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集団移転「提案」は誤報 熊本・西原村の抗議で朝日新聞が訂正

楊井人文弁護士
熊本地震で大きな被害を受けた西原村布田地区(8bitNewsより)

【GoHooレポート6月2日】朝日新聞は5月30日付朝刊で、熊本県西原村が熊本地震で大きな被害を受けた7地区に集団移転を提案する方針を固めたと報じた。しかし、西原村は、ウェブサイトで「提案」の事実を否定し、誤報だとして強く抗議したことを明らかにした。朝日新聞は「集団移転を提案する方針を固めた」は「集団移転の検討を始めた」の誤りだったと認め、6月2日付朝刊で訂正した。

朝日新聞2016年5月30日付朝刊(西部本社版)1面
朝日新聞2016年5月30日付朝刊(西部本社版)1面

朝日新聞は5月30日付西部本社版の朝刊1面トップに「西原村、集団移転提案へ 熊本地震初 7地区150世帯に」と見出しをつけて「特ダネ」扱いで大きく報道。第1社会面にも対象地区の住民の思いなどを伝える記事を掲載した。東京本社版は、第2社会面で「西原村、集団移転提案へ 熊本地震 活断層付近の7地区」とやや小さい扱いで掲載された。

西部本社版1面記事のリードは、次のように書かれていた。

熊本地震の本震で震度7に襲われた熊本県西原村が、被害の大きい7地区に集団移転を提案する方針を固めた。付近に活断層が通っていることなどから、将来的に住むのが難しいと判断したためで、6月1日に住民説明会を開く。その後、地区ごとの住民の意向を確認し、同意が得られれば移転候補地の選定に入る。

熊本地震で、集団移転について検討しているのが明らかになったのは初めて。…(以下、略)…

出典:朝日新聞2016年5月30日付朝刊西部本社版1面

同じ記事には、「集団移転には時間がかかり、70歳以上の住民に家を建てる元気があるかもわからない。住宅の問題は早急に手をつけた方がいいと判断した。活断層の活動の危険性もあり、集団移転の検討を始めた」という日置和彦・西原村長のコメントも載せていた。

朝日新聞2016年6月2日付朝刊(西部本社版)第2社会面
朝日新聞2016年6月2日付朝刊(西部本社版)第2社会面

これに対し、西原村はウェブサイトに「誤報!『集団移転提案』という記事について」と題する記事を載せ、集団移転「提案」の事実を否定したうえで、「説明会」については「風当地区の区長様より『集団移転とはどのようなことなのか地区住民に説明をしてほしい』という要望により、行われるものです」と指摘していた。

西日本新聞によると、西原村は6月1日、集団移転や生活再建に関する説明会を開き、日置村長が「村は集落を分断するような提案はしない。みなさんで協議を重ねて判断してほしい」と話したという。朝日新聞の「提案」報道を念頭に置いたものとみられる(西日本新聞6月2日付朝刊記事)。

朝日新聞は6月2日付で訂正記事を出したが、西部本社版や熊本地域面には、1日に行われた説明会に関する記事はなかった。

動画投稿ニュースサイト「8bitNews」は、朝日の報道が出た5月30日、地震で大きな被害を受けた西原村布田地区などを上空から撮影したとみられる投稿映像を掲載。「集団移転」報道が先き走ったことで地元住民が困惑しているとの古閑地区長、志賀さんの話も伝えた。志賀さんは朝日の取材も受け、西部本社版社会面の記事に登場していた。

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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