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迫る東京都議選 1番手に「都民ファーストの会」=JX通信社 都内世論調査

米重克洋JX通信社 代表取締役
支持率67%、新党結成にひた走る小池知事の「賭け」の結果はー(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

いよいよ今夏に迫った、2017年東京都議会議員選挙。7月2日の投開票日程が正式に決まり、都議会には知事与党会派「都民ファーストの会」が設立されるなど選挙ムードが急速に強まっている。このタイミングに合わせて、筆者が代表を務める報道ベンチャーのJX通信社では、21日・22日の両日、都民対象のものとしては今年初の世論調査を実施した。

※注:JX通信社は共同通信グループなど他の報道機関との資本関係があるが、今回の調査は自社調査サービスの準備企画として単独で行ったものであり、他社とのデータの交換や提供などは一切行っていない。

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調査の概要はこの図の通りだ。RDD方式による電話調査の結果得られたデータに定性的な情報や過去の選挙結果を加味して情勢を探った。この方法による調査は一昨年からここYahoo!ニュース上の記事で紹介している通り、首長選、衆院補選、参院選などで繰り返し実施している。

今回の世論調査のポイントは下記の通りだ。

・知事の支持率は依然7割近い高水準

・豊洲、五輪の2大問題でも知事の対応を評価する声が8割前後と圧倒

都民ファーストの会は第一党の勢い、投票先に挙げた人は自民の2倍以上

・自民の数字は、内田前幹事長も落選し第一党を民主党に譲った2009年以来の惨敗を示唆

・党派・政策を問わず多くの支持を集める小池知事の「信任投票」に?

小池知事支持率67%=不支持は10%にとどまる

今回の調査で小池知事を「支持する」と回答した人は67%に達する一方、「支持しない」と答えた人は10%に留まった。知事は30代以上の全ての年代で過半を大きく超える支持を集めており、都議選に「大いに関心がある」層に絞った支持率では74%に達している。現時点では、都議選の投票に行く可能性の高い層からより強く支持されている実態がある。

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その知事が就任以来取り組んで注目を集めている、築地市場の豊洲への移転問題と2020年東京五輪の予算・費用負担の2大問題についても聞いた。豊洲問題への小池知事の対応は84%、五輪関連の問題への対応については80%がそれぞれ肯定的に評価している。その中でも「高く評価する」とした層はそれぞれ4割前後に上っている。

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東京五輪については、知事側が都外の施設使用を模索するも最終的に断念するなど必ずしも目論見どおりの着地となっていないものの、世論からの支持にはそれほど大きなダメージはないようだ。

争点は豊洲でも五輪でもなく「小池」

だが、夏の都議選で投票する際に重視する政策課題(争点)を聞くと、意外な側面が見えてくる。

実は、有権者は豊洲新市場への移転問題や五輪の問題を主要な争点とみなしていないのだ。

今回の調査で、有権者に「投票の際に重視する政策課題」を聞いたところ、結果は1番手から順に「経済」「福祉」「教育」の順となり、「豊洲」や「五輪」を挙げた人の数は7・8番目に留まった。

投票の際に重視する政策課題(争点)別の知事への支持動向
投票の際に重視する政策課題(争点)別の知事への支持動向
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ここで注目したいのが、有権者が主要な争点とみなしている全てのテーマで、小池知事への支持が圧倒的に多いという点だ。言い換えると、政策課題の内容に関わらず知事の支持率がかなり高い傾向がある。これが現在の小池都政を支える世論の特異なポイントだ。

例えば、同じ「都市型政党」でも、大阪維新の会の候補の場合は、教育・子育てなど若年層、現役世代寄りの政策で強く出やすい一方、福祉など高齢者世代向けの争点では弱くなる傾向がある。小池知事の支持動向にはそういった争点や世代別の「差」は少ない。今後在任期間が伸びるにつれこうした傾向は変わり得るが、今はまだその兆候が殆ど見られない。その意味では、現在はシンプルな「期待感」や「イメージ」で支持獲得が先行していると解釈できる。

政策課題を問わず知事の支持率が高いこと、「豊洲」「五輪」はこれだけクローズアップされながらも有力な争点に浮上していないことは、つまり事実上最大の争点が「小池知事自身」であることを示す。要は、まず「小池印」へのイエス・ノーがあって、その後に政策ー というのが有権者の現在の心理ということだ。

その情勢下においては、都民ファーストの会は例えば大阪で言う都構想のような利害対立の起こり得る個別政策をあえて打ち出さない方が、議席数を最大化できる。加えて敵対勢力からすれば、就任1年足らずの知事を相手に政策の功罪を問う議論も難しい。「豊洲」もハードランディングする時期は知事自身が選択可能であり、現下の状況で6月以前に問題が決着するとは考えにくい。これらを踏まえると、実質的な政策論争は薄いまま、ほぼ「構図」だけで結果が決まりそうだ。

