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女の子はネイルスパに石鹸作り、男の子はパソコンや体育。ノルウェー学童保育所の時間割が波紋を広げる

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
ノルウェーのとある学童保育の時間割は、ジェンダーフリーとはかけ離れていた(写真:アフロ)

ノルウェーはまだまだ男女平等の域に達していないのか? 2016年にもなって、なぜまだこのような課題があるのか? フェイスブックに投稿されたひとつの写真が、国内で波紋を広げている。

ノルウェーには、小学生が、放課後に通う学童保育所「SFO」がある。第三の規模となる街トロンハイムにある、ひとつのSFOでの「時間割」の内容が、今回の議論の種となった。

「ボーイズ・クラブ」と「ガールズ・クラブ」で時間割が割り当てられ、古典的な男らしさと女らしさを押し付けるようなその内容に、大人たちが衝撃を受け、各大手メディアは大きく報道している。時間割の写真は、フェイスブックやツイッターのSNSで広く拡散されている。

SNSで拡散中の話題の時間割 Photo:screenshoto/SNS
SNSで拡散中の話題の時間割 Photo:screenshoto/SNS

秋の時間割 ボーイズ・クラブ

9月6日 男の子たちで始まりのミーティング

9月13日 男の子向け映画の鑑賞

9月20日 パソコン

9月27日 体育館で楽しむ

10月5日 女の子たちとボーリング

10月18日 台所でワッフル作り

10月25日 ビンゴ

11月1日 チーム対決で課題を解きながら競争するゲーム

11月9日 女の子たちとハンバーガーと映画

11月15日 粘土で作品作り

11月22日 粘土で作品作り

11月29日 粘土で作品作り

秋の時間割 ガールズ・オンリー

9月6日 ブレスレット作り

9月13日 ブレスレット作り

9月20日 ペンケース作り

9月27日 ペンケース作り

10月5日 男の子たちとボーリング

10月18日 石鹸作り

10月25日 石鹸作り

11月1日 ネイルスパ

11月9日 男の子たちとハンバーガーと映画

11月15日 クリスマスの飾り作り

11月22日 クリスマスの飾り作り

11月29日 ビンゴ

学校側は、この時間割に違和感を感じなかったのか?と驚きの声

時間割を作成したスタインダル学校のリーダーは、「活動内容は、子どもたちにヒアリングして、子どもたちの希望に沿って作られたもの。20.5時間の自由時間のうち、男の子と女の子のクラブに分けたこの時間は、そのうちの1.5時間。残りの時間である19時間は、性別は関係ない」としている(VG)。問題の時間割に該当するこどもたちは、3~4年生(8~9才)の男の子と、4年生の女の子で、参加は希望制とされている。

読者投票では、好ましくないと思う人が80%を超える

ノルウェー国営放送局では、電子版記事での読者投票で、「SFOで、性別によって区別された仕組みは、良いと思いますか?」と問いた。その結果、記事を作成中の時点で、「良くない」が81.84%、「良い」が15.31%、「これに対して意見はない」は2.85%という結果になった。

ジェンダー研究者たちや地元の政治家からは、批判の声があがっており、「男の子にはこれができて、その一方で女の子はできることは別のこと」と刷り込ませることには問題があるとしている。地元地方議員のレイタン氏(自由党)は、議会でテーマとして取り上げるとVGに話す。

現地で児童保育所で働いた在住日本人に聞く

首都オスロにある学童保育所SFOで、職員として7年間勤務した佐脇千晴さんは、現地の様子をこう話す。

「うちの学校では、このような男女差をつけることはありませんでした。男子はお料理や編み物を、女子はジムやサッカーをすることもでき、完全な自由選択制でした。クラシックバレエやジャスティン・ビーバーのダンスもありましたが、希望すれば男の子も参加できましたよ。ノルウェーは、男女差をつけると、問題視される国。ネイルスパをやったとしても、男の子も希望者にはやらせてあげないと、問題となってしまうでしょうね」。

ノルウェーのジェンダー議論

ノルウェーでは、男女平等は進んでいるとはされているが、まだ課題も多い。筆者が通っていたオスロ大学では、副専攻でジェンダー平等を学んだ。その授業では、オスロにあるオモチャ屋を訪れ、いまだに大量に販売されている男の子向けのオモチャ(青色や乗り物)、女の子向けのオモチャ(ピンク色やおままごと)などについて話し合ったり、街中に溢れた看板や広告を批判的にみる課題が組み込まれていた。大人は批判的に判断する能力があったとしても、子どもや青年はステレオタイプを刷り込まれやすいとして、問題視されている。

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左寄りの左派社会党は、痩せた美しい女性の体形などを「美しい」、「理想的」と刷り込ませる街頭の広告を禁止することを訴えている。緑の環境党なども同じような政策を掲げている。一方、右翼ポピュリスト政党の進歩党は、そのような動きに対して「ばかげたことだ」と反論している。ノルウェーブランドがファッション業界で苦戦したり、ファッションショーにおいて政治家からの理解が低い理由の一部には、このような背景も少なからず反映されていると思われる。

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女子小学生にもコーディングはできる!ノルウェーは女性エンジニア育成に必死だという記事で以前紹介したが、ルウェーICT(情報通信技術)の産業政治部ディレクターであるリーヴ・フレイホブ氏は、こう話した。「思春期や趣味の幅が広がり始める10才という時期を過ぎてしまうと、子どもの嗜好は変わりにくくなる傾向があります」と、10才になる前に、興味をもつことが将来を大きく変えると説明した。今回の問題となっている時間割では、パソコンの時間は、男の子のみにしか割り当てられていなかった。

追記

話題の時間割が報道されてから数時間後、ノルウェー国営放送局によると、トロンハイムのオッテルヴィーク市長(労働党)は、このような取り組みは自治体の条例に違反しているとコメント。トロンハイムの全学長に、同様のことは避けるように注意喚起をしたと発表した。

同地にあるノルウェー科学技術大学のジェンダー研究者ボルソ氏は、今回の出来事は、「家の外で、女性は働くことができる脳みそがないとされていた、1800年代の学問を思い起こさせる。50年代に広く浸透していた、型にはまった考え方だ」と国営放送局に語った。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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