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「Fの悲劇」記事への反論・2~5年制じゃダメですか?

石渡嶺司大学ジャーナリスト

佐々木俊尚氏がリツイート・コメント

Yahoo!ニュース 個人の2015年12月30日投稿記事「大学進学率を下げよう!~『Fの悲劇』をなくすために」を受けての反論記事、2回目となる。

※前回記事は「『Fの悲劇』記事への反論~Fランク大学ってそんなにダメですか?」

前回記事では佐々木俊尚氏にリツイートされコメントもいただくなど、一定の反響があった。

残念ながら元記事著者からのコメントはいただけていないが、それはそれとして、持論を展開したい。

Fランク大学からブラック企業にしか就職できず、学費ローン(名称は「日本学生支援機構」)が多額残る、というのが「Fの悲劇」である。

※なお、元記事著者の定義は不明だが、ここでは「Fランク大学イコール低偏差値の中堅以下の大学」とする

「平均年収の高く労働コンプライアンスなどを遵守する大企業」をブラック企業の反対のホワイト企業とした場合、難関大学ほど入りやすいことは確かだ。

もし、「ホワイト企業以外がブラック企業」、とすれば、Fランク大学ほどブラック企業に入りやすい、というのも確かである。

が、単に「法令を遵守しない、社員も異様に長い残業を強いるなどして使い捨てが前提の企業」と狭義に定義した場合、それは別にFランク大学の学生のみがひっかかる話ではない。難関大でもどこでも引っかかる学生はいくらでもいる。

それから、中小企業でも、社員をちゃんと育てる企業、意外と高収入の企業というのはちゃんと存在する。

学生はFランク大学だろうが、難関大学だろうが、そうした企業の存在に気付いていないだけだ。

それから、就活戦術を根本から間違えている場合も、就活では苦戦しやすい。

・自分の好きなことに紐づけて業界選びをする

・性格検査ではウソをつく

・学力検査対策はいい加減にしかしない(特に非言語分野で鶴亀算からやる、など)

・エントリーシートではなんでも自己PRを盛り込む

・面接ではウソをつく

・グループディスカッションではともかく他の学生を蹴落とすことを考える

これらも、難関大、Fランク大学、問わず、一定数いる。

そのうえで、Fランク大学の学生に多い特徴としては、基礎学力の能力・学習経験の欠如である。

これは難関大の学生に比べて弱い学生が多い、と言わざるを得ない。

実質5年制ってなんだ?

それに対して、私が提案したいのが「実質・5年制」である。

何も難しい話ではなく、1年余計に留年して、その分を基礎学力の補習教育に充てよう、というものである。

実質・5年制は、

・国全体、あるいは、大学側の制度変更を必要としない、

・1年余計に勉強することで学力不足を補える

・勉強した分だけ視野が広がる。結果として就活につながり、高い収入を得られる企業への入社チャンスが増える

などのメリットがある。

デメリット・反論としては、

・制度変更か、高校以前での留年強化が本来あるべき姿。大学は低学力者の「最終処分場」ではない

・学生は4年で卒業するのがあるべき姿。それを破壊することになる

・学費が1年分余計にかかる

・留年した分だけ生涯賃金が目減りする

・わざわざ留年して勉強して、意味があるとは思えない。就活との因果関係が不明瞭

などが考えられる。

ポイント1:制度変更が不要

今、現実問題として学力が不足気味の高校生は多い。

それが結果としてFランク大学に進学せざるを得ない。

もし、国・文部科学省の制度変更などを待つ、というのであれば、学力不足の高校生はどうすればいいのだろうか。

その点、「5年制」は単に学生(とその親)が留年を決める、というだけである。

何なら、大学は留年して補習教育に専念できる環境(学習施設の充実、留年者への学費減免・奨学金支給など)を整備してもよい。

いずれにしても、国・文部科学省の制度変更を待つよりもはるかに短時間でできる。

「職業専門大学」設立まで行かなくても、高校以前での留年をもっと強化すればいい、との反論もある。

が、高校以前での留年は、大学と違って、かなり厳密なものになっている。学校教員側はよほど欠席を重ねた生徒以外は煩雑な手続きをするよりは、と留年させずに進級・卒業させてしまうケースが大半である。