従って、この情勢のまま推移すれば、実質的には都議選は「小池知事への信任投票」になる。知事与党たる「都民ファーストの会」は難なく改選第1党になるだろう。

反小池で「受けて立つ」?自民や維新は窮地に

一方で、「豊洲」「五輪」の2大問題は有力な争点にはならずとも、都知事の人気の牽引力になっていることは事実だ。小池知事は、最終的に豊洲新市場への移転という着地を目指している節がある築地市場の移転問題はともかくとして、五輪関連では国との費用負担分担のあり方などを巡って新たに問題提起するなど、今後も注目を集める動きにあえて踏み込むことも考えられる。

これらの動きのなかで最大の「標的」になりそうなのが、都議会自民党だ。

今回の調査で「国政における支持政党」を聞いたところ、自民党を挙げた人は32%、どの政党も支持しないいわゆる無党派は42%となり、無党派と自民が大きなボリュームの層となる点は概ね他地域と共通している。しかし、夏の都議選での投票先を聞いたところ、この数字は一変した。満を持して1位に躍り出たのは、いわゆる小池新党「都民ファーストの会」で38%。2位の自民党は国政の支持率からは大きく減らして15%に留まった

国政政党の支持率と、都議選での投票意向は大きく異なる(上図)
国政政党の支持率と、都議選での投票意向は大きく異なる(上図)

ちなみに、過去の都議選の出口調査(朝日新聞)によると、2009年の都議選では自民党の支持率は28%(うち6割が自民に投票)、2013年の都議選では37%(うち8割弱が自民に投票)したとされる。

つまり、現在の支持率が32%、うち都議選で投票意向が15%にとどまるというのは内田茂前都連幹事長も落選し惨敗となった2009年以上に厳しい敗北を示唆する数字なのだ。2009年は改選48議席に対して38議席の獲得に留まり、7つある1人区のうち6選挙区で敗北。第一党の座を民主党(34議席→54議席)に明け渡した。

無論、朝日新聞の出口調査はあくまで「投票に行った人」が対象であり、無党派を中心に電話世論調査より数字が減殺されること、そもそもの調査選挙区の限定、更には今回の我々の調査とは実施主体、方法、設問のいずれもが異なるといった諸々の前提を念頭に置く必要がある。ただ、それを差し引いても、知事選同様に自党の支持層を大きく削り取られ、且つ無党派の取り込みも難しくなる自民党には、かなり強い逆風が吹きそうだ。

それを自覚するかのように、自民党都連の下村博文会長をはじめとする都連幹部は牽制になだめすかしにと争点潰しに必死だ。

6日には「自民党や既存政党とどこが違うのかを明確にしなければ、争点にならない」と発言したかと思えば、12日には都議会自民党会派を離脱した都議3人を処分せず党公認候補として支援するとも伝えられた。

同じく自民党出身の川井重勇都議会議長は、前出の都議3人の新会派結成の届け出を自ら受け取り「とにかく頑張って」などと声をかけたという。「戦いは受けて立つ」と述べるなど強気な二階俊博幹事長とは対照的に、下村氏や川井氏など自民党都連側は3人の「脱走兵」をフェアウェルパーティよろしく送り出す姿勢にすら見える。小池氏を支援して除名となった7人の豊島・練馬区議への除名処分とはあまりにも落差が大きい。

棲み分け?対立?野党の「生存戦略」

無論、厳しいのは自民党だけではない。今回の調査では、自民から共産まで全政党で、小池氏支持が不支持を上回るという「勢い」が確かめられた。そして、都民ファーストの会は主に自民党と無党派のそれぞれ半分弱に加え、民進党や日本維新の会の支持層から投票意向を集めている。

加えて前述のように争点は豊洲でも五輪でもなく「小池」という情勢が変わらなければ、民進、維新などの各党にとっては「小池支持」で都民ファーストの会と棲み分けるのがほぼ唯一の生存戦略になる。しかし、棲み分けるにしても都議選での投票意向が国政支持率を上回る既成政党はほぼ共産党だけというであり、既成政党は支持層が素直に党の候補に投票してくれないジレンマに陥るだろう。

その意味では、これまでに36人を公認した民進党の蓮舫代表が小池氏に全面協力の構えで選挙協力を求めていることは、良し悪しは別として理にかなっている。一方、支持層を既に奪われ気味の維新は、小池知事との対決姿勢が先鋭化すると議席獲得はおろか、都議会から完全に足場を失いかねない。その意味では、自民以上に危機的な状態とも言える。元祖・改革都市政党としてのプライドや自民・官邸サイドとの関係維持をとるのか、都知事選のことはあえて忘れて現実的な議席確保を優先するかー という、ある種の「人間模様」も各党の選挙結果に大きく影響しそうだ。

JX通信社では、今後も定点観測的に調査を実施して、情勢分析をアップデートしていく。

JX通信社 代表取締役

「シン・情報戦略」(KADOKAWA)著者。1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、テレビ局・新聞社・通信社に対するAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど、「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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