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「全生徒に運動部(文化部も含む)参加を義務付ける」ことは誰が決めたのか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

今年も新年度が始まった。中学校や高校に入学した生徒はどのような部活動に参加しようか、それとも部活動に参加しないで違うことをしたいなどと考えているかもしれない。

日本には生徒全員に何らかの部活動に入部するよう半ば義務付けている地域があるそうだ。内田良氏の記事によると岩手県では生徒の部活動加入を義務付けている学校が99%に達している。

本来、自主的に参加するはずの部活動であるのに、学校の方針によって半ば強制的に参加させられるのは理にかなわないおかしなことである。

筆者は学校の校則として、全生徒に何らかの部活動に参加するように義務付けていると思っていたのだが、どうやら、そうとも限らないようだ。

ブログ上で、全員加入についての質問に対する岩手県一関市教育委員会の部活動参加への見解が公開されている。

部活動に必ず所属させるかどうかは校長に委ねて具体に対応することにしている。市内中学校では、部活動の意義をふまえ、生徒会規則等で部活動加入を規定している学校が多い。という内容だ。

私が引っかかったのは、生徒会規則で部活動加入を規定している学校が多い、という点。

現実はちがうのかもしれないが、その言葉の意味をそのまま解釈すると、生徒会は本来は生徒による自治的な組織で、生徒によって生徒会規則も定められているハズである。生徒たちが代表者を選出して、その代表者の話し合ったり、生徒たちが投票したりして決定した規則のハズだ。

実現させるのは相当に難しいということは容易に想像がつくが、理屈や建前から言えば、生徒たちの手で「全生徒が何らかの部活動に参加する」という規則も変えられるハズである。

しかし、実際には、全生徒が部活動に参加するという生徒会規則は、いつ、誰が決めたかよく分からない規則になっているのではないか。生徒たちが自主的に作った規則であるという建前を使って、実質的な入部義務付けが、自主的に全員が参加していることとすり替えられているのかもしれない。生徒会規則ではなく、学校の決まりである校則とみなされているのかもしれない。私は教育委員会に直接、取材できていなし、各学校の生徒会規則がいかに作られたのかを調査できていないので、これらは私の推測でしかない。

生徒会の規則は法律違反や反社会的な内容でない限り、学校、教育委員会、文部科学省はどこまで介入してよいのか。建前上は生徒会は自治組織だ。生徒たちが作った規則に関して、文部科学省、教育委員会、学校や保護者がそれを変更するように求めることは、生徒に対して「圧力」をかけることにもつながる。過去の介入や圧力の結果が、全員に部活動参加を義務付ける生徒会規則を生んだのではないか。

そうはいっても、高校生ならまだしも、中学生が生徒会規則を変えるということは現実的には難しい。

部活動入部が義務付けられている問題がマスコミで取り上げられて全国的に注目され、地域や学校に対して、変更するよう求めることは有意義だと思う。それと同時に、生徒会規則で全生徒の部活動参加を定めている学校があれば、遠回りで非現実的かもしれないが、本来ならば、生徒会規則は生徒によって変えることができると伝える必要があるのではないか。意見を議題として取り上げること、投票によって規則を決めたり、変えたり、廃止したりできること。どのくらいの得票率で決定するのかを前もって決めておくことなどの手順を紹介することはできるだろう。

多数の生徒が部活動に参加したいと考えている学校でも、参加したくない少数の生徒の意見も尊重したうえで規則を作るとはどういうことなのかを身をもって経験する機会にもなる。

非効率的で時間がかかっても、部活動の参加を誰からも強制されない、自分たちの部活動であることを生徒たちが実感できることは、運動部問題の解決の一助になるはずだ。

自分たちで自分たちの規則を変えることができれば、生徒たちにとってどれほど手応えのある経験になるだろうか。比べることはできないが、部活動の大会で好成績を残すこととは別の種類の「大きな実績」になると思う。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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