが望ましい。だが、それより多くても少なくても構わない」、演奏時間については「45分から1時間半が目安だが、それよりも短くても長くても構わない」と、演奏者の自由裁量に委ねている。ライリー自身も含め、この曲は何度も再演されており、それぞれにまったく異なる生命が吹き込まれている。日本においてもロック・バンド、アシッド・マザーズ・テンプルが本曲を演奏したアルバムを2002年に発表しており、また九州大学では2014年10月、『In C』誕生50周年記念イベントとして『1000人の<In C>』も開催された。実際には参加者は約150人だったが、この画期的なプロジェクトは世界的に注目された。これからも同様の『In C』演奏コンサートは、世界各地で行われることになるだろう。

また、1969年の『ア・レインボウ・イン・カーヴド・エアー』はライリー自らが演奏する電子オルガンやサックス、パーカッション、タブラなどを幾重にもオーヴァーダビングして創った作品で、多重録音レコーディングの 可能性が広く知られるきっかけとなった。

2012年に発表された現時点での最新作『アレフ』はライリー自らが“ヘブライ文字から触発されたインプロヴィゼーションの瞑想”と呼ぶもので、その自由な創造性が今もなお健在であることを見せつけている。

さまざまな音楽に与えた影響

ライリーの音楽は数々の音楽家たちに影響を与えてきた。イギリスのロック・バンド、ザ・フーの1971年のアルバム『フーズ・ネクスト』はその例で、「無法の世界」で使われたシンセサイザーは彼からインスピレーションを受けたものだし、「ババ・オライリィ」という曲タイトルは当時ピート・タウンゼントが心酔していたインドの思想家メヘル・バーバーとライリーの名前を合体させたものだ。

1970年に結成されたイギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド、カーヴド・エアーの名前は、『ア・レインボウ・イン・カーヴド・エアー』から取ったものだ。このバンドには、後にポリスを結成するスチュワート・コープランドや、UKやロキシー・ミュージックでの活動で知られるエディ・ジョブソンも在籍していたことがある。

近年では宇宙旅行プロジェクトにまで乗り出しているヴァージン・グループが元々レコード会社『ヴァージン・レコーズ』だったことは有名だが、その第1弾リリースは1973年に発表されたマイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』だった。多重録音で作られたこのアルバムは、『ア・レインボウ・イン・カーヴド・エアー』から触発されたといわれている。

彼の音楽やその手法はアンビエントやテクノ、エレクトロニック・ミュージックにも多大な影響を与えており2011年7月、アニマル・コレクティヴがキュレーターを務めたイギリスの『オール・トゥモローズ・パーティーズ』フェスティバルにはライリー自身が出演もしている。

日本においても久石譲など、ライリーから影響を受けた音楽家は多い。

日本におけるテリー・ライリー / 寒川裕人とのコラボレーション

ライリーが初めて日本で演奏したのは1977年7月、ユネスコ村で開催された第3回“ニュー・ミュージック・トゥデイ”だった。さらに2005年11月、彼はギタリスト、デヴィッド・タネンバウムとの共演を含む来日公演を行っており、演奏家としての魅力も日本の音楽リスナーに披露している。

そして2014年11月、約9年ぶりにライリーが来日公演を行うことになったのだ。

寒川裕人
寒川裕人

“スペシャル・コンサート&インスタレイション・イン・トーキョー”と銘打たれた今回の公演は、日本人映像作家・寒川裕人(EUGENE KANGAWA)とのコラボレーションとして行われるものだ。寒川は1989年にアメリカで生まれ、現在は日本から世界に向けて活動を行うアーティスト/映像作家だ。映像インスタレーションから企業や都市計画のコンセプチュアル・アーティストとして活躍、2013年にはイギリスのサーペンタイン・ギャラリーのプロジェクトにも参加している。

今回のコラボレーションは、寒川が2011年から手がける2つの作品『From The Future』『After The War』にライリーが感銘を受けたことから始まったという。『From The Future』は福島とプノンペンという2つの地域をひとつの作品で捉えたものだ。ライリーは2011年の東日本大震災直後、すぐにインターネットを通じてメッセージを寄せるなど、日本に対する特別な想いを表してきた。そんな想いが、寒川の作品と共鳴しあうものがあったのかも知れない。

東京都内の巨大倉庫を使用した、スタンディング形式の今回のコンサートは、ライリーと観客(各公演320人限定)を寒川の映像作品が取り囲むようにスクリーンに投影しながら行われる。グランドピアノ、プリペアードピアノ、シンセサイザーを用いた即興演奏がどんなものになるか、まったく予想することが出来ないが、とてつもなく特別な経験になることは間違いない。

20世紀、音楽を進化させてきた革命家が、21世紀日本の映像作家とコラボレーションを行う。生まれるのは調和か、それとも戦いか。

TERRY RILEY with EUGENE KANGAWA SPECIAL CONCERT & INSTALLATION IN TOKYO

●2014年11月22日(土)&23日(日)

TOLOT/HEURISTIC SHINONOME

開場18:00 開演19:00

各公演定員320名

問い合わせ:SUPER VISION事務局03-4588-6394

Twitter:TerryRiley_inJP

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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