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災害時の公務員の過重労働(続報)

関谷直也東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター准教授
(写真:アフロ)

既報(災害時の公務員の過重労働)の続きです。

一応、さまざまなまとめができると思いますし、単なる記事批判にしたくないという考えは変わりませんが、常総市議遠藤ふみえ議員の名誉回復のために、私も発言録を確認してみました。

常総市議会インターネット議会中継 平成27年11月定例会議 12月4日本会議一般質問 遠藤章江議員

要点をまとめまめると下記のようになります。

  1. 阪神・淡路大震災ほか、他の災害でも災害時に給与が高額になるのは珍しくない。ボランティアも寝ずに頑張っているという声もあるし、市民感情あるけど、職員の健康管理をきちんとして欲しい。きちんと、奉仕者として職員のことを考えて欲しい。
  2. 社会保険の関係で4月から6月に起こった場合、社会保険料があがってしまったり生活を圧迫する可能性がある。選挙の時に給付される特別手当のように災害時の特別手当を考えてもよいのでは(→これに大して市側が答弁として、これについて他の市町村の例を調べると回答)。
  3. 無理に職員を召集したために、職員の車が水没してしまった。だから決壊現場にいけなくなってしまった。召集体制を再考すべきではないか。
  4. 子どもがいる共働き夫婦の職員が「職務だから」といって何日も帰っていない。戦時中ではないので、子どもがいる職員のことを考えて欲しい。

なお、この遠藤議員は当日も市役所におり、そこで職員の対応を一晩、みていたり、職員の様々な方と話した上での質問でした。

遠藤氏は「もらう権利はあるが、全国から来たボランティアが無償で働いている中、市職員が多額の給与をもらうことに市民から疑問の声が上がっている」と指摘。給与が高額にならないよう、災害時の特別給与体系の創設を求めた。岡田健二・市総務部長は「全国の自治体の例を調べ、国とも協議したい」と検討する考えを明からにした。

出典:毎日新聞記事:常総市 市職員、9月分給与100万円超も 水害対応で、残業最高342時間

との記事でしたが、発言と照らし合わせると、基本的には、

  • 遠藤議員の質問は、(疑問の声が上がっているけど)職員の立場を尊重せよ、というもので職員を批判するような趣旨ではない。
  • 「給与が高額にならないよう」という趣旨の発言はない。むしろ、逆で、今後の災害で社会保険料あがって職員の生活を圧迫しないように給与体系を考えてはどうか、という質問。
  • 市側の答弁も、それについて調べるというもの。

前後の「職員の健康管理」「社会保険」「職員の車の水没」「子どもの問題」などの発言をみれば、遠藤議員が常総市職員のことを考えての質問であることは明らかで、意図的に「職員の健康管理」「奉仕者としての職員の立場」「社会保険」のことを文章で表現していないと考えられます。この記事は悪質というか、相当、問題があると思います(「傍聴席の市民から大きなため息が出た」というのはインターネットの録画からはよくわかりませんので、あえて言及しません)。

大規模災害や水害においては、住民のフラストレーションがたまり、行政に批判的になります。また自然災害においても(もちろん対応の問題はありますが)本質的には、事件・事故や不祥事のように悪者をみつけ叩くということが行われやすいものです。

ただ、そもそもとして、災害は事件・事故や不祥事ではありません。報道であれ、検証の取り組みであれ、研究であれ、災害への取り組みは基本的には次の災害被害を減らしたり、災害対応の問題点を減らすために行われるべきものです。

災害報道においては、犯人探しや責任追及を前提とする報道・検証から脱皮する必要があります。

東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター准教授

慶應義塾大学総合政策学部卒。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程、東京大学助手、東洋大学准教授(広告・PR論)、東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター特任准教授を経て現職。専門は災害情報論、社会心理学、環境メディア論。避難行動や風評被害など自然災害や原子力事故における心理や社会的影響について研究。東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調)政策・技術調査参事、内閣官房東日本大震災対応総括室「東京電力福島第一原子力発電所事故における避難実態調査委員会」委員、などを歴任。著作に『風評被害―そのメカニズムを考える』、『災害の社会心理』。

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