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3月11日フィーバーに向けての苦言 本当の主人公は誰ですか?

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
原発事故被災地域の方との一コマ。笑顔の裏にある抱えている悩みに寄り添うべきでは

東北大震災、原発事故から早4年10か月、これほど長期間に渡り被災地の方々が抱える問題に対して、今も毎月にように訪れてくださるありがたい方々がいる反面、ここぞとばかりに、毎年3月11日が近付く時期にだけ訪れてくる人達がいます。

こちら日刊スポーツで報じられた、ロンドンブーツの淳さんの記事

ロンブー淳 原発問題。都合の悪い歴史こそ残そう

原発事故という歴史をきちんと残していこうとする取組自体には、大変共感はしますし、有名人の方の影響力を持って発信してくれることはありがたいことです。

淳さんも信念を持って活動されているのでしょう。そして影響力をご自身が持つことを重々知った上で、何十年と続く課題について関わる覚悟をお持ちのことと思います。

ですが、この記事を拝見させて頂いた時、よぎった思いはこの時期だからでは?という思いです。そんな風にうがった見方をしてしまうほど、この時期になると有名人、著名人、ジャーナリストといった方々がこぞって被災地域に来られる現状が続いています。応援ならば有り難いのですが、課題を当事者に変わり社会に伝えるとなると「数度見ただけで理解できるほど単純だろうか」「当事者の声が大切なのでは?」などと思ってしまいます。

筆者が普段活動する、福島県浜通り地方にある双葉郡は、原発事故による避難区域が続いている場所です。長期化した避難区域の現状はとても複雑な状況です。それ故に特に顕著です。普段ひとつも足を運ばない人達が被災地へ訪れ、私は被災地に心を寄せ、復興を願っているという姿勢を持って、数日取材で語られる現状は、時に365日24時間、東北大震災&原発事故後に抱えた悩みに苦しむ方々にとっては、ありがた迷惑に思うことも多々あります。

筆者も毎日が復興の最中で暮らす人間です。毎日もくもくと被災地のフェイズに応じて、やるべき事を進めている方々を拝見させて頂いています。約5年も経てば、経済的事情から思いはあっても続けられないことから、また一人、また一人と復興を担う方は減っています。

3月11日が近付くにつれ、現地で悩みながらも前に進む、普段、陽が当たらない取組・人達にスポットが当たることは大変嬉しいですし、ありがたいことですが、普段から取り上げてもらえたら・・・と思うこともしばしばです。

こうした3月11日にだけ、陽が当たるフィーバー現象は仕方がないことと思いつつも、改善出来る方法はあると思います。それは問題の本質を本当に理解されている現地の方々が発信力を持つことです。

被災された方が発信力を持つには、社会の支えが不可欠

この約5年の中でほとんど変わらなかったことは、被災された方々が自由に発信できる場が構築出来ても、その発信力を持ちえなかったことです。

被災地域の方々は被災がなければ、日本中の皆さんと同じ普通の人達です。発信力を持つことを求めること自体が難しい要求です。TwitterやfacebookといったSNSでの発信などを続けていても、社会の皆さんが見てくれること、広めてくれることに依存しています。現地の方々が発信力を持つために大切なのは、聞き手読み手の皆さんが寄り添ってくださることです。そうした意味で、3月11日が近付くにつれ東北大震災と原発事故被災地が盛り上がっていくことは大きな力を持ちます。

誰のための報道、情報発信という考え

誰かの好奇心を満たすために、東北大震災及び原発事故で苦しまれている方々がいる分けでは決してありません。苦しまれている方々が求めているのは、個人の努力では変えることが出来ない現実への救済です。主人公は間違いなく最前線にいる方々、その方々のためにならない有り方は、いい加減にやめる時期に来ています。

3月11日は被災された方々にとっては、心落ち着かずただ静かに過ごしたい1日です。ですが現実は1年で一番騒がしい日です。少しでも被災された方々に心を寄り添うのであれば、せめて被災された方々にとって利する一日であるように願うばかりです。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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