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Jリーグのチャンピオンシップ導入、ぶっちゃけ既存顧客は眼中にない

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

2015年の明治安田生命Jリーグの全日程が終了した。J1リーグはサンフレッチェ広島の優勝で幕を閉じたわけだが、週明けに別媒体にて公開された筆者のインタビュー記事が物議を醸している。

今年から導入された2ステージ制&チャンピオンシップの制度が成功だったか否かについて、経営コンサルタントの視点と既存顧客の視点、両面から遠慮ない物言いで持論を展開したのだが、この記事がツイッターで物凄い勢いで拡散された。Yahoo!のリアルタイム検索をすると、そのRTの多さが窺い知れる。

許可を頂いた上で、スポーツマーケティングナレッジに掲載された筆者のインタビュー記事の後編を以下に転載する。

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'''>>【前編】「Jリーグの動員増は、2ステージ制反対派の敗北を意味する」村上アシシ インタビュー'''

■「決戦」は日本人受けする

アシシ 2ステージ制を巡る争いは反対のシュプレヒコールがガンガン挙がってたので、反対票が多くなるかと思いきや、結果的に動員平均が逆に増えた。選挙をやって開票してみたら、賛成票のほうが多くて「はい、可決!」みたいな(笑)。だから既存顧客は今後どう文句言おうが、2ステージ制は来期以降も成功事例として語られていくことはほぼ決まった。

――そうですね。

アシシ で、CSの結果についてどういう指標を見るかというと、僕は観客動員数はどうでもいいと思ってます。Jリーグはどう思ってるか知らないけど。地上波ゴールデンタイムで新規顧客開拓するための施策であり、合わせ技でお金を取ってくるものだから。Jリーグのコンテンツをもう一度地上波ゴールデンタイムに復活させ、かつ今回はホームアンドアウェーだから一発勝負じゃ厳密にはないけど、決勝戦があって「ここで負けたら終わり」と明暗がくっきり分かれる試合を12月2日・5日と決めてやるのは、新規顧客開拓と放映権料獲得の2つの視点でいうと、僕はすごく意義があると思う。

――同感です。今まで1ステージ制の何が問題かというと、いつ優勝チームが決まるかハッキリわからなかったこと。「必ずここで優勝チームが決まる」「明暗のコントラストがハッキリ出る」、もっと言うと「残酷な敗者が浮き彫りになる」。そこが、テレビ的な価値が大きい。

アシシ それはメディア受け、スポンサーを取るときにすごく重要です。リーグ戦34試合やるのって、ミーハーな人達にとっては「だって34分の1でしょ?」って話になるわけです。決勝トーナメントの何がいいって、一発90分ですべてが決まること。負けたほうがうなだれて、勝ったほうが超喜んでいる。サッカー高校選手権の決勝はね、18歳のまだ無名な子たちが高視聴率を取るんです。ああいう「決戦」が人気を博するのは、日本人の特性だと思うんですよ。

――帝政ローマ時代にもグラディエーターがいて、剣闘士同士や猛獣と戦わせてそれを見世物にしていた。負けた側は、残酷に死ぬ。観客は安全な立場から、その残酷な見世物を享受する。それは一発勝負が受ける心理と通底しているのかなと思います

アシシ そういう生きるか死ぬかの決戦がちゃんと日付が決まって、地上波に復活させたっていうのは新規顧客開拓においては一番のネタになるし、よくやったと思ってます。

――地上波ゴールデンを確約させて、放映権料は報道されているより少ないにしてももらって、とJリーグ側はよくやってると思いますね。

アシシ 高校選手権がなぜあんなに育ったか、同レベルの高円宮杯が全然取り上げられないのに、なぜこれほどメディア露出が違うかというと日テレが決勝トーナメントの魅力を引き立てて、長年かけて育てたわけです。

スポーツビジネスとして、箱根駅伝とか甲子園と一緒で、スポンサーを集めてストーリーを作って一発勝負にした。日本ってドイツとかよりは地方の帰属意識は薄いと思うけど、それでも自分の出身の都道府県や学校を応援する傾向にある。そういった帰属意識を駆り立てて、学生同士の競技でも「決戦」を演出することで、甲子園や国立競技場が満員になって、桁違いの視聴率を取るんです。要は、こういったアマチュアスポーツにプロのJリーグは負けてるわけです。

