Yahoo!ニュース

ツール・ド・フランスのコースを走るレース、エタップ・デュ・ツール参戦記その2

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

スタート前にギアがカラカラ音を立てる…緊急メンテ

いよいよ本番当日。朝4時に起床して、5時に宿を出る。宿泊したホテルもさすがにこの時間の朝食は用意できないとのことなので、前日に買ったバゲットにハムを挟んで食べたのだが、これがかなり美味かった。さすがフランス、と妙なところに感心しつつ準備を整えてスタート地点付近までクルマで移動する。

もっとも地元の参加者の中には、隣の町から自走でやってくる人も珍しくない。そして我々もスタート・エリアへ…と思ったのだが、私のバイクのギアがカラカラと音を立てていたのでスタート前にマヴィックのサービスによって自転車をチェックしてもらうことにした。

画像

自転車乗りならば知っているが、こうした大会の際にマヴィックはスタート地点や中間地点でもメンテナンスのサービス場所を確保しており、何かあれば誰でもここに駆け込める。さらに大会中は黄色いマヴィック・カーやマヴィック・バイクが常にコース内を走っており、走行中にトラブルがあった際にも助けてくれる。これはツール・ド・フランスでも同じで、チームを問わずにサポートをしてくれる。こうしたサービスはニュートラル・サービスと呼ばれ、そのためのクルマはニュートラル・カーと呼ばれるのだが、長年ニュートラル・サービスを務めるマヴックだけに、多くのひとは通称のマヴィック・カーという呼び方をする。というかむしろ、こちらの呼び方の方がメジャーとなっている。

さて、スタート前に私のバイクをメンテナンすしてもらった場所がスタート・ゲートの近くだったので、まずはこちらで記念撮影。そして自分たちのスタート・エリアへ移動したのだが、なんせ1万6000人が参加する大会だけに、スタート・ゲートから自分のスタート位置まではかなり離れている。

おそらくみなさんの中には大きなマラソン大会に出た経験がある人も多いと思うが、例えば東京マラソンなどは、実際のスタート・ゲートから自分のスタート・エリアまでは随分遠いと感じた人もいるだろう。実際に先頭がスタートしても自分がスタートするのは10分後、というのも珍しくない。

しかもエタップ・デュ・ツールの場合は1万6000人の人だけでなく自転車もある。当然嵩張るわけで、マラソンよりも大分スタート・エリアが広いのだ。

画像

そして私のビブ・ナンバーは8905。8000番台のスタート・エリアはゲートから遥か遠い…事実、ゲートから自転車に乗って5分くらいは走って移動したほど。おそらく1万6000番台のスタート・エリアだと、スタート・ゲートからは数キロ離れるはずだ。

そうしてスタート・エリアに着くと時間とともにどんどん人が押し寄せ、1000人単位でスタートしていく…のだが、当然ゲートまで1000人単位が移動していくので時間がかかる。そして先頭がスタートしてから約1時間以上が経過して、我々のスタートとなったのだった。

画像

ついに走り始めたが、最初は下り基調なので楽々と進んで行く40km/h以上で下っていくので足も軽く、なんだか爽快なサイクリングという感じだ。そうして最初の18kmをこなす。上り下りも多少あるが、なんてことはない。そのまま給水所で最初の休憩を取る。この時点では全く苦しいとは思わなかった。事実、最初の登りである2級山岳のアラビス峠は、平均7%の登りが6.7km続く。ここは少し苦しくなったものの、さほどのダメージを受けずに登りきることができた。そのまま気持ちよく下り区間を経て、30km地点にある最初のエイドステーションを迎えたのだった。

エイドステーションには様々な食べ物が用意されているが、フランスらしいなと感じたのは用意される食べ物がチーズ、パン、干しぶどう、いちじく、アーモンドなど、まるで簡単な食事を取るような感覚のものが多いこと。いや、ある意味ワインのアテのように思えてきて、赤ワインがあっても全く不思議ではないラインナップだったこと。

画像

しかし飲み物は水、スポーツドリンク、コーラとこの辺りは世界共通だった。しかし!唯一フランスらしいと思えたのは、ペリエが用意されていたこと! 炭酸水が用意されるのは海外ならでは、といえる。そしてのちに、このペリエが絶大なる補給になることを知ったのだった。

…と、すっかりエイドステーションを満喫してしまった。まだまだ90km以上残っている。私はエイドステーションに後ろ髪を引かれながらスタートし、次の登坂までの下りを颯爽と駆け抜けた…颯爽だったのはおそらく、この日これが最後のことだった。

36km地点、海抜906m。ここから11.7km、平均斜度5.8%の1級山岳であるコロンビエール峠への登りが始まった。平均斜度5.8%と聞いて、驚くサイクリストは大していないだろう。数字でもわかる通り、それほどキツい登りではない。

画像

【(写真上)コロンビエール峠への登り。目の前の登りよりも、その遥か先で斜めに登っている人の列を見つけて「あそこまでいくのか」と心が折れる】

しかし、この日は私の日頃の行いが良かったからか晴天、というよりピーカンであり、朝から温度はどんどん上昇し、この時既に気温は33度を指していた。登り自体は大した斜度ではないものの、額からは汗が滝のようにながれ、サングラスのレンズ面を、まるで涙で前が見えないような感じの汗が流れていく。

さらに頭がボーッとしてきて、足が必然的に回らなくなる…キツい。そう思った瞬間、仲間が後ろから「ヤバいっす、熱中症になりますよ」といって、僕の頭から首元にかけて冷水をかけてくれたのだった。

ああ、生き返る…でも、記事のために写真を撮る必要があるのでカメラを肩に斜めがけしていたため、ちょっと困惑。カメラに水は…かかっていないようだ、ヘンなところにホッとする。そして補給のためのジェルを口にして、なんとか平静を取り戻した。

そしてヘロヘロになりながらも、コロンビエール峠の頂点に立った。

画像

「いや、ホントさっきは後ろから見ていてフラフラしてたからヤバかったですよ」

と仲間に声をかけられる。いやホント、助けられた。そして気がつくと、自転車を降りて歩いている参加者も結構多い。1級山岳、されど想像以上にハードだった。しかし、これはまだまだ序章に過ぎなかったのだ。この時点で残りはまだ、70km近くあったのだった。

その3に続く

画像
自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

河口まなぶの最近の記事