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被害続く・AV出演を断った20歳の女性に芸能プロダクションが2460万円の違約金支払いを求め提訴。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
私の体は私のもの。切り売りや債務返済の対象ではない。

■ 続々押し寄せるAV強要の被害相談

昨年夏、若い女性のみなさんへの注意喚起を兼ねて、 

「AV出演を強要される被害が続出~ 女子大生が続々食い物になっています。安易に勧誘にのらず早めに相談を」

というエントリーをさせていただき、大変多くの方にシェアいただきました。

まだ読まれていない方はぜひこちらのエントリーをお読みいただきたいと思います。

その結果、「タレントになれる」「有名になれる」などの安易な誘いに乗るのを思いとどまって、本当にひどい目にあわずに済んだ女性もいると本当にうれしい、と思います。

しかし、実際に支援者の方々から聞こえてくるのは、「私もAV強要されました」「逃げたい」という悲痛な相談の数々。

私のエントリーを機に、「相談に乗ってくれるところがあるのかも」ということで、既に50件以上の相談が、支援団体に寄せられているというのです。

そのうち、何件かのご相談に乗りましたが、恥ずかしいので決して表ざたにはできないけれど、AV強要の被害にあって死にたいほどつらい思いをしている女性たちがこんなにも多いことに改めて愕然としました。

その何倍、黙って泣き寝入りをしている人たちがいるかと思うといたたまれません。

毎週のように新しい新作ビデオが出るAV、実際にどれだけの割合の女性が意に反して出演を強要されたのかと思うと。。

大変心が痛みます。

■プロダクションがAV出演を拒んだ女性を提訴・2400万円以上の違約金請求

ところで、昨年のエントリーで私は、とても典型的・象徴的な例をご紹介しました。それはこちらです。

2011年、未だ高校生であったKさんはX社にスカウトされ、「営業委託契約」なるものをすぐに締結させられてしまいます。

3か月後にはわいせつなビデオの撮影が行われ、とても嫌で屈辱的だったので、Kさんは「仕事をやめさせてほしい」とX社に懇願しました。

しかし、X社は「違約金がかかるぞ」と脅し、同様の撮影を強要します。撮影されたビデオは販売されたのに対価は全く支払われません。

Kさんが20歳になると、X社はいよいよ、AVの撮影を強要してきました。

Kさんが「嫌だ」というと今度は「ここでやめれば違約金は100万円」と脅され、泣く泣く1本だけAV出演させられました(AVの撮影・製造は他社であり、X社から派遣されました)。

そこで行われた撮影は本当にひどいもので数人の男性との性行為を強要されて、Kさんは心身共に傷つき体調も大変悪くなりました。

いよいよKさんは、「もうこれで終わりにしてほしい」と勇気を出して申し出ましたが、X社は、もう「違約金は1000万円にのぼる」と脅して拒絶(撮影前から撮影後、わずかの間に、100万円の違約金が1000万円にはねあがったわけです)。

「あと9本AVの撮影をしたら、違約金は発生しない」等と脅し続け、あと9本出演するよう執拗に要求しました。

困ったKさんは民間団体の支援を得て、「もう出演しない」と宣言するも、メールで脅したり、最寄り駅周辺や自宅まで多人数の男たちが押しかけ、出演を事実上強要しようとしました。Kさんはこうした強要に負けないことを決意。書面で「契約を解除します」と連絡をしました。すると、今度はX社は弁護士をたてて、違約金なんと2400万円以上を請求してきました。

この案件は実話ですが、その後どうなったと思いますか? 

プロダクション側は、「人権派弁護士」を標榜する弁護士をたてて、女性に対して、2460万円の違約金支払いを求める訴訟を実際に提起したのです!

現在も訴訟は、関東のどこかの裁判所にかかっています(女性のプライバシーを守るために、記録には閲覧禁止制限をしています。ですので、無理とは思いますが、詳細を暴き立てるようなことはくれぐれもやめてくださいませ!)

私もまさか、AV出演を断っただけの20歳の女性に対して、プロダクションや弁護士がこれほどの莫大な違約金を公然と請求してくるとは思いもよらず、愕然としました。しかし、やむを得ませんので、彼女の代理人をしていますが、できるだけ早期に、この裁判を決着し、「こんな請求は認められない」ということを裁判上もハッキリさせたいと思っています。

判決が出た際には、またアップデートさせていただきますので、ご注目ください。

■ 被害のパターン

しかし、この女性よりも地獄のようなパターンに陥っている女性たちもいます。

いったん強要され、撮影されてしまったAVについて、いくらやめてほしいと求めても、プロダクションとメーカーが結託して、販売を止めないケースが後を絶ちません。

「どうしても誰にもAVに出ていることを知られたくない。。。どうしても販売をやめてもらいたい」AVを強要された女性たちの中には、思い詰めてしまい、販売を止められるならと、泣く泣く高額な違約金を支払うことを選ぶ女性もいます。

若い女性にそんなお金はありませんので、親が親戚になきついて、親戚が抵当権を設定してお金を借りて、、、絶対ありえないような違約金支払いに応じたりしてしまいます。そんなことをして20歳そこそこの女性たちからお金を巻き上げている業者も、弁護士も、メーカーも、まさに鬼畜ではないかと私は思います。

昔のサラ金被害よりひどい暴利行為が行われていると思います。

そして、さらにひどいのは、法外な違約金を支払えないと、一旦発売を止めてもしばらくして販売を進めてしまうという血も涙もない展開。

みなさん、発売中止をされて、販売が大々的に再開された時には、問題がある事例かもしれない、ということを十分に想像していただき、本人が見られたくないものをあえてみる、というようなことは控えるようにしてあげてほしいと切に思います。

そして、、既にずっとそんなかたちでプロダクションにいいようにつかわれてしまったAV女優さんたちのお話しも聞きます。

何年も業界にいると、「強制された」という話が通りにくいと諦めているだけで、実は本当に人権侵害としかいいようのない扱いを受け、後にずっと精神的に苦しみ続けている方たちもいるのです。

「確かに女の子も軽率だよね」そんな声も聞こえてきそうですが、果たしてそうでしょうか。社会経験もない女の子がうっかり契約書にサインしてしまった代償として、AVの出演強要や、その一部始終を収録したビデオの販売流布(肖像権放棄させられているらしく、一生いつまでも販売・ネット上の閲覧・ダウンロードされ続けるようです)、そして高額違約金というのは、あまりにもひどい。

せめて、サラ金や消費者契約なみの規制が必要だと思いますし、悪質業者については刑事規制を検討していくことが必要だと思います。

■ 安易な誘いに乗らないで

やはり、こうした被害の泥沼に入る前に、みなさんには、安易な誘いには乗らないでほしい、と強くお願いします。

そして、実際にAVを強要されるような事態になっても、断って逃げることをお勧めします。

強制労働・意に反する労働の強要は、労働法によって明確に禁止されています。法外な違約金で脅して、意に反するAV出演をさせるようなことは、法律上到底許されません。請求されたら支援団体や弁護士などに相談すればなんとか解決ができるはずです。

相談を受け付けている支援団体の例はたとえばこちらです。

http://paps-jp.org/aboutus/coerce/

しかし、業者の要望を断ったり逃げるのが遅くなればなるほど、解決はどんどん難しくなっていきます。早めにご相談ください。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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