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住民から見た福島第一原発 地域の未来を創るため「福島第一原発の廃炉」と向き合う

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事

全国ニュースで福島第一原発の廃炉について触れる機会は、一時期に比べ大分少なくなってきました。それは福島第一原発の廃炉状況が、国内での大きな関心ごとではなくなってきたからではと感じています。

ですが,福島第一原発がある福島県では、今も地域一の課題として、連日地元ニュース、新聞等で報道されています。

それは一重に「私達の生活を脅かす存在」として扱われているからと言えます。汚染した雨水が福島第一原発構内から漏れたニュースは、同じ地域で暮らす方々にとってみれば、暮らしに直結する不安として受け取られています。

福島県沿岸部の地域(原発事故避難区域は除く)は一見すると、原発事故前を知らない方々から見れば「復興したと言える」外見になっています。

しかし、長年暮らす方々から言えば「復興は道半ば」という状況です。沿岸部にただ訪れただけでは目に見えない放射能不安と風評被害により、明るい将来設計が出来るような状況になったとはまだ言えないからです。

目に見えない復興の遅れや原発事故でもたらされた課題を、対話で解決し、未来を創ろうと市民から始まった取組があります。

* 対話で地域課題を可視化・共有し、課題解決の種を育てる。市民が始めた取り組み

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くつろぎながら誰もが参加できるワークショップ形式の対話の場として、「未来会議inいわき」スタートしたのは2013年1月。

震災と原発事故で起きた課題を解決し未来をつくる為のプラットホームとして、人と人、人と団体、団体と団体が出会い、ネットワークを形成するきっかけを提供されています。

ワークショップを通じての対話の場には、いわき市民だけではなく、原発事故により双葉郡からいわき市へ避難された方々や県外の方々も参加。

大人だけで話し合わず、ワークショップには高校生や中学生も参加し、子供も大人も交えた対話の場が作られています。

震災と原発事故は、被災による様々な問題とともに、被災状況や仕事、環境、価値観の相違などによる人と人の分断も福島県内外で引き起こしました。私たちは、長期的に続く誰も経験したことのない状況に直面しています。このような複雑な状況下では、異なる価値観や違いはむしろ財産であると捉え、一緒になって考える場が必要ではないかと考えました。様々な人たちが、地域もジャンルも世代も超えて出会い、感じていることを共有し、違いや問題からも気付きや学びを得る。そこから一人ひとりが一歩を踏み出し、疲れたら戻ってくることができる、そんな苗床のような場になることを『未来会議』は目指しています。(みらい会議inいわき 代表 菅波香織さん)

* 福島第一原発の廃炉と向き合う

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7月16日、いわき市内で未来会議inいわき主催「いちえふ(福島第一原発)視察報告&交流会」が開かれました。

福島第一原発を実際に視察した団体、個人が集まり、「福島第一原発の廃炉への取組」をそれぞれの視点で視察時写真を用いながら「今の福島第一原発の状況をどう感じたか、なぜ視察したか」が話し合われました。

「発電所の構内は、TVで抱いていた、瓦礫だらけ、入るのも危険といったイメージと違い、バスの車内からならば、普段着に簡易的な装備で視察出来ることに、想像以上に改善が進んでいると感じました。ですが普段の恰好で視察する私達の向こう側で、防護服を着、マスクをつけて作業される方がいて、私達にとっては「非日常」が「日常」の方々いることを知り、同じ地域で暮らす人間として知らずにいたことを恥ずかしいと感じ、それと同時に大きな感謝を抱きました。」

「地域がら第一原発で働いている人と話す機会があります。彼らから実際に聞く話とマスコミから聞く情報では食い違う部分が多くありました。自分の目で確認したいと思い視察しました。発電所の港湾を見た際に、今も津波の爪痕が残っていた。見る事で本当に発電所に津波が来て原発事故が起きたことに恐怖感を感じました。」

「漁業関係者として福島第一原発を視察しました。視察した理由は行政、東京電力の情報が信用できないからです。自分の目で見なければいけないと思いました。汚染水のトラブルを聞くにつけ憤りを感じます。ですが、実際に働く方を目にしたことで、大変な仕事をしてくれている事に感謝していますし、協力出来ることはしていかなくてはいけないと感じています。」

「増え続ける汚染水タンクに、いつかは敷地内で収まらないのではと不安になりました。そしてその汚染水は将来どうしたらよいのか。廃炉というが自分には事故処理に見えました。廃炉という概念はどうなった時に廃炉と言えるのか。更地にするような事を想定すれば途方もなく、本当に出来るとは思えませんでした。」

働く方への思いを抱く方もいれば、現場作業への不安、不信感もある。知り合いが実は働いているので一概に悪く思えない。等、廃炉と隣り合わせの暮らしをしている方々ならではの、様々な意見が話されました。

* 自分事として捉えた先に

震災前原子力産業に触れることのなかった、普通に暮らしていた方々にとって、原発事故は希望ある将来設計をするのには大きな課題です。そして廃炉にもどう向き合っていけばよいのか。それが見いだせない苦悩があります。

構内労働環境の改善はされても、増え続ける汚染水や構内瓦礫といった放射性廃棄物の処分をどうすればよいのか。答えが出せない課題について、直接関与出来ない私達はただ、現場に委ねるしかありません。

しかしながら、福島第一原発の廃炉への取組は、一企業の問題ではなく、同じ地域で暮らす方々にとっても共通の問題です。委ねるだけではなく、協力出来ることがないのか、模索する動きが民間の中で始まってきました。

その一つが「自分事としてまずは知ろう」という動きです。実際の状況を住民が把握し、共有することが始まりました。

自分事として捉えた先に、それぞれの立場での課題が見え、福島第一原発事故に対して出来ること少しずつ見えてきます。その積み上げが続いた先に、原発事故という前代未聞の大きな課題をも乗り越え、地域を豊かに残すことが出来るのではないでしょうか。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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