こちらも、留年強化、となれば、相当時間がかかることが予想される。

と言って、高卒就職は、高度成長期以降の日本では需要が減っている。今では企業側は、採用数を減らしていて、採用したいのは学力がしっかりしている優秀な高校生である。

学力不足の高校生の引受先は、専門学校か、大学か、となる。

しかし、専門学校の多くは大学ほど責任ある教育を展開している、とはいいがたい。

結局のところ、大学が低学力者を引き受けるしかないのが現状である。

ポイント2:「4年制があるべき姿」への反論

この反論を、特に大学関係者からいただくが、これが私には理解できない。

というのも、難関大の一部や国家資格関連の学部では、すでに実質・5年制に移行している、と言ってもいいからだ。

・4年卒業率(出典は『大学の実力2016』)

大阪大外国語学部…33.4%

国際教養大…40.0%

神戸市外国語大…41.2%

東京理科大理学部…74.6%

外国語・国際系学部の4年卒業率が異様に高いのは、留学などで留年せざるを得ない学生が多いからだ。

それと、以前、国際教養大を取材したときは、

「留学から日本に戻って、勉強の必要性を感じた学生があえて留年することもあります」

との説明を大学職員から受けたことがある。そうした事例もあるだろう。

東京理科大は他大学の理学部に比べて4年卒業率が低い。これは、大学が方針として、成績基準に達していない学生は容赦なく落とす、としているからだ。

それから、資格系の学部、たとえば管理栄養士関連の学部について、4年卒業率が低いのは要するに、管理栄養士に合格しそうにない学生をあえて留年させている可能性が高い。

たとえば、管理栄養士第28回試験である大学の受験者数は13人。しかし、卒業者は37人、入学定員は80人。この差から類推すると、「実質・5年制」と言わざるを得ない。

これはこの大学だけでなく、管理栄養士をはじめ、資格関連の大学・学部ではそこそこよくある話である。

このように難関大から中堅大まで、実質・5年制を導入している大学はそこそこある。

では、こうした大学の学生が就活で極端に不利な扱いを受けるだろうか?

国際教養大や東京理科大などは各業界・企業とも高く評価する大学である。留年の是非を気にする企業はほとんどないだろう。

特に東京理科大については、厳しい成績基準があるからこそ、企業側も安心して判断できる、との評判である。

それ以外の難関大についても、留年したから落とす、という話はあまり聞かない。

資格系の大学・学部についても、資格を取得できてこそ就活につながる。ということは留年してでも資格を取れないとどうしようもない。

このように、すでに「実質・5年制」は定着しつつあり、しかも就職で不利になる、ということはほとんどないのが現状である。

ポイント3:学費が余計にかかる

これは一番強い(私にとっては痛い)反論である。

学費が余計にかかるのは事実だし、その分だけ、負担も増えてしまう。

が、1年余計に勉強しただけで、学力が大幅に改善する学生は多い。ならば、それは将来への投資として必要なコストではないだろうか。

もちろん、各大学には、休学期間の学費負担を減らす、あるいは学力不足を補う補習教育を強化する、などの環境整備が求められる。

ポイント4:生涯賃金が目減りする

これも、私にとっては強い反論である。

ただ、無理に4年で突っ走って、きちんとした業界研究・企業研究ができず、しかるべく就活対策ができないままだと、低い収入の企業にしか就職できない可能性が高い。

それなら、5年制で勉強していって、高い収入が見込める企業に入社した方がいいのではないだろうか。

ポイント5:就活と1年余計に勉強することの因果関係が不明

日本の企業が学生、特に文系学生に求めるものは、スペシャリストとしての能力・適性や実績ではない。ゼネラリストとしての適性である。

その適性を支えるものが、学部はどこであれ、広く勉強しているかどうか、である。

「Fの悲劇」でなく「Fの奇跡」を

以上、5年制についてまとめた。

もちろん、4年で卒業して就職していく、ということであればそれはそれでいいだろう。

その分だけ、大学でしっかり勉強すればよいし、単に押し付けられて勉強するだけでなく自分で視野を広げる努力ができるようになれば、さらに良い。

そうした学生が大学・学部名の知名度・偏差値とは無関係に希望する職種に就職していく例を私は多く見てきた。

それが4年でできなくても、5年がかりでも、企業が求める水準に達していれば、それはちゃんと就職できる。

「Fの悲劇」ではなく、「Fの奇跡」を現状以上に量産することになると思うのだがいかがだろうか?

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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