会話の「ゆがみ」3種類を解説する
私は企業の現場に入り込んで目標を「絶対達成」させるコンサルタントです。組織で目標を「絶対達成」するというわけですから、相互コミュニケーションのクオリティが強く求められます。会話がゆがんで、「話が噛み合わない」「話がややこしくなる」「話にならない」……といった現象が起こると、達成できる目標も達成できません。
みんなマジメに仕事をしていても、会話の「ゆがみ」があると、話が前に進まないのです。それでは、会話の「ゆがみ」について種類別に解説していきます。「ゆがみ」は3種類に大別できます。
● あさっての方向
● 早とちり
● 上から否定
次に、会話がゆがむ特徴的なフレーズを書き出してみます。
● あさっての方向→ 「ところで、~といえば……」
● 早とちり→ 「要するにアレでしょ?」
● 上から否定→ 「~すればいいってもんじゃない」
このようなフレーズを使って、それぞれの会話事例を紹介しながら解説したいと思います。まずは「あさっての方向」から。
妻:「あなた、今日の夕食、何を食べたい? 山田さんからジャガイモをもらったんだけど」
夫:「うーん……。今日の夕食かァ……」
妻:「ひき肉もあるから、コロッケでも作ろうか。子どもたちも喜ぶし」
夫:「そうだなァ……。ところで、山田さんといえば、あそこのおじいちゃん、大丈夫か?」
妻:「え?」
夫:「ホラ、先月入院したって聞いたじゃないか」
妻:「ああ、そういえば……」
話の論点は「夕食のおかずの相談」であったはずなのに、「山田さんとこのおじいちゃんの容態」へと論点がずれていってしまいました。いわゆる「話がずれていく」という現象です。夕食よりも、山田さんというキャッチワードに意識を向けた夫は、話を「あさっての方向」へとそらしてしまったのです。
次は「早とちり」。
妻:「あなた、うちのリフォームのことで相談があるんだけど」
夫:「リフォーム? もう見積りをもらったじゃないか」
妻:「そうなんだけど、リフォーム会社の営業の方がいらっしゃって、いろいろと言ってくるのよ」
夫:「要するにアレだろ? あの見積りじゃあ本当は間に合わない。もっと金額は高くなるとか言いだしたんじゃないのか」
妻:「そうじゃなくて……」
夫:「営業なんて、どこの会社も同じだよ。見積りを出してからあーでもないこーでもないと言い出すんだ」
妻:「あなた、そうじゃなくって……」
「早とちり」とは、十分な情報をまだ入手する前から、強い先入観によって誤解してしまうことです。事前知識がないまま会話していると、多くのケースでこの現象が起きます。
以前、芥川賞を受賞した作家に「芥川賞受賞おめでとうございます! 次はいよいよ直木賞ですね」と質問したテレビキャスターがいました。世間から失笑されたのは言うまでもありません。まさに事前知識が欠落したままで会話した事例です。強い先入観によって「早とちり」「誤解」が生じると「話が噛み合わない」という現象に陥ります。
最後に「上から否定」です。
妻:「あなた、カズキを英会話の学校へ行かせたいんだけど、いいよね? もう手続きしようと思って」
夫:「え、英会話の学校? どうして俺に相談もなく決めたんだ。学校へ行かせればいいってもんじゃないだろう。それで英語が上達するのか?」
妻:「高校の先生も、通信教育でやっているより学校へ通ったほうが一番効率がいいだろうって」
夫:「お前は簡単に言うけど、だいたい、どこにそんなお金があるんだ?」
妻:「今やっている通信教育を途中解約すれば、負担は変わらないわよ」
夫:「じゃあ、誰がカズキを英会話学校へ送り迎えするんだよ。どうせ俺が車で送り迎えしなくちゃならなくなるんだろ? 俺はそれが言いたいんだよ」
妻:「えええ……」
この夫は、まず「英語が上達しない」という観点から英会話学校へ通うことを否定しています。しかしそれが打ち消されると、次に「英会話学校へ通わせるお金がない」という言い分を持ち出します。しかし、それも打ち消されると、今度は「英会話学校へ送り迎えにいくのが大変だ」という主張をはじめました。理屈がドンドン変わっているので、まさに【会話がゆがんでいる】という状態です。
夫はもともと自分に相談もなく物事を決めた妻の姿勢にしっくりこないだけです。その結果、とにかく「否定」という立場をとり続けたため、言い分はまったく論理的ではありません。ですから妻は「理不尽さ」を感じるはずです。「論理的」の反意語が「理不尽」だからです。
これまで、「あさっての方向」「早とちり」「上から否定」の3種類を紹介しました。これらの「ゆがみ」の整え方は、この順番に難易度が上がっていきます。
「あさっての方向」に話がずれていってしまっているのであれば、話の論点からずれていることを双方が確認すれば元通りに戻ります。しかし「早とちり」の場合は、どうでしょうか。相手が強い先入観を持っていたり、事前知識が足りない場合は、正しい情報を補って誤解を解くことが必要になります。しかしこれが意外と難しいのです。「上から否定」の場合は、もっと困難です。相手が「否定ありき」の態度を改めない限り、「話にならない」状態が続きます。会話の内容ではなく、関係構築から再スタートすべきかもしれません。
世の中には「話し方」「伝え方」「聞き方」「文章の書き方」「プレゼンのうまいやり方」……など、いろいろなコミュニケーション技術が存在します。しかし。どんなにトークが上手でも、どんなにポスターのキャッチコピーがカッコよくても、受け手が何らかのフィルターを通して情報をキャッチしていると、話が噛み合いません。
高度情報化時代となり、「一方通行」的な情報配信が激増しました。しかしコミュニケーションは本来「双方向」であるべきです。リアルタイムに会話をキャッチボールさせることで、お互いの誤解がなくなり、話を噛み合わせることができるのです。今の時代、何らかの目標を達成させようとしたり、問題を解決しようとしたときは、どう話すか、どうプレゼンするか、どう書くかを学ぶよりも、会話の「ゆがみ」の整え方を知るほうが、はるかに重要なのです。