――レギュラーシーズンに関しては間違いなく負けていますね。優勝決定戦、ナビスコカップ決勝、天皇杯決勝ぐらいしかない。

アシシ そういう意味で言うと、日本人の特性に合わせて100かゼロかが決まる場を設けるというのは起爆剤として必要です。リーグ戦34試合をずっと行く人たちというのは日本人全体で言うと非常に少数でしかない。

――Jリーグのユニークユーザーは40万人とも言われてますから、日本人全体でいうとまだまだ約0.3%でしかないわけですね。

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■村井チェアマン体制は信任されたも同然

アシシ コアサポではない、その他大多数のミーハーな人たちをどう刺すか。今回のチャンピオンシップ導入は、1億2千万人に向けた施策なの。リピーターである0.3%の既存顧客は眼中にないの。「やるかやられるか」のエンターテイメント性を強調した舞台を無理矢理作り出して、地上波のゴールデンタイムにぶつけて、Jリーグの面白さをマーケティング分野でいうところの「認知」してもらうのが目的なんです。

それが切っ掛けになって、購買行動プロセスにおける次の「興味」ステップに進んでくれる人たちが大勢生まれれば、Jリーグとしては万々歳なの。そういうフックになるためのCSですよってことを、もっとひたむきにわかりやすくみんなに説明しろよ村井!(笑)元リクルートなんだから!

――アシシさん、酔いが回ってきました?(笑)(編集部注:この日のインタビューはお酒をたしなみながら行ないました)。ただ僕、CSの視聴率はあまり取れないと思っています。ガンバ大阪と広島にはそこまで因縁めいたものはないから、ストーリーが作りにくい。浦和対広島なら、すごく簡単ですけど(笑)。(編集部注:決勝第一戦の関東地区平均視聴率は7・6%、第二戦の関東地区平均視聴率は10・4%を記録)

アシシ あと、報道では関東地区の視聴率が表に出る。関東の視聴率がいかに取れるかが、指標になってます。その時、広島と大阪のチームでどれだけ関東の視聴率が上がるかというと疑問はある。昇格プレーオフのように90分で同点の場合、年間順位で上位のチームが勝ち抜け、というルールにしておけば、因縁の対決が実現したのに、Jリーグ的にはもったいなかった。

あれはきっとファーストステージ1位、セカンドステージ1位も入れて最大5チームで争うことになったとき、両者と年間順位2位、3位のどちらが上と決めることが難しかったからだと思う。年間順位1位を優遇するなら、年間順位2位も3位も同様に優遇しておけば、浦和が今回勝ち抜けたなーと(編集部注:CS準決勝は90分終了時にスコアは1-1。年間順位が優遇されれば、年間2位だった浦和が勝ち抜け)。

――来年に向けた検討課題なのは間違いないですね。昇格プレーオフでは引き分けの場合、年間順位が上の方が勝ち上がるとしているのにCSではそうではない、というのはちょっと違和感ありますね。

アシシ CS・2ステージ制の話に戻るけど、要因をもっと精査する必要はあるにせよ、「既存顧客は減らない」という結論になったことは一つの大きな分岐点だと思ってます。本当に反対するなら、行かなきゃいいんです。でも行ってしまった、なぜならそこにはクラブ愛があるから。

――言い方は悪いけど、クラブ愛を人質に取られている以上、既存顧客は最初からこの“戦い”は敗色が濃厚だったのかもしれません。まあ、何をもって戦いとみなすかというところもありますけど。

アシシ 見透かされてます、と。さっき言った作業の切り分けとして、クラブは既存顧客の満足度向上のために頑張ります、リーグは新規顧客開拓のための施策をひたすら打ちますと。こういう構図になると、既存顧客からしてみるとクラブは神でありJリーグ側は悪なわけです。悪玉。それに向かって群衆がいろいろ文句を言おうが、悪玉にとっては痛くも痒くもないわけ。「だってお前ら来るでしょ? だったら、ヒール役に徹しますよ」という構図ができている。

