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「Jリーグの動員増は、2ステージ制反対派の敗北を意味する」村上アシシ インタビュー【前編】

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

別媒体で掲載された筆者のインタビュー記事の評判が非常に良かったため、当コラムは許可を頂いた上で転載したものとなります(転載元:スポーツマーケティングナレッジ)。

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世界最大のコンサルティングファームを退職後、“世界一蹴の旅”と称し2010W杯出場32カ国をすべて踏破。テレ東系『フットブレイン』などのテレビ番組出演を始め、男女W杯の現地からのラジオ出演や、最近ではコンサドーレ札幌関連の露出も。野々村芳和・同クラブ社長に呼び出されて対談したり、北海道ローカルの地上波副音声で解説したり、コンサドーレのラジオ特番に電話出演するなど、その活躍ぶりは多岐にわたる。

特にサッカー界のネット界隈で名をはせる村上アシシ氏(HP)。サッカー日本代表のガチサポーターでありながら、経営コンサルタントとして独立。顧客・経営双方の深い視点を併せ持つ人材として、いまも精力的に活動を続けておられます。そんな彼にスポーツマーケティングナレッジとして伺う話は、Jリーグの経営面においてほかないでしょう。

日本代表サポーターから出発し、かつては「ほとんど興味なかった」というコンサドーレ札幌に今では年間20試合をスタジアム観戦するほどガチンコのJリーグサポーターになったアシシ氏。今回のインタビューでは、Jリーグがなぜ2ステージ制+チャンピオンシップという制度変更をしたか、改めて噛み砕いていただいています。前後編、非常に刺激的な内容となっていますのでぜひともご覧ください。(収録:2015年11月30日 聞き手:澤山大輔[スポーツマーケティングナレッジ編集長])

■札幌サポーターになった背景

アシシ 改めて自己紹介すると、僕はもともとアクセンチュアという会社に新卒で入社しました。その会社を2006年にW杯現地観戦のために退社。その後独立をして約10年間、半年コンサルをして、半年は旅をしてサッカー日本代表を追いかける生活をやっています。2010年には、南アフリカW杯出場32カ国を回る“世界一蹴の旅”をして、著書も出しました。あのあたりからメディアに露出するようになりましたね。

その後は代表を追いかけつつ、Jリーグに回帰しました。実はその頃、Jリーグのサポーターから「あいつはどのクラブも応援してない、なんだあのニワカは」とネット上でボコボコに叩かれてました。まあそれで、僕もいろいろ考え、世界一周している最中に宣言し、グローバルを知った上でローカルへ回帰するという流れでコンサドーレ札幌を応援し始めたんですよ。

で、まあ自分でいうのもおかしいんだけど、かつてはウルトラス・ニッポン代表の植田朝日さんがサポーター代表として認知されていたけど、ある段階からメディア露出をあまりしなくなった。それと入れ替わる感じで僕がメディアに出るようになったり、ツイッター界で認知度が高くなったりして(編集部注:アシシさんのフォロワー数は現在約31,700人)、「アシシは植田朝日の後釜」みたいに言われたりすることがちょいちょいありました。

でも僕は植田朝日さんを目指しているわけではないし、僕はサポーター団体に属さない人間だし、立ち位置が全然違う。だけどまあ、そうやって言われるのは悪い気はしませんが、……こういう話を書くと、炎上するから止めましょうか。

――いや、事実だからいいんじゃないですか(笑)。「炎上するから止めましょう」まで書いてしまいましょう。

アシシ えー、そういうのはちょっと(笑)。まあ原稿チェックさせてください。

■代表からどうやってJリーグに“下ろす”か?

――ところで、コンサドーレ札幌のサポーターになった話なんですけど

アシシ そうそう、かつては日本代表しか応援していなくて、Jリーグには全く興味のなかった人間がある種“下りて”きて地元クラブを応援する、これは一つのサンプルとして面白いと思うんです。

――それはネット上の反発に、ある意味対抗して始めたようなイメージですか?

