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すべては「チャット化」していく 〜流行語とLINEと恋愛の意外な関係〜

五百田達成作家・心理カウンセラー

2013年はまさにLINEの年でした。

2011年6月にサービスを始めたLINEは、1年7カ月後の今年1月に利用者が1億人を突破。その約半年後の7月に2億人を、さらに11月には3億人をそれぞれ超え、現在も驚異的なスピードで普及しています。また、米・ツイッター社も11月に株式を上場、と、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)にまつわる景気の良いニュースが目立った1年でした。

こうしたLINEやツイッター、フェイスブックの影響で、ネット上のみならず話しことばからメール作法にいたるまで、すべてのコミュニケーションが「短く」「あいまいで」「ゆるい」ものになっている、つまり「チャット(おしゃべり)化」している、とは先日の記事「LINE世代は「返信」をしない!? 「KS(既読スルー)」でコミュニケーションが変わる」にて指摘した通りです。

さてそんな中、去る12月2日に「2013ユーキャン新語・流行語大賞」が発表され、年間大賞に「じぇじぇじぇ」「今でしょ!」「お・も・て・な・し」「倍返し」の4語が同時に選ばれました。このニュースにも「現代コミュニケーションのチャット化傾向」が如実に表れているように思います。

LINEと相性のいいワードが流行語大賞に

まず第1に、選ばれた4語が「話し言葉」「会話の中の合いの手」として使われる言葉だということ。「今朝、電車で痴漢を見ちゃってさあ」「じぇじぇじぇ!」/「授業のレポート、やる時間ない・・・」「今でしょ!」などなど、なにげない会話の中に簡単にちりばめることができます。そのため、LINEやツイッターと実に相性がよく、だからこそここまで認知・拡散したわけです(「今でしょ!」のスタンプもたくさん見かけました)。

「何を今さら。そんなの流行語なんだから当たり前でしょう」という指摘もあるかもしれません。ですが、たとえば2012年の大賞「ワイルドだろぉ」はまだしも、2011年の大賞「なでしこジャパン」、2009年の「政権交代」などは、「まあ確かに流行したかもしれないけど、実際に会話の中で使ったことないよなあ」というものばかり。2010年の大賞「ゲゲゲの」にいたっては、「・・・これって、どうやって使うの?」と首をかしげてしまいます(「じぇじぇじぇ」「倍返し」と同じく、ヒットドラマ発であるにも関わらず)。

もちろん流行語大賞のすべてが話し言葉や口語である必要はありませんが、少なくとも、LINEやツイッターなどのライトでショートなコミュニケーションにぴったりの言葉ばかりが選ばれた(そういう言葉が多く誕生・流行した)のは、チャット時代ならではの出来事と言えるでしょう(そういう意味では「倍返し」も、「倍返しだ!」と「だ!」をつけてはじめて、しっくりくるようにも感じます)(さらに、ドラマ「半沢直樹」で注目が集まった言葉として「出向」も忘れるわけにはいきません。参照記事:「半沢直樹」のヒットで、言えなくなった言葉)。

「別にひとつに決めなくてもよくね?」という空気

そして第2に(こちらのほうがより重要なのですが)、大賞が史上初めて4つも選ばれたということ。

これについては「ひとつに選んでこそ大賞」「がっかりした」という批判もありましたが、多くの人は「ま、いっか」「確かに甲乙つけがたいしね」と意外にすんなり納得したのではないでしょうか?

この「ま、いいんじゃない?」というあいまいな感覚こそが「チャット的」ということ。膨大な数の情報・会話を次々にさばいていく現代において、「KS(既読スルー)もしかたなくね?」「すぐに返信しなくてもよくね?」といったゆるさは必要不可欠。「大賞だって、無理にひとつに決めなくてもよくね?」という世の中の空気が、この結果に結びついたように思えてなりません。

そもそも、「年に一度だけ」「1948年創刊の事典の名の下に」「選考委員たちがひとつを選び」「芸能人・文化人が受賞する」という仕組みは、少々オールドファッションな印象も。「ベストジーニスト」「レコード大賞」といった年間賞・PRイベントも、昔ほどは話題にならなくなっているように感じます(ひところは大きな注目を集めた「今年の漢字」ですが、2013年の漢字がすでに発表されていることを、知って(覚えて)ますか? ちなみに「輪」です)。

ですから、近い将来「流行語大賞がネット上の投票で決定する」「毎年5~10個ぐらいが選ばれたり選ばれなかったりする」というように形を変えていくとしても驚きません(少々、残念ではありますが)。「かっちりと一つに決めて公式(パブリック)に発信する」という形式は、「タラタラと身内(ソーシャル)でおしゃべりしてたい」時代において、もはや流行らないように感じるからです。

恋愛が流行らない時代 人づきあいも「チャット化」

ちなみに、多くの人が恋愛離れをしている現在の恋愛難・結婚難についても、「チャット化」で説明することができます。つまり極めて原始的で、最も本能的なコミュニケーションである「恋愛」も、変化の波を避けられないということです。

その昔、人を恋愛に駆り立てた大きな原動力は「深夜の人恋しさ」でした。さみしい。誰かとつながりたい。だから、余計な長電話もしてしまったし、それほど好きでもない相手とでもデートしたわけです(良くも悪くも)。

ところが、たくさんの人といつでもゆるくつながれて、さみしさがそこそこ埋まればさくっとオフできるこの時代に、1人の相手と恒常的な関係を結ばなくてはならない「リア充」な恋愛を「ぶっちゃけ、面倒くさくね?」と感じるのは当たり前というもの。

たくさんの異性・同性の友達と毎日楽しく交流していれば、恋愛なんてする「必要」も「暇」も、正直ないでしょう。流行語大賞同様、「無理にひとつに決めなくてもいい」というわけです(昔ながらのバブル的恋愛やセックスは、いまや中高年向けの雑誌の中でだけ異常に盛り上がるコンテンツ=一部好事家たちの「たしなみ」になろうとしています)。

2014年は、どのようなコミュニケーション・人づきあい・言葉が流行するでしょうか? 「生あたたかく」見守っていきたいと思います。

作家・心理カウンセラー

著書累計120万部:「超雑談力」「不機嫌な妻 無関心な夫」「察しない男 説明しない女」「不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち」「話し方で損する人 得する人」など。角川書店、博報堂を経て独立。コミュニケーション×心理を出発点に、「男女のコミュニケーション」「生まれ順性格分析」「伝え方とSNS」「恋愛・結婚・ジェンダー」などをテーマに執筆。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。

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