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2016 ドラフト候補の群像/その7 山本洋行[新日鐵住金東海REX]

楊順行スポーツライター
雑誌『ホームラン』毎年恒例のドラフト号が発売になりました

大産大4年の春だ。山本洋行は、ふとしたきっかけで飛躍した。

「ピンチの場面、いきなりなんですが、これまで見たことがないくらい、マウンドからの視野が広くなった。すると、一人ずつ抑えれば0でいけると、すーっと冷静になれたんです。それまでは、ピンチになると思い切って腕を振れなかった。練習試合でも、打たれ出すと止まらないクセがあった。ただ、自分とではなく打者と勝負するんだ、と考えることで、だんだん怖さがなくなりました」

神戸北高校時代からピンチに弱いといわれ続けてきたが、それを克服する進化。その春のリーグで5勝をあげると、秋も4勝すべて完封で、防御率はいずれも1点台。連続ベストナインを獲得した。大学通算では、2年の春から18勝を積み上げている。ただし、

「同リーグだった酒居(知史・現大阪ガス)には、一度も勝てていないと思います(笑)」

社会人ルーキーだった昨年は3月のオープン戦から登板し、東海地区春季大会ではヤマハ戦に先発して7回を0。以後、チームで最多イニングを投げる投の柱に成長していく。中村淳監督によると、

「球がベース上でグッと走る。終速が落ちないので、まっすぐで勝負できるピッチャーです。それと、気持ちも強いですよ。ふだんはやさしいが、マウンドでは別人になります。プロになりたい、と強い意志を持っているのもいいですね」

最速147キロも落ちない終速

ただ本人は、1年目にそれほど手応えがあったわけじゃない。最速147キロのストレートには自信があるが、相手どうこうよりも、自分が納得のいく投球がまだできていないのだ。ことに終盤につかまるのは、抜け球やシュート回転が多くなるのが一因で、スタミナや筋力アップが課題と指摘される。

「トレーニングはしてきたつもり。体重は6キロ増えましたし、1年目に作ったスーツがパツパツになりました」

という今季、チームは都市対抗出場を逃したが、山本本人はヤマハに補強されたのは成長の証だろう。自チームではないが、目標としてきた東京ドームのマウンドも経験した。チーム事情で抑えに回りながら、日本選手権予選では見事な火消しを見せ、4大会ぶりの出場に導いている。

「プロ野球では、黒田(博樹・広島)投手が好きです。闘志は内に秘めながら、気力で押して頼りになる」

高校時代は野手として1年夏からベンチ入りし、2年時から主戦。その冬には兵庫県選抜でタイに遠征し、同じメンバーだった岡本健(当時神戸国際大付、現ソフトバンク)に刺激を受けた。だが、高校では3年春のベスト8が最高成績で、夏は初戦負け。一部では注目されながらも、中央では無名の存在にすぎなかった。成長を遂げた大学時代にも、プロ志望届を出しながら朗報は届いていない。ドラフト上位候補の酒居と、ふたたび投げ合う日がくるだろうか。

●やまもと・ようこう/投手/1993年1月7日生まれ/175cm79kg/右投右打/神戸北高〜大産大

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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