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2015年7月以降、音楽はどのように聞こえるだろうか

山崎智之音楽ライター
2015年7月に来日するGODFLESH(ゴッドフレッシュ)

レコードやCDで音楽を聴き、音楽雑誌で新譜レビューやインタビュー記事を読み、ショップに買いに行く。

音楽の聴き方は、常に変化してきた。レコードプレイヤーからCDプレイヤー、ウォークマン、一瞬だけMD、iPod、そしてストリーミングへ。ジュークボックスからラジオ、MTV、そしてyoutubeやハイレゾへ。同じ曲を聴くのでも、メディアや場所、環境など、“どう聴くか”で異なって聞こえたりする。

2015年7月は、そんな我々の音楽生活において、ひとつの歴史のターニングポイントとなりそうだ。

この月だけで、3つの大きな事件が起こっている。この時代を生きる筆者の私見を丸出しにして、それらについて考察していきたい。

(1)Apple Musicスタート

アップル社によるストリーミング型音楽サービスApple Musicがスタートしたのは厳密にいえば6月30日で7月ではないが、あまり気にせずに。

これまで音楽データの配信サービスといえば1曲100円とかで、アルバム1枚が1,000円を超えるのが普通だった。形のない、自分の手に持てないものにそんな金は出せない!と考えていた人も少なくなかっただろうが、さすがに3,000万曲(プレスリリースによる)を980円/月で聴き放題となれば、もうさすがに無視することは出来ない。

Apple Musicに登録してみて実感するのは、そのライブラリの豊富さだ。聴きたい音楽のかなりの割合を網羅しており、パソコン上で聴くことが可能だ。

たとえば2015年7月に来日するGODFLESH(ゴッドフレッシュ)を検索してみると全アルバム、そして日本盤が発売すらされていないEPまでを聴くことが出来る。

ゴッドフレッシュの初期作品をリリースしていたイアーエイク・レコーズはレーベル丸ごと契約しているのだろうか、アンシーン・テラーやヘルバスタード、ネイキッド・シティ、OLD、ボルト・スロワー、スコーンなどもきちんと網羅されている。ちなみにカーカスの初期2枚のアートワークは死体グロジャケットのものがそのまま表示される。

20世紀の黒人ブルースもしっかり押さえられているのが嬉しい。先日亡くなったB.B.キングのように、とにかく多作なブルースマンの多くの作品が押さえられているし、決して派手ではないが激レアなブルース作品をリリースしてきたドキュメント・レコーズの「聴きたいけど、ちょっと2,000円は出せないなぁ…」というマニアックな音源の数々も聴くことが出来る。

コアなブルースメンだったら、ピンク・フロイドというバンド名の元ネタになったピンク・アンダーソンとフロイド・カウンシルがどんな音楽をプレイしていたかも、ワンクリックで聴くことが可能だ。

もちろん、Apple Musicでは聴くことが出来ない曲もある。たとえばキング・クリムゾンは映画『バッファロー’66』サントラの「ムーンチャイルド」1曲しか登録されていない。ビートルズも未取り扱いで、今後の課題となるだろう。

さらにコンピレーションで“歯抜け”になっている曲もあり、クイーン『フォーエヴァー』はマイケル・ジャクソンとのコラボレーション曲「ゼア・マスト・ビー・モア・トゥ・ライフ・ザン・ディス」のみが未収録だったりする。ジェネシスのコンピレーション『R-KIVE』もCDには収録されているマイク&ザ・メカニックスの「サイレント・ランニング」だけカットされている。

もしあなたがキング・クリムゾン命!のファンだったらApple Musicは登録する価値がないかも知れないが、とにかく最初の3ヶ月はトライアル期間として無料なので、それから決めてもいいだろう。

ちなみにユーザーがトライアル期間に聴く音源の印税はアーティストに払われなかったが、それに異を唱えたのがテイラー・スウィフトだった。現在では和解し、彼女の作品も聴くことが出来る。

気がついたところではバディ・ガイの表記が“バティー・ガイ”になっていたりするものの、いずれ修正されるだろう。

ストリーミング型音楽サービスではApple Music以外にAWA、LINE MUSICもある。とりあえずメルヴィンズを検索したところ、AWAではアトランティック・レコーズ時代のアルバム3枚しか登録されておらず、LINE MUSICに至っては1曲もなかったので、筆者には向いていないようだった。ただ、それぞれ“押しどころ”があると思うので、いろいろトライアル期間で試してみて、自分に向いたサービスを選んでみると良いだろう。

(2)NME JAPANスタート

1952年に創刊されたイギリスの老舗音楽週刊紙NME(ニュー・ミュージカル・エクスプレス)がウェブで日本版をスタートさせた

NMEの海外版としては2012年の“NMEインド”に続く第2弾とされるが、サイトnme.inは本国イギリス版にリダイレクトされるし、予定されていた雑誌版が発売されたかは不明だ。

NMEといえば昨年8月に販売部数が15,000部を下回ったと報じられ、今年9月からフリーペーパー化が発表されたところ。もはや風前の灯火かとも思われたが、日本進出という手段で起死回生を図ってきた。

サイトへの広告も見当たらず、まだ今後の明暗は見えてこないが、ニュース更新頻度はハイペースで、密度も濃い。早速11月にはジーザス&メリー・チェインの『サイコキャンディ』完全再現来日公演を企画するなど、攻めの姿勢を見せている。

名盤アルバムをフィーチュアする“NME ICONIC ALBUM”ライヴ・シリーズ第1弾とのことで、第2弾、第3弾にも期待したい。

(3)ディスクユニオン大阪店オープン予定

ディスクユニオンといえば東京・神奈川・千葉・埼玉で展開する、今や日本最大のレコード/CDショップ・チェーンだ。関東在住の音楽ファンでお世話になったことがない人はいないほどだが、満を持して2015年11月、大阪に進出することになった

正確な場所はまだ明らかになっていないがウェブサイトのアルバイト募集によると、勤務地は大阪市北区堂山町だ。阪急梅田駅から徒歩6分という好立地となる。大阪クラブクアトロや梅田AKASOなど、ライヴハウスも多い地域であり、はたして大阪の音楽地図をどう変えていくか、期待される。

さらに大阪店が成功すれば将来的にディスクユニオン名古屋店!ディスクユニオン札幌店!ディスクユニオン那覇店!ディスクユニオンハワイ店!...など、夢は広がるばかりだ。

音楽はどう聴いても音楽だ。その意味ではレッド・ツェッペリンの歌う”The Song Remains The Same”が正しいのだが、誰と聴くか、どんな状況で聴くかもまた、音楽の一部である。

2015年7月以降、音楽はどのように聞こえるだろうか。注目したい。

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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