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桃太郎はイヌ、サル、キジで鬼に勝利した くせ者の戦法が商店街には必要

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

 15日、16日と、名古屋では「第62回名古屋まつり」が開催された。これと合わせて名古屋の少し外れた場所にある大須商店街では、「第39回大須大道町人祭」が行われた。これはなんと、官製のお祭である「名古屋まつり」に対抗して始まったのだという。気合十分である。

 ご存知の方も多いと思うが、立地のわりに大須商店街は、普段から賑やかである。あれやこれやと、年中にわたって大小様々なイベントが開催されている。このエリアにはおよそ1200の店舗や施設があるが、まさに「ごった煮」の状態で、面白いものというか、なんだか変なものがたくさん集まっている。暇だからとりあえず大須に行ってみよう。そんな気分にさせてくれる。

 筆者は初日に、大須大道町人祭に行ってきた。正直楽しかった。大須観音の周辺では、キックボクシングのエキシビジョンマッチや、大道芸、おいらん道中など、いろいろなものがそこかしこで開かれていて、まったく飽きない。ひよこと触れ合える場所もあった。ひよこはかわいかった。それから二頭のらくだが来ていて、商店街を練り歩いていた。お客さんもイベントの参加者も、みんな楽しそうだった。大須大道町人祭は、人を元気にするお祭りだった。

 ところで、このようなごった煮のお祭り、あまりコンセプトを統一していないお祭りを指して、専門家のなかには地域性に沿っていないだとか、施策に裏づけがないだとか、うわ滑りしているだとか、色々な酷評をする人がいる。確かにその通りではある。しかし、そういった「べきだ」論などは無視していこう。うわ滑り、上等である。みんなで楽しく、そして儲かっているのだから、それで商店街はよいのである。タネも仕掛けもたくさん用意しておこうではないか。こじつけでも何でもやって、お客さんや参加者を呼び込んで、楽しんでもらって、また来たいと思われるように、あまり深いことを考えずに前向きな姿勢でガンガンやってもらいたい。

 前回「商店街が衰退してイオンが繁盛した、たったひとつの理由」の最後に書いたように、商店街には商店街の戦い方というものがある。イオンになってはならない。イオンは強力である。それに対して衰退した商店街は、すこぶる弱い。ゆえに真っ向から戦ってはならない。商店街には商店街の戦い方があるのだ。くせ者の戦法、それが商店街には必要である。

桃太郎はイヌ、サル、キジを家来にした

 桃太郎がイヌ、サル、キジを家来にした理由は、陰陽五行説によって説明されることが多い。鬼門である北東には、干支でいう「うし」と「とら」が配置されているが、それと対象の裏鬼門には、「ひつじ」と「さる」がいる。この「さる」から時計回りに集めると、「とり」「いぬ」が充てられることになるのである。あるいはまた、我が国の神話に出てくるキビツヒコノミコトの家来に由来するというのも、通説の一つである。

 ここではひとまず、そういった難しい話は忘れておき、単純に絵本の話としての桃太郎から理由を考えてみたい。桃太郎がイヌ、サル、キジを家来にした理由は何か。報酬がしょぼくて人間が雇えなかったからである。いくらおいしいきびだんごがあるからといって、それではさすがに人間を雇うことはできない。人間は明日の飯を食うために働かなければならないのである。せいぜいのところ、動物のエサとして使うくらいしか道はない。そうであるから、おそらく本当のところは、道中でイヌ、サル、キジを捕まえて、一生懸命に芸を仕込んだのだろう。桃太郎は仕方なしに動物を家来にしたのである。

 商店街は、十分な報酬を支払うことができないのであれば、人を雇うことはできない。まちの人のなかにはすぐにボランティアだなんだという人がいるが、メリットがなければ参加するはずがない。それならいっそ、動物園かららくだを借りてきたり、家で産まれたひよこを集めてふれあいの場をつくったり、一芸を持った学生をつかまえてショーをお願いしたほうがよいのである。ストリートミュージシャンはそこら中で無料で音楽をかき鳴らしている。彼らには商店街でやるメリットを訴求できよう。

イヌ、サル、キジで鬼に勝つ

 そうはいっても、鬼は強い。しかも鬼ヶ島には、たくさんの鬼がいる。とても太刀打ちできそうにない。しかし、無いものねだりをしても仕方がない。いま持っているものの中で戦う方法を考えなければならない。

 ここで行うべきは、自分たちの戦力の分析である。すなわち、どうやったら彼らを最大限に活かすことができるかを考えることである。たしかにイヌには牙があるが、そんなものでは到底、鬼には勝てない。しかし、イヌは可愛い。サルは仕込めば色々な芸ができる。キジは空が飛べる。これらの能力を用いていかに勝つかを考えなければならない。

 桃太郎の採るべき戦略はこうである。まず、鬼ヶ島にイヌを放つ。このイヌは人懐っこくなるように育てなければならない。鬼たちはイヌに夢中になって、ひとところに集まるはずである。次に、キジは空を飛んで、サルをからっぽの城に送り込む。キジはサルを、鬼の大将たちの城まで届けなければならない。サルは城の厨房に忍び込み、桃太郎が道中で採取しておいたトリカブトを、鬼の晩御飯のなかに混ぜ込むのである。さすがに鬼とて、トリカブトには勝てない。桃太郎は夜中に忍び込み、苦しんでいる鬼たちを倒すのである。

 Yahoo!ニュースの性格上、何を意味しているかは書けない。ここに書いた戦略の意味するところを理解してほしい。

 商店街は、ないものねだりをしてはならない。文化的裏づけとか、長い歴史とか、そういったもののない商店街が大半であろう。しかし、悲観することはない。自分たちのもっているものをいかに使うのかを考えれば、道は開ける

 それにはものの見方を変えること、パラダイム・シフトが必要である。自分たちは弱いと決めつけるのではなく、どうやったら自分たちを活かすことができるのかを考えなければならない。そのために、商店街はおっかない専門家の人たちの言葉をあまり真に受けてはならない。楽しく愉快に、行動した先にある喜びのほうに目を向けたほうが、ずっとよいのである。

 そこら辺に転がっているものでも、やり方次第では利用できる。葉っぱだって売れるし、畑に転がっている芋を焼酎にすることもできる。古ぼけた外観は、レトロとしてPRできる。シャッター街であれば、いっそのことセンターにテーブルを置いて、レンタルスペースとして活用すればよい。ものはなんでも考えようなのである。

 商店街は、くせ者にならなければいけない。大型のショッピングモールと真っ向から戦ってはならない。同じものを揃えてはならないのである。そうではなく、自分たちが持っているものをいかに用いるか、ショッピングモールとはいかに異なるのか、である。あちらにはあちらのいいところがあり、こちらにはこちらのいいところがある。そうやって考えてみれば、いくらでも突破口は見つかる。しかも、前向きになって色々と考えていると、人生は楽しくなってくる。できることを考えて、愉快にそれを実行してみようではないか。

 笑っていれば、いつか人は来る。私たちは、自分たちが笑うところからはじめようではないか。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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