CSもどんな結果になろうが、地上波でナビスコカップ決勝の4%を超えればOKだと思っていて。決勝戦の第一戦は水曜だから難しいけど、土曜に開催される第二戦はどれぐらい行くか。Jリーグの幹部にとっては地上波で何%露出したかが来季の指標になる。それをもとに、Jリーグマーケティング委員会のアンディ秦さんたちが来季のスポンサー料を試算するわけです(参照)。

「観客動員が増えた」というファクトを既存顧客も含めて作ってしまった以上、村井体制は信任されたも同然。コアサポが反対デモをどんなに続けようが、村井さんはこのまま突き進みますよ。

――それで言うと、僕は既存顧客の中でもマイナーなほうなのかな……(笑)。なんやかやで2ステージ制でも楽しんでるし、CS通じてもらえるお金も増えたし、CWCでさらにお金が入るし(編集部注:インタビュアーの澤山は広島サポ)。まあ広島の成績がいいってことがあるかもしれないけど。

■2SがイヤならJ2へおいで!

アシシ 遠藤保仁の発言がすべてを物語ってるなと思っていて。彼はCS関連でインタビューされるたびに「僕らは失うものは何もない」って言ってるんです。ルール上は3位だったのが「命拾いしたので戦います」「失うものはなにもないんで頑張りま~す」、と。

――広島サポとしてはすっげえ嫌だ(笑)。それをまた、遠藤選手は絶対にわかってやってそうだな~。

アシシ 焚きつけてるよね、これは。ルールを逆手に取ったインタビューだな、自分たちをいかに優位にさせるか、今回のルール改訂によって当然ながら損をする選手も得をする選手もいる。で、遠藤は得をしているから。それを、ポジティブには言わないわけです。「勝負には負けたけど、敗者復活ルールのおかげで蘇ってきました」と。彼らしい、ひょうひょうとした言い方ですよね。

――締めとしては「Jリーグはもっとヒールになっていい」ってところでしょうかね?

アシシ これ、僕はサポーター当事者だから言えるんですよ? Jリーグから取材パスもらってるライターさんにはきっと書けない。新規顧客開拓路線に思い切り舵を切った村井政権は「客が増えた」イコール、サポーターに信任されたと見做して、さらにこの改革路線を加速させるでしょうね。ちなみに僕は既存顧客とは言いつつも、J2の札幌サポです。結論としては、2ステージ制が大嫌いなら、J2に降りてくればいいんです。J2にはリアルフットボールが存在します。1ステージ制は本当に楽しいですよ!(笑)

――そんな締めでいいんですか(笑)。まあたしかに2ステージ制を成功裏にさせてしまったことは事実としてある。CS決勝の視聴率も今後評価しなくちゃいけませんが、おそらくJ1は2ステージ制+CSが当分続くのは間違いなさそう。

アシシ 今のJリーグは過渡期なんです。ゆでガエルを脱するには、冷や水の冷たさにも耐えなくちゃいけない。そういった痛みをサポーターも分かち合って、JリーグがV字回復するのを待ちましょう。Jリーグがお金の危機を脱し、新規顧客も右肩上がりで増える土壌ができれば、きっとまた運営はリアルフットボールの1ステージ制に戻してくれるはず。それまでの間、村井さんにはヒール役に徹してもらって、2ステージ制反対派はバンバン文句を言い続ける。それでいいと思います。

以前あるイベント会場で僕、村井チェアマンと雑談する機会があったんですが、その時に彼は「どんどんJリーグを批判してください」と言ってました。チェアマン本人がそう言っているんです。2ステージ制反対派は、これからも継続して反対の声をあげればいい。聞く耳持ってんのかは知りませんが、そうやって下から突き上げ続けるのも、ある意味組織として健全であり、いつか1ステージ制に戻すためには必要なことだと僕は思いますよ。

――前向きな形でうまくまとめましたね! 弊社のコラムとしても、歯に衣着せぬ意見を今後も発信していきたいですね。今日はありがとうございました。

<了>

(転載元:スポーツマーケティングナレッジ

プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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