Yahoo!ニュース

【安保報道】朝日新聞 憲法学者アンケートの結果の一部を紙面に載せず

楊井人文弁護士
朝日新聞が紙面版の詳報で載せなかった憲法学者アンケート結果の一部

【GoHooトピックス7月22日】安全保障関連法案の合憲性をめぐり、朝日新聞は7月11日付朝刊1面で「憲法学者122人回答 『違憲』104人『合憲』2人」と見出しをつけ、独自に実施した憲法学者へのアンケートの結果を報じた。回答者の大半が安保法案について違憲か違憲の可能性があると答えたことを中心に伝えていたが、「自衛隊の存在は憲法違反か」という問いに回答者の6割超の77人が違憲もしくは違憲の可能性があると回答したことを紙面版記事に載せていなかったことが、わかった。日本報道検証機構は先週、朝日新聞社に対し、紙面版記事で一部の結果を伝えなかった理由について質問したが、22日までに回答は得られていない。(追記あり、文末参照

朝日新聞7月11日付朝刊1面
朝日新聞7月11日付朝刊1面

朝日新聞は6月下旬、「憲法判例百選」(有斐閣)に執筆した憲法学者209人(故人を除く)にアンケートを実施し、122人から回答を得た。日本報道検証機構が入手したアンケート用紙には、選択式の質問5つと自由記述欄があった。このうち、7月11日付朝刊1面で結果が報じられたのは「安保法案は憲法違反にあたるか」「昨年7月の安倍内閣の閣議決定が妥当か」「砂川判決が集団的自衛権行使を認めているか」の3問。第1社会面でも大半のスペースを割いて詳報していたが、再び「安保法案は憲法違反にあたるか」「砂川判決が集団的自衛権行使を認めているか」の結果だけグラフで表したほかは、記述回答の一部を紹介していた。アンケートでは「現在の自衛隊の存在は憲法違反にあたるか」「憲法9条の改正についてどのように考えるか」についても質問していたが、朝日デジタル版の記事に短く載せただけで、紙面版の1面・社会面には載せていなかった。

紙面版記事から削られていた部分

自衛隊については「憲法違反」が50人、「憲法違反の可能性がある」が27人の一方で、「憲法違反にはあたらない」は28人、「憲法違反にあたらない可能性がある」は13人だった。憲法9条改正が「必要ない」は99人、「必要がある」は6人だった。

出典:朝日デジタル7月11日「安保法案『違憲』104人、『合憲』2人 憲法学者ら」より

画像

自衛隊について違憲または違憲の可能性があると答えた77人は、安保法案についても違憲または違憲の可能性があると答えたとみられる。そうすると、安保法案の違憲または違憲の可能性があると答えた119人の過半数が、自衛隊の存在についても違憲またはその可能性があると答えていたことになる。

朝日新聞7月11日付朝刊35面(第1社会面)
朝日新聞7月11日付朝刊35面(第1社会面)

他方で、自衛隊を違憲ではないと答えた学者は28人いたが、安保法案を違憲でないと答えたのは2人だけだった。自衛隊「合憲」論者の圧倒的多数もまた、安保法案も違憲またはその可能性があるとの見解を示していたことがわかる。

また、50人が自衛隊について明確に「違憲」を答えたが、9条改正は「必要がある」と答えたのは6人だけだった。この6人が自衛隊に合憲性についてどのような見解を示したのかは不明だが、自衛隊を「違憲」と指摘した学者の大半が、改憲は不要との見解を示したことがわかる。

憲法学者へのアンケートは朝日新聞以外にテレビ朝日と東京新聞も実施しているが、いずれも回答者の大半が安保法案を違憲またはその可能性があると答える結果となっている。自衛隊の合憲性について質問したのは朝日新聞だけだった。

朝日新聞は7月17日、デジタル版で、実名公開を承諾した憲法学者の記述回答全文を公表(22日には選択式回答も公開)。中には「これまで憲法学者の意見など気にもかけてこなかったにもかかわらず、にわかにアンケート調査を行うようになったマス・メディアにもたいへん驚いております」(塚本俊之・香川大教授)といった指摘や、次のようにアンケートのあり方に疑問を示したものもあった。

井上武史・九州大学准教授の回答欄の「附記」

おそらく、貴社の立場からすれば、このアンケートは、憲法学者の中で安保法制の違憲論が圧倒的多数であることを実証する資料としての意味をもつのだと思います。しかし、言うまでもなく、学説の価値は多数決や学者の権威で決まるものではありません。私の思うところ、現在の議論は、圧倒的な差異をもった数字のみが独り歩きしており、合憲論と違憲論のそれぞれの見解の妥当性を検証しようとするものではありません。新聞が社会の公器であるとすれば、国民に対して判断材料を過不足なく提示することが求められるのではないでしょうか。また、そうでなければ、このようなアンケートを実施する意味はないものと考えます。(朝日デジタル7月17日掲載より)

【追記】

7月23日、朝日新聞社広報部は当機構の質問に対し、「紙幅の制約で、すべての回答を載せられないこともあります。デジタル版では掲載しています。アンケートの中心である安保関連法案について、憲法学者の方々の意見を適切に紹介できたと考えています」と回答した。22日、デジタル版で選択式を含め実名の回答全てが公開され、選択肢別の回答者数も掲載された(朝日デジタル・安保法案学者アンケート)。

このアンケート結果から実名回答者(85人)の回答を調べたところ、安保法案は「違憲」と答えたのは72人で、このうち自衛隊の存在を「違憲」と回答したのは42人、「違憲の可能性がある」は16人、「違憲にあたらない可能性がある」は6人、「違憲にあたらない」は8人だった。自衛隊は「違憲にあたらない」(合憲)と答えたのは19人で、このうち安保法案を「違憲」と答えたのは8人、「違憲の可能性がある」は8人、「違憲にあたらない」は2人、無回答1人だった。

自衛隊を「違憲」と回答した42人のうち、9条改正について「必要がある」はゼロ、「必要がない」は39人、無回答は3人だった。

画像

(2015/7/23 16:45追記、18:25更新)

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長を6年近く務め、2023年退任。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』を出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。翌年から調査報道NPO・InFactのファクトチェック担当編集長を1年あまり務める。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

楊井人文の最近の記事