アシシ いやいや、そんなネガティブな理由だけじゃないですよ! もっとポジティブなきっかけもあって。というのは、世界各国に行くとヨーロッパでも南米でもサッカー大好きな人と仲良くなるわけですよ。そうしたら必ず聞かれるの、「お前はどこのクラブを応援してるんだ?」って。その質問に「代表以外は特に」って答えるのに非常に引け目を感じて。代表チームだけが好きってのは世界的にはかなりマイナーなんですよ。どこかのクラブを応援するのが、スタンダードというか。

日本ってそうじゃなくて、Jリーグより日本代表のほうがはるかに人気がある逆転現象が起きていて、そこに世界とのギャップを感じて。「よっしゃ、じゃあ僕も生まれ故郷のコンサドーレ札幌を応援しよう」と。引け目を感じてた部分が、ある種開花してこうなったという感じですね。

――なるほど

アシシ Jリーグの命題として、いかに日本代表に興味を持ったライト層をJリーグに下ろすかというものがあります。2010年南アフリカW杯で、キャプテンの長谷部誠選手がパラグアイ戦のPK戦に敗れた直後に悔しさを押し殺しながら「皆さんJリーグも見に来てください」とモニター越しに訴えたんです。すごくインパクトのあるコメントだったと思うんですけど、あれが実際できてるかというとできていない。

パラグアイ戦は57.3%と歴代6位の視聴率を取って、まあ日本人の半分以上が見た計算なわけです。けど、チームの半分が国内組であるにも関わらずJリーグの新規顧客は増えなかった。これは大きな課題で、そこをどう解決するかJリーグも5年間いろいろ考えてきたはずなんですけどうまく行ってない。

で、ここにサンプルがいるわけです。もともと代表厨だったのが、今や年間20試合コンサドーレ札幌の試合を見に行く生のサンプルが。もちろん僕は主流ではなく例外系の人間ですけど、サンプルとしては使えるはずなんです。僕も当事者として「代表しか見ない人をどうJリーグに下ろすか」は日々考えてます。

――例外としては東アジアカップですね、国内組だけで構成された。今年はそもそも成績が奮わなかったので無理でしたが、2013年大会は柿谷曜一朗が得点王、大会MVPを山口蛍が取って、“セレ女”ブームを加速させた。

アシシ 今年は全然ダメだったけど、去年の武藤嘉紀にしてもアギーレ元監督が抜擢して、親善試合でゴールを決めたことで彼目当ての客がFC東京に増えた。Jリーグから日本代表のスター選手が出てきて、かつイケメンならなお良い。そういう選手がどんどん輩出されればいいし、そういう意味で次のリオ五輪予選は絶対勝ち抜かなきゃいけない。失敗しちゃうと、すっごくネガティブな報道がされることになる。

――そうですね。リオ五輪代表、見通しとしてはかなり厳しいですが……

アシシ 僕も相当厳しいと思う。今回の予選は前回までのホーム&アウェイじゃなく、セントラル開催での一発勝負だから、メンタル弱いこの世代だと尚更苦しい。僕は来年夏のリオ五輪に現地参戦する予定だから、何とか勝ち上がってほしいんだけど。

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■「2ステージ制はお金のためだ!」と言い切っていい

アシシ それはそうと、こないだホリエモンが出てたスカパー!の「Jリーグラボ」を見たんだけど、Jリーグの改革で重要なのはリーグのプレミア化、専スタ導入、デジタル化の3点って話をしていたのね。これ、アスリートナレッジに載ってたMLSの話と一緒じゃん!て思いました(笑)。意外とホリエモンもこのコラム、読んでるのかもね。

――まあ意図的に似せたわけじゃないと思いますけど……。リンクを貼っておきますので、未読の方はぜひ。(参照1参照2

アシシ ホリエモンの提案は、いわゆるピラミッド構造でいうところの上層部の話。それに対して、ピラミッドにおける下の部分、ボトムの領域の整備は既に52クラブできたことで一つの通過点を迎えたと思うんです。都道府県全部にクラブができたわけじゃないけど、都道府県数の47という数字を超えたのは一つの区切りかなと。言うなれば、ボトムの領域における草の根運動は各クラブが独自にやってくれ、と運営サイドが切り分けたんじゃないかと。

