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シリーズ「3月11日を迎える前に」 汚染水問題について(構造の問題編)

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
フランジ型タンクの解体が進み、溶接型タンクが主流化していく発電所構内

この約5年間「汚染水問題」について、様々な議論がなされてきました。しかし汚染水問題は何が原因なのか、どうして問題化しているのか、これらを総合的に語るのは大変難しくなっています。

原発事故後、福島第一原発について多様な議論・物議がなされてきました。多様な議論・物議は不安の表れです、何も問題はありません。ですがその基本についてしっかりと押さえておかなければ、根本的解決には至りません。6年目の3月11日を迎える前に、その基本について私達はどれだけ理解しているでしょうか。

3月11日が近づくにつれ、センセーショナルに被災地は報道され続けます。当事者の方々が抱える課題を正しく理解するためにも、そして基本に立ち返る意味を込めて、シリーズ「3月11日を迎える前に」1回目、汚染水問題について(構造の問題編)をお届けします。

汚染水を理解するには、原子力発電の仕組みの理解が必須

東京電力HP「原子力発電の仕組み」から抜粋
東京電力HP「原子力発電の仕組み」から抜粋

原子力発電所は、原子炉に満たされた水を核分裂反応で熱し、蒸気に変え、蒸気によって発電機に連結したタービン(羽根車)を回し、発電を行っているものです。このままだと、原子炉内の水はあっという間に蒸発し、空焚き状態になりメルトダウンを起こしてしまいます。ですので、タービンで仕事をした蒸気は復水器と呼ばれる設備で、海水が流れる配管で冷やし、水に戻し、原子炉に給水します。

原子炉(水を蒸気に)→タービン(蒸気の運動エネルギーを電気に)→復水器(蒸気を水に)→原子炉という循環式の発電方法になります。

ここで大切なのは、蒸気を水に変えるため海水を使っている点です。原子炉建屋とタービン建屋と海が地下空間で繋がっています。この地下空間のうちタービン建屋と海側設備を繋ぐ空間を「海側トレンチ」と呼びます。

本来の仕組みですと、間接的に復水器で海と通じていますが、復水器内の圧力を負圧に保つことで、万が一配管に穴が開いても海側へ流失しないようになっています。

原発事故で変わった構造の問題

1.汚染水が海へと繋がる構造になった。

簡単な仕組みのお話しがご理解いただけた上で、どうして汚染水が海へ繋がる流れが出来てしまったのか。に移ります。原子炉の冷却が間に合わず、メルトダウンによって原子炉下部に穴が空きました。またメルトダウンにより同時に水素が発生し水素爆発の影響で、圧力抑制室と原子炉とのつなぎ目にも破断が起き、原子炉に冷却水を投入(事故当時海水)すると原子炉建屋の地下に溜まる形での冷却に変わりました。水素爆発と地震のよる影響は、原子炉建屋、タービン建屋、海側トレンチの連結部分にも及び、地下空間をつたい、原子炉建屋からタービン建屋へ、タービン建屋から海側トレンチをつたい海へと繋がりました。忘れてならないポイントに、福島第一原発には最大15mの津波が到達し、その地下空間には大量の海水が流入したことです。

原発事故により、本来の間接的に繋がっていた海へのルートをつたい、汚染水が海へと繋がる構造になりました。

2.汚染水が増える仕組みになった。

循環冷却概念図 東京電力視察者向け配布資料より抜粋
循環冷却概念図 東京電力視察者向け配布資料より抜粋

注意 地下水流入量にサブドレンポンプ稼働の評価値は含まれず、正しくは300トン/日未満、ウェルポイントなどからの汲み上げ(約100トン/日)表記についても、海側遮水壁の完成に伴い、堰き止められた地下水の増加により、現在約400トン/日となっている。

現在の汚染水が増える原因は地下水によるものですが、考え方で増え方は2つに分けられます。

1)自然に原子炉建屋に入ってきてしまう増え方(現在、1日約300トン未満)

汚染水が増え続ける原因は、地下水によるものです。阿武隈高地と太平洋との間に福島第一原発があります。自然の摂理で地下水は高い所から低い所へと流れています。震災前からそれはあったものです、ですが問題にならなかったのは、地下水が流入しないように止水対策が打たれていたこと、そして建屋にかかる地下水をサブドレンポンプと呼ばれる井戸で組みあげていたからです。これらが水素爆発、津波、地震の多重的要因で壊れたことにより、現在も続く原子炉建屋への地下水の流入へ繋がっていきました。

2)海側設備に流れる地下水を回収することによる増え方(現在、1日約400トン)

福島第一原発の海側には、原発事故当時の海へ流れ出る仕組みの中で残留した放射性物質を含んだ地下水を汲み上げる設備があります。ウェルポイントと地下水ドレンの二つです。こちらについては、放射性物質濃度を測定し、海への放出基準に満たない物は回収して、タービン建屋に引き戻しています。

汚染水を根本的に絶つにはデブリの処理が必要

汚染水は溶け落ちた燃料デブリに触れることで、より高濃度になるものです。このデブリが取り出される事が汚染水問題の根本解決になります。既にご存知の通り、溶け落ちた燃料の取出しが、人も近づけない高線量のため最大の課題となっています。デブリが取り出されるまたは水以外で冷却が出来る方法が成されることがない限り、汚染水は生まれ続けます。

原発事故により「汚染水が本来の構造により、海へ流れ出る構造に変わった」と言えます。その解決方法は構造を変えることです。汚染水問題というフレーズを見聞きした時、この構造がどう改善されたかが重要になっていきます。汚染水が増え続ける問題は、構造が改善されていないことで、副次的に発生した「管理・処理」の問題です。

構造の問題を解決し、汚染水問題に終止符を打つには

1.地下水の流入をいかにブロックするか。

2.汚染水が海へと通じるルートをいかにブロックするか。

3.溶け落ちた燃料(デブリ)をどう取り出すか。

が大きなポイントとなっています。

次回 シリーズ「3月11日を迎える前に」 汚染水問題について(構造の対策編)にて、現在それらがいかに対策されてきたか、そして課題はどこにあるのか、お伝えします。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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