「引き寄せの法則」を脳のワーキングメモリで考える
「引き寄せの法則」という言葉をご存知ですか。同名タイトルの書籍、アメリカで社会現象とまでなったベストセラー「ザ・シークレット」。世界で7000万部以上売れているナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」などに出てくる法則、メソッドとして有名です。
私は経営コンサルタントですから、常に「再現性」を考えます。何事も論理的に正しいかどうかで検証したくなる性格です。したがって「念ずれば夢は叶う」という意味合いで捉えると、精神世界の話になってしまうため受け入れづらい発想となります。しかし「引き寄せの法則」で言われるような現象は、実際には起きます。「再現性」のある話です。今回は脳の「ワーキングメモリ」を使って、「引き寄せの法則」を解説していきたいと思います。
「引き寄せの法則」とは、簡単に言うと、何らかの実現したい願望を、仔細に、そして強く念じていることで現実化することです。あたかも引き寄せられるように、その願望が実現するため、「引き寄せの法則」と呼ばれます。
当たり前ですが、すべての願望が実現するわけではありません。もし実現するなら秩序は崩壊し、世界はメチャクチャになってしまいます。単なる「可能性」の話であり、実現したい願望を詳細にイメージし続けることで、その夢が結実する可能性が高まる、ということです。もちろん、可能性が高まるだけとはいえ、魅力的な法則であることは紛れもない事実です。
さて「脳のワーキングメモリ」の話をする前に、人間の脳が処理するデータの記憶装置について、簡単に解説しましょう。ここでいう記憶装置とは、「短期記憶」「長期記憶」「外部記憶」の3つです。「短期記憶」とは、いわゆる「ワーキングメモリ」のこと。情報を処理するために常に格納しておく作業記憶装置です。「長期記憶」は、長い歳月をかけて蓄積してきた知識の図書館のようなもの。「外部記憶」とは、何らかのヒントを言われても思い出せず、人間の脳の外にある記憶装置。資料やシステムのデータベース上に存在します。
月並みですが、「引き寄せの法則」を体現したいのであれば、まずは実現したい願望を、手帳や紙に書き出すことです。これが最初のステップです。詳しくイメージできるように、五感をフルに使って表現するとより良いでしょう。
この、願望を書き出したメモが「外部記憶」になります。しかし「外部記憶」に格納されているため、このデータは普段処理されません。したがって、次にすべきことは、「長期記憶」にデータを転送することです。願望メモを見なくとも、書き出したすべてのデータをいつでも抽出できる状態にするのです。
「あなたの実現したい願望は何ですか?」
と質問されて、
「そうですね。お金持ちになりたいですね」
というだけでは「引き寄せの法則」は働きません。
「ええと……。何だったかな。詳しくはメモに書いてあるので、メモを見ないとわからないです」
という状態でも、うまくいかないでしょう。
「あなたの実現したい願望は何ですか?」
と質問されたら、
「そうですねェ……」
とまずは考えます。自問自答をするわけです。この「自問自答プロセス」は、脳の「長期記憶」から「短期記憶(ワーキングメモリ)」へとデータ転送をしていることを意味します。「ワーキングメモリ」にデータが転送終了したら、正しく返答ができるようになります。
「私の実現したい願望は、お金持ちになることです。そして私が考えるお金持ちとは、年収1億円の状態を10年以上続けることです。5年以内に年収1億円までは到達し、それからは海外のどこかで不動産を購入します。そこに学校や病院を建てて、何らかの事情で困窮している人たちの役に立つような事業を始めます。また、海外サッカーが好きなので、1年の半分はヨーロッパリーグを観戦してまわり、そこで知り合った人と朝までサッカーについて熱く語り尽くすような生活を実現させます。そのときには3ヶ国以上の外国語を流暢に操る人になっていますので、外国の友人がたくさんいるのです」
現在は年収300万円の、24歳ぐらいの会社員がこのような願望を語ると、ドン引きする人も多いことでしょう。「バカなことを言ってないで現実を見ろ」「世間知らずのくせに青臭い夢など語るな」と言う人が出てくるかもしれません。(こういう人たちを『ドリームキラー』と呼びます)しかし程度はどうあれ、「引き寄せの法則」は、まずこのように自分の実現したい願望を詳しくメモに書き、それを何度も目にして覚えることから始めます。
何度も何度も自問自答します。「私はどんな願望を持っているのか?」「私はどんな夢を実現したいのか?」……この「自問自答プロセス」が、脳の「長期記憶」から「短期記憶(ワーキングメモリ)」へとデータ転送を手助け、いずれそのデータが「ワーキングメモリ」内に常駐するようになっていくようになるのです。
まさにこの状態が、潜在意識を味方につけている状態と言えます。いったんワーキングメモリにデータが常駐されたら、常にそのデータを想起して脳が処理しようとしはじめます。
長期記憶に入っていたときは休眠状態だったのが、常にグルグル回転している運行状態に変わったため、実現したい願望イメージに対する感度(認知度)が極端にアップします。目にするもの、耳にするものを漏れなくキャッチし、勝手に情報処理をしようします。
願望実現するために、これまでは自分を奮い立たせようとしたり、やる気をアップさせるために苦労したかもしれません。しかし、脳のワーキングメモリに常駐されると、テレビを観ているときでも、歩いているときでも、誰かと飲んでいるときでも、常に脳がデータ処理をしています。夢にまで出てくることもあるでしょう。まさに「寝ても覚めても」という状態にシフトチェンジするのです。
テレビを何となく観ていたら、不動産事業で成功した人の話が出ていた。誰かと飲んでいたら、海外で恵まれない子どもたちを支援している経営者の会があると聞いた。友人のまた友人がブラジルへサッカー留学した……など、自分が常に意識している願望イメージに近い情報を無数にキャッチし、自然と体が動き始めます。
誰かのことを好きになり、明けても暮れてもその人のことを想ってしまう経験がある人は理解できるでしょう。スポーツでもゲームでも、何かに夢中になった経験があれば、誰でもわかるはずです。願望イメージを脳のワーキングメモリに常駐させることで、自然と体が動くのです。努力を努力だと思わなくなります。頑張ろうと思って頑張るのではなく、信じられないほど体が軽くなって、これまで無理だと思っていたことがストレスなく処理できるようになっていきます。
「引き寄せの法則」は、夢や願望が自分のほうへと引き寄せられるのではなく、自分自身がその夢や願望に引き寄せられるほどに行動するようになる、ということなのです。
高度情報化時代になった今、あまりにも情報が多すぎて、情報洪水に流されている人が多いのが現実です。願望実現に不必要なノイズがワーキングメモリ内を占めているため、多くの人が精神の余裕を覚えることがありません。願望実現に向かって何も行動していなくても、なぜか忙しいのです。目の前のことで時間がないような感覚を常に味わい、いっぱいいっぱいと感じています。絶対的な時間に余裕がないのではなく、自分の脳のワーキングメモリに余裕がないのです。
ワーキングメモリを鍛えることです。そうすることで、願望実現にムダなデータを吹き飛ばし、必要な情報だけを引き寄せて処理しようとするからです。