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福島県内モニタリング「線量低下で停止」は誤報 東京新聞、社説を訂正

楊井人文弁護士
モニタリングポスト(福島県下郷町)(写真:アフロ)

【GoHooレポート3月12日】東京新聞(中日新聞)は2月26日付朝刊で「フクシマから考える(上)声なき声が叫んでいる」と題する署名入り社説を掲載した。その中で、避難指示の解除が間近となっている福島県南相馬市小高区について取り上げたうえで、「小高駅前など県内各地のモニタリングポストが『線量が下がった』ことなどを理由に作動を止められている」との記載があった。しかし、運用が停止したのは県内にあるモニタリングポストのうち、昨年福島県が独自に設置した装置だけで、当初予定した性能が確保されない問題が発生したことが原因。すでに別の業者の装置を設置し、再開の準備が進められているし、他の稼働中のモニタリングポストの測定結果は日々公表されている。東京新聞は日本報道検証機構の指摘を受け、3月12日付朝刊の社説欄に「『機器に問題が発生した』の誤りでした」とする訂正記事を掲載した。ニュースサイトの記事も同日、該当部分だけ上書き修正された。(*)

東京新聞2016年2月26日付社説
東京新聞2016年2月26日付社説

「フクシマから考える」と題する社説を担当したのは、佐藤直子論説委員。政府が原発周辺の帰還困難区域を除く全区域を避難解除にする方針であると指摘したうえで、「解除目安の被ばく線量を年間最大20ミリシーベルトまで緩和するなど、政策は被災者本位になっていない」と批判。小高駅前で旅館を再開する小林さん夫婦を取材し、モニタリングポストが「線量を下がった」ことなどを理由に作動を止められているとの記述に続けて、「『誰のための情報か。状況を正しく知りたいんだ』と小林さんは憤る。住民は目隠しされることを望んでいない。小さな声として押しつぶしてはならない」と結んでいた。しかし、誤った情報を前提としたとみられる小林さんのコメントやその後の記述も訂正されていなかった。

東京新聞2016年3月12日付朝刊5面(社説欄)
東京新聞2016年3月12日付朝刊5面(社説欄)

福島県は昨年4月、新たにリアルタイム線量測定システム77台を小高駅前広場など避難指示区域に設置したが、装置の不具合が多発したとして納入業者との契約を解除し、運用を中止。当時、福島民報や河北新報など地元紙が報じていたほか、福島県のウェブサイトでも説明されていた。一方で、今年4月からの運用開始に向けて再整備を図るとし、昨年11月に新しい業者を決め、今年2月15日から新しい装置の設置を始めていた(河北新報の報道)。

放射線量のモニタリングは、政府が原発事故後に策定し、毎年改定している「総合モニタリング計画」に基づいて実施することになっており、測定結果は原子力規制委員会のウェブサイト福島県のウェブサイトで今も毎日更新されている。2月10日に原子力規制委員会が今後について「可搬型モニタリングポストによる福島県内全域の空間線量率を中長期的に把握するためのモニタリング体制は維持しつつ、リアルタイム線量測定システムによる測定については、今後は避難指示区域等を中心に継続する」と見直しの方針を示したものの、運用停止をするとは全く言っていなかった。

(*) 当初「ニュースサイトの記事はまだ訂正されていない」と記していましたが、該当部分が修正されていることが確認されたため、記述を修正しました。(2016/3/12 13:40追記)

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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