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祝・ゴールデングローブ賞受賞!レオナルド・ディカプリオが、それでもアカデミー賞に届かない3つの理由

渥美志保映画ライター

いやー、ゴールデングローブ賞、見ましたか?ミュージカル・コメディ部門の男優賞の発表ではハラハラしましたー。

でも『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でレオが男優賞を制したのは嬉しい驚き。レオもなんとなくホッとした感じで、挨拶する姿には「いざオスカー」って感じの静かな意志ようなものを感じましたー。言い過ぎー。

でも今年は本当に豊作でどの作品も素晴らしく、毎年アカデミー賞に冷たくあしらわれているレオは、悲しいかな苦戦を強いられそうです……てか、ごめん!ぶっちゃけ無理!たぶんノミネートも厳しい!

何言ってんだてめー!って言われそうですが、今回はその理由を分析してみましたー。

●オスカーが大好きな「役者臭」と相反する「スターの魅力」

レオはこれまでオスカー主演男優賞に2回ノミネートされています。それが’04年の『ブラッド・ダイヤモンド』と’06年の『アビエイター』。この時に主演男優賞を獲得したのは誰かというと、’04年は『キング・オブ・スコットランド』のフォレスト・ウィテカーで、’06年は『Ray レイ』のジェイミー・フォックス。どちらも実在の人物を演じ、そのなりきりぶりで「そっくり!」と言わしめた人たちです。

もちろん演技自体に鬼気迫るものがあるのは前提ですが、オスカーは実在の人物をコピーみたいに演じる人が大好き。ここ10年はその傾向が顕著で、ふたりの他にも、『リンカーン』のダニエル・デイ・ルイス、『英国王のスピーチ』のコリン・ファース、『ミルク』のショーン・ペン、『カポーティー』のフィリップ・シーモア・ホフマンなど、すごく多いんですね。

え、でもでもレオの演じた『アビエイター』だって、実在の人物じゃないの?そうなんです、実在の人物ジョン・ヒューズ。でもスターであるレオは、何を演じても良くも悪くもレオ。これはぜんぜん悪いことじゃなく資質の問題だと、私は思っています。だって何を演じても華がない、スターになりたくてもなれない人のほうが多いんですから。

さらに言えばレオは、昨年の主演作『J・エドガー』では、実在のCIA長官エドガー・フーバー本物そっくりに演じながら、ノミネートにも届かなかったんです。これは私の主観ですが、レオはレオのままで演じるのが一番。エドガー・フーバーという役も悪かったのかもしれませんが、メイクで別人になったレオは、レオ本来の魅力がまったくなくなってしまっていた気がします。レオの魅力はやっぱりスターの魅力で、役者の魅力とはちょっと違う気がするんですね。

そして今回の作品、実話を映画化した『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。誰もが顔を知る人物ではないし、レオがスターの魅力のままで演じるのは、ファンとしては大歓迎。でもアカデミー賞ははやっぱり役者臭のする人が好きなんです。

●プロデューサー的手腕ゆえ?集まる激ウマな共演者

さて今度は別の角度から。

彼がノミネートされた2作品では、『ブラッド・ダイヤモンド』でジャイモン・フンスーが、『アビエイター』でアラン・アルダが、それぞれ助演男優がノミネートされ、『アビエイター』ではさらに、今回のゴールデングローブ賞女優賞を受賞したケイト・ブランシェットが助演女優を獲得しています。

両作品を見ていただくと分かりますが、出てくる俳優さんたち、みんなすごく上手いんですねえ。レオ自身、作品によっては企画やプロデュースに関わっていますから、彼が共演したいと思う俳優たちなのかもしれません。彼の企画や存在、熱意に、素晴らしい俳優が集まるわけです。でもその結果として、皮肉にも彼の演技の上手さが目立たない、ある意味、食われてしまっているんですね…。

そして今回の作品、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。ゴールデングローブ賞のミュージカル/コメディ部門で男優賞を獲得したんですから、もちろんレオの演技は高評価。でもそれ以上に評判が高いのが、脇で登場するマシュー・マコノヒーゴールデングローブ賞ドラマ部門で男優賞を獲得し、『ダラス・バイヤーズ・クラブ』でオスカー主演男優賞でも本命視される、あの人なんです~。

思えばこのパターンが最も悲しい形で出てしまったのが『ギャング・オブ・ニューヨーク』でした。主演男優はレオなのに、主演男優賞でノミネートされたのはダニエル・デイ・ルイス・・・・。そしてこの作品の監督が、今回の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と同じ、マーティン・スコセッシ。実はそこに3番目の理由があるんじゃないかと、私は見ています。

●映像が素晴らしすぎる、監督マーティン・スコセッシ

これまでスコセッシ監督作でオスカーにノミネートは、ざっと以下のとおり。

『タクシードライバー』(作品賞、主演男優賞、助演女優賞、作曲賞)

『レイジング・ブル』(主演男優賞、編集賞、作品賞、監督賞、助演男優賞、助演女優賞、撮影賞、音響賞)

『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』(衣装デザイン賞)

『ディパーテッド』(作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞)

『カジノ』(主演女優賞)

『ギャング・オブ・ニューヨーク』(作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞、脚本賞、撮影賞、編集賞など10部門)、

『グッドフェローズ』(作品賞、監督賞、助演男優賞、助演女優賞)、

『アビエイター』(作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞など11部門)、

『ヒューゴの不思議な発明』(作品賞、監督賞、脚色賞、美術賞、視覚効果賞など11部門)

もう俳優の演技といい、物語のクレイジーさといい、セットや衣装のきらびやかさといい、素晴らしい作品ばっかり!なんだけども!

彼の作品でオスカーで賞をとった俳優は、助演賞も含めて3人だけ。主演俳優にいたっては、体重を30キロ近く増減して挑んだ『レイジング・ブル』のロバート・デニーロのみ。『ギャング・オブ・ニューヨーク』のダニエル・デイ・ルイスも、『タクシー・ドライバー』のジョディ・フォスターも、『グッド・フェローズ』のレイ・リオッタも、『カジノ』のシャロン・ストーンも、獲っていないんですねー。

そしてもうひとつの特徴は、ノミネートされる部門がすごく多いこと。

撮影や美術、編集などディテールのこだわりがすごくて、俳優の演技以外にも見どころが無数にあるわけです。近年の作品はとみにそうですが、スコセッシ映画の魅力は、やっぱり他の監督の作品では見られないびっくりするような映像なんです。

レオがオスカーに本当に肉薄したのは、間違いなく’93年の『ギルバート・グレイプ』。知的障害を持つ少年を演じる姿を見て、「この俳優は天才だ!」と作品を見た全員が思ったと思います。

でも助演男優賞は個性派オッサンの独壇場。ここ数年を見ても、『イングロリアス・バスターズ』の面白怖いナチ将校を演じたクリストフ・ヴァルツ、『人生はビギナーズ』のゲイをカミングアウトしたお父さんを演じたクリストファー・プラマー、『ザ・ファイター』で実在の落ちぶれボクサーを抜歯して演じたクリスチャン・ベイルなんてラインナップですから、新人の美少年なんて歯が立ちません。

個人的にはトム・クルーズ路線、役者はブ男に任せてスター街道を歩いて欲しい!と思いつつも、一度ぐらいは喜ばせてやんなよ、オスカーさんよ!と思わずにはいられません!さて今年はいかに!最後まで見守りますよ~。

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 1月31日より全国にて公開

http://www.wolfofwallstreet.jp/

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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