――既存顧客へのアプローチは各クラブに任せた、と

アシシ J3で小規模予算のクラブは、身の丈にあった健全な経営をして、観客何千人の中でやって、その上でJ2に上がりたければ予算を増やして。そこはもうクラブに任せた、というスタンスだと思います。で、ボトムの部分はそうやるとして、いまJリーグは頂点の部分をどう引き上げるかに注力してると思う。そこを、アドバイザーを呼んでいろいろ議論している。プレミアリーグ化とか、民放に放映権を売るとか、専スタで人を呼ぶとか。で、その過程に移るとき、2013年かな? Jリーグ本体の来季予算が10数億円減る事態が起きた。

――協賛金が約10億、放映権料も約4億円減ったと

アシシ Jリーグの中西大介事務局長曰く、“ゆでガエル”状態だと。要はRPGでいうところの、HPがどんどん減ってく状態に陥ったわけですよ当時。

――毒の沼地やバリヤーを歩いて、一歩ごとに1ポイントとか減ってくやつですね。まあ、RPGやったことない人にはわからないたとえかもですが(笑)。

アシシ で、回復させるために何らかの施策は取らなきゃいけない。それが代理店変えるとかいろいろあったと思うけど、2ステージ制に戻して放映権料を、冠スポンサーをつけて協賛金を取る。これは、当然の施策です。ただ、Jリーグはこれを「お金のためだ」と言い切る潔さが足りなかったと思いますね。

――僕もそう思うんです。「お金のためだ」と言ってよかったのではと

アシシ ただ、なんでそう言えなかったかというと、いわゆる日本に蔓延る“嫌儲”主義のせいですよ。世の中的に、お金のためだと言うと総バッシング受けるわけ。そのことを理解してくれるのは、ホントにビジネスに関して理解がある、一部の人たちだけ。で、ネット上にいるJリーグのサポーターはというと、ぶっちゃけそんな人は少数(笑)。

――お金に関し、やたら潔癖な人たちが多いことは実感してます(笑)。

アシシ 単純にネット上で、お金は炎上ワードなわけ。わかってる人たちは「そりゃそうだよね、HPがゼロになったら死んじゃうんだもんね」となるのは当然の話なんだけど、お金のために何かやることをすごくネガティブに捉えるのは日本社会の悪いところです。ただ、そこまで腹を割って話さないと誰も理解してもらえないところまで来てるようにも思いますね。そこまで危機感をもってやらなきゃいけなかった。

あそこで村井チェアマンが、2ステージ制にしたことで山場がたくさんできて、お客さんが増えるんですと言ってたけどそうじゃないでしょ、もっとネガティブな理由があるでしょと。

■2ステージ反対の人も結局は来場した

――僕もTwitterで何度か書いたんですけど、2ステージ制にしたのはお金の問題なんですよ。で、それをそのまま書かなくても、うまい伝え方はあったと思います。一部の声の大きな人たちだけかもしれないですけど、「お金の問題です」ってのが全く伝わってないのはコミュニケーションとしては失敗だと思います

アシシ そこの話をすり替えちゃったことがもろバレで、そこは墓穴をほっちゃったなと。で、もう一つの新規顧客開拓という部分はポジティブな理由です。ただし、それはJリーグ全体にとってはポジティブなんだけど、既存顧客にとっては関係ないというかむしろネガティブなんですよね。既存顧客からすると、2ステージ制は改悪でしかない。

マーケティングの話で言うとパイの奪い合いとか言いますけど、神奈川県にはいまJクラブが6クラブ(横浜FM、川崎F、湘南、横浜FC、SC相模原、YSCC横浜)あります。そこで神奈川県民の奪いあいが起きますと。それとはまた別に、パイの厚みを増やすのが既存顧客の満足度向上だったり、パイの面積を増やすのが新規顧客開拓に喩えられたりするわけです。で、今回の2ステージ制とチャンピオンシップの導入ってのは、パイの面積を増やす施策なわけで、厚みを増やすためではないんです。

要はね、既存顧客はクラブに一生の愛を誓ってるわけだから、クラブがよほど変なことをしない限りはどんなにリーグ全体のルールを改悪しようと君たち金落としてくれるんでしょ? ってJリーグ本体は腹の中で思ってるはずなんです。絶対表ではそんなこと言わないけど。リーグのことをバンバン嫌ってくれていい、だけどあなたたちは最終的にお金を落としますよね? と。

