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プログレの老兵は君臨する。イエスが『こわれもの』『危機』完全再現ライヴで来日

山崎智之音楽ライター

プログレッシヴ・ロックというと、“普通の”音楽リスナーにとってはマニアックなイメージがあるかも知れないが、洋楽シーンにおいて実は、世界最大級のアーティストの少なくない割合をプログレッシヴ・ロックが占めている。

ピンク・フロイドのラスト・アルバムとなる可能性が高い『永遠(TOWA)』はオリコン誌の洋楽アルバムランキングで初登場4位というヒットを記録しているし、11月30日に発売されるキング・クリムゾンの『暗黒の世界40thアニバーサリー・ボックス』は27枚組という大ヴォリュームにも関わらず、予約状況は好調という。プログレ界のスーパーグループ、エイジアが2014年6月に行った来日公演も盛況だった。

そんな中でカリスマ的な人気を誇るのが、イエスだ。1969年にイギリスでデビューした彼らは、高度な演奏技術と幻想神秘的な世界観を兼ね備えた名盤の数々で、高い支持を得てきた。2012年にはTVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』のエンディング・テーマで「ラウンドアバウト」が使われたことでも再評価の機運が高まり、2014年には初期〜中期作品が“7インチ・サイズ紙ジャケット&SACDハイブリッド盤”で再発されるなど、オールド・ファンのみならず新しい世代のファン層を獲得している。

最新アルバム『へヴン&アース』はプロデューサーにロイ・トーマス・ベイカーを迎えたソフトなテイストが賛否両論を呼んだが、そのクオリティの高さには偏屈なプログレ・ファンも納得、世界的に好セールスを記録した。さらにいうと、デビュー45年という大ベテランが保守に回らず、ニュー・アルバムで賛否両論を呼ぶということ自体が凄いことである。

そして2014年11月、“YES WORLD TOUR 2014 IN JAPAN”と題して、ジャパン・ツアーが行われることになった。

今回の来日公演は、『こわれもの』(1971)、『危機』(1972)という、イエスの最高傑作としばしば呼ばれる名盤アルバム2作を完全再現するスペシャル・ライヴ。「ラウンドアバウト」「燃える朝焼け」「危機」「同志」「シベリアン・カートゥル」というイエス・クラシックスはもちろん、過去の来日では演奏されなかったレア・トラックスも演奏される。

なお、2013年には北米で『こわれもの』『危機』『サード・アルバム』(1971)をプレイする“スリー・アルバム・ツアー”も行われたが、今回は『へヴン&アース』からの新曲を加え、さらに来日直前の大洋州ツアーでは“あの曲”も演奏されたそうなので(ネタバレ禁止)、むしろ日本公演の方が“お得”かも知れない。

ちなみにヨーロッパでは『サード・アルバム』と『究極』(1977)完全再現ライヴも行われているので、次回来日で実現するかも…という、気が早すぎる期待も高まる。そのためにも今回の来日は押さえておかねばなるまい!

クリス・スクワイア(ベース)、スティーヴ・ハウ(ギター)、アラン・ホワイト(ドラムス)という1970年代イエスを支えた黄金ラインアップに加えて、イエスとエイジアとの両輪でフル稼働するジェフ・ダウンズ(キーボード)、そして21世紀イエスのフロントマンとして注目されるジョン・デイヴィソン(ヴォーカル)という布陣は文字通り、新時代への“燃える朝焼け”を感じさせるものだ。

プログレッシヴ・ロックというジャンルそのものを代表する名盤アルバム2作を完全再現するライヴということで、チケットの売れ行きは絶好調。東京の追加公演がNHKホールという大会場(3,600人収容)であることからも、その人気のほどが窺えるだろう。

さらにはメンバーとのミート&グリートや写真撮影を含むVIPパッケージ、25日のTOKYO DOME CITY HALL公演のライヴ音源のダウンロード販売などもあり、2014年末の日本は深刻なイエス中毒が蔓延しそうだ。

なお、イエスというバンドの奥の深さを端的に証明するのが、2014年11月にリリースされたベスト盤『グレイテスト・ヒッツ』だ。来日記念ベストだというのに、なんと来日公演の演奏予想曲目は「ラウンドアバウト」1曲のみ!ライヴとCDで重複曲がほとんどないにも関わらず、どちらも名曲揃いというのは、奇跡だといえる。

ジョン・デイヴィソンを除くと全員が60代という現在のイエスだが、プログレッシヴ・ロックの老兵は死なず、消え去りもしない。ただ君臨するのみだ。

YES WORLD TOUR 2014 IN JAPAN

●11月23日(日・祝日) 東京・TOKYO DOME CITY HALL 16:15 open/17:00 start

●11月24日(月・休日) 東京・TOKYO DOME CITY HALL 16:15 open/17:00 start

●11月25日(火) 東京・TOKYO DOME CITY HALL

●11月27日(木) 大阪オリックス劇場

●11月28日(金) 名古屋・ZEPP NAGOYA

●11月29日(土) 東京・NHKホール 【追加公演】

総合お問い合わせ:ウドー音楽事務所03-3402-5999

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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