――まだ2015年の観客層の分析は出てませんが、過去の記録を観てもJリーグはリピーターが非常に多いわけで、2ステージ制になったからといってリピーターが急減するとは考えにくいですね。で、実際に2015年はむしろ動員増という結果になりました。

アシシ パイの厚みを増やすところはクラブに任せていて、Jリーグはパイの面積を増やすことに専念する。そういう作業の切り分けが、表では言わないけどやっていると僕は推測しています。パイの面積を増やすために、ホリエモンとかを呼んでいるんです。2ステージ制に反対してるコアサポに対して、「あなたたちは相手にしてないの、既存顧客向けの施策じゃないからそもそも!」ってのが透けて見える。だけど、それを言っちゃうと炎上するから言わない(笑)。

既存顧客は「村井がー、この野郎」みたいな話をよくツイッターでハッシュタグつけて愚痴ってますけど、僕が普段仕事してるコンサルティング業界でもこれはよくある話なんですよ。当然、改革をするときにはそこにすでにいる人達には痛みでしかない。コンサルは変革請負人みたいなもんなんで、クライアントの現場の人にはよく嫌われます。でも痛みを乗り越えて組織全体が利益を享受するために、嫌われ役も買ってでるんです。そういう意味で、2ステージ制も痛みを伴うけど、結果的に「リーグ戦の観客が増えた」という成果を見せつけて、改革を無理矢理推し進めようとする意図が透けて見えますよね。

で、僕は今回の件では既存顧客側だから。「そこのロジックおかしいよ」と突っ込みたいところはあって、例えばJ1からJ3まで足した全体の動員実数が増えるのは当然。だって昨季からJ3に山口が加わって、試合数そのものが増えてるんだから。絶対数は当然増える。だけど、今年は動員の平均でも増えた。これは正直意外だった。けど、いろいろな要素を見ていくと、J1で雨が降った試合が昨季から半減したとか、明治安田生命さんが計12万人動員したとか、その辺を見ていくと動員平均が増えたのは2ステージ制導入のおかげ、というロジックは無理があると思ってます。でも所詮そんな要因分析が詳細にされるとは思わないんで、エイヤで2ステージ制成功!とJリーグは結論付けると思います。

――ただ、僕が思っているのは「2ステージ制にしたのにお客さん減らないんだ!」ってことなんですよ。浦和のゴール裏でたくさん横断幕が掲げられたことを筆頭に、2ステージ制についてはかなりの既存サポーターが否定的でした。だから、導入されたことで観客は減るものだと思ってた。ところが、いろいろ要因あるにせよトータルは増加した。

観客層の分析がまだですけど、仮に既存顧客が大きく減ったならそのぶん新規顧客がそれを補って余りあるほど増えたってことで施策導入の目的は達成した。既存が大きく減ってない、トントンなら新規が多少増えた。どのみち、2ステージ制は失敗ではないという程度の結論は導き出せる状況かなと。

アシシ 2ステージ制に反対していた一番のクラブは浦和ですけど、全体の動員は2014年より5万人ぐらい、1試合平均でも3,000人増えた(追記:昨季無観客試合が1試合あったので、実際は1~2万人増)。2ステージ制になったから行かない、って人たちはTwitterで何人も見たけど、その減った人たちを補うぐらいの人が来たわけです。なんだよ、反対反対って言ってても結局来るんじゃん! と。

――しかも浦和の場合、ファーストステージは優勝したもののセカンドステージは取れなくて、目標にしていた年間優勝も逃した。1シーズン制ならもうチャンスはなかったけど、CSのレギュレーションによって完全優勝するチャンスを再び得られた。CSに一番反対していたクラブが、その制度である意味救済される皮肉な状況になってしまいました

アシシ しかもCS準決勝で負けてしまったから、救済措置を得ながらさらにずっこけてしまい、天皇杯の結果如何では変わる可能性あるけど、現時点でACLに関してはプレーオフに回るという悲劇。でもまあ、なにしろリーグ戦を終えて「あ、既存顧客は来るじゃん」という結果がでてしまった以上、これは僕ら既存顧客の敗北と言っていいんじゃないかと。

<後編へ続く>

(転載元:スポーツマーケティングナレッジ

プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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