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適度な飲酒ってどれぐらいなの? 飲酒と健康の関係のお話

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

5月14日の記事ではアルコールの利尿作用による脱水や代謝への影響で太りやすくなる話をいたしました。脱水や肥満は本人も自覚しやすい問題ですが、アルコールの体への影響は様々で中には静かに進行し、気がついたときには体に深刻問題な状態に・・・ということもよくあります。

今回は慢性疾患や栄養素欠乏の問題など、習慣的なアルコール摂取の危険性についてお話をします。

■慢性疾患とアルコール

酒は百薬の長などともいわれますが、様々な慢性疾患の原因になることが知られています。

【肝障害】

お酒の飲み過ぎの害として認知度が高いのが肝臓の病気ではないかと思います。肝臓はアルコールを体にとって無害な成分に代謝する重要な役割をもっていますが、多量のアルコール摂取(1日あたりのアルコール摂取量で40g以上)が続くとアルコール性肝疾患の危険性が高くなるというデータがあります。

アルコール性肝疾患は、脂肪肝、アルコール性肝炎および肝硬変を指しますが、食事からのエネルギーが十分な状況で大量のアルコールを摂取すると肝臓は中性脂肪を合成するようになります。消費を超えた脂肪は肝臓自体にに蓄積し脂肪肝の原因になります。脂肪肝は食生活を見直すことで改善することが可能ですが、そのままの飲酒習慣を続けてしまいますと肝硬変に移行する事がありますので要注意です。肝硬変は生活を改めても元には戻らない状態ですので、そうなる前に節酒や断酒を行う事が必要です。

肝硬変は、肝炎ウイルスに感染している人の方がなりやすいことが知られており、肝硬変から肝臓がんに移行するケースもありますから該当する人は肝臓の健康状態に特に気を配る必要があるでしょう。また、短期間の大量飲酒はアルコール性肝炎の危険性を高めます。

【高血圧】

アルコールと高血圧の関係は多くの疫学研究により確認されています。この血圧上昇は少量飲酒でもおこり、飲む量が増えるほど血圧上昇の幅は大きくなります。大量飲酒者では禁酒により血圧が低下することが報告されており、血圧とアルコールには密接な関係があることがわかります。食塩の摂りすぎで高血圧が心配な人は特に気をつけて欲しいところです。血圧上昇は出血性の脳卒中の危険因子にもなります。

【心疾患】

他の病気とは違って、少量飲酒者ではむしろ心筋梗塞の発症率が低下することが多くの疫学調査により報告されております。とはいうものの、飲む量が増えると心筋梗塞のリスクは高くなるため注意が必要です。この少量飲酒の心筋梗塞予防効果は後述しますが、様々な要因が複雑に関わっていると考えられますので、「心筋梗塞予防にお酒を飲んでいいぞ!」と飲酒の口実にしない方が良いでしょう。

【がん】

アルコールはWHO傘下のがん研究機関(Agency for Research on Cancer)において明確な発がん物質として分類されている物質です。主に上部消化管がんや肝臓、直腸、結腸がんの危険が高くなると考えられています。女性ではさらに乳がんについても関連性が指摘されており、たばこほどではないものの多量飲酒者ではアルコールの発がん性を無視できません。

【糖尿病】

糖尿病の方では飲酒は御法度と一般に認識されておりますが、その悪影響は今ひとつはっきりしないようです。もちろんそれは少量たしなむ程度の飲酒についての話で、習慣的な飲酒により脂肪肝や脂肪の蓄積が増えると血糖を下げるインスリンの働きが悪くなり、糖尿病の危険性を高めます。糖尿病では食後の高血糖が心配されますが、アルコール自体は肝臓での糖質をつくる働きを妨げるため低血糖*1になることもあります。そのため、糖尿病の方が飲酒をする場合は、低血糖予防のためにもお酒だけでなく食事もしっかり摂ることが大事です。

【骨粗鬆症や骨折】

多量にお酒を飲む人では消化管の粘膜が障害され、カルシウムやカルシウム吸収の為に必要なビタミンDが不足することで骨粗鬆症の危険が高まります。アルコールの直接的な作用として、骨をつくる骨芽細胞の活性を低下させるため、骨が脆くなり骨折の危険が高まると考えられます。

■アルコールと栄養素欠乏

アルコールの摂り過ぎは消化管への負担や、栄養素代謝に重要な肝臓にダメージを与えることにより栄養状態にも悪い影響を与えます。大量飲酒者では下痢によってミネラルが流れ出してしまうことも心配されます。

【ビタミンB1】

大量飲酒者にはビタミンB1欠乏が多いことが知られております。これはアルコールの影響でビタミンB1の吸収が低下するだけでなく、大量飲酒する人の食事内容が偏っているためと考えられます。大量飲酒者ではビタミンB1の貯蔵能力も低下するため、毎日十分な量を食事から摂る必要があります。ビタミンB1の欠乏は脚気やウエルニッケ脳症など神経系の重篤な症状をおこす原因になりますので要注意です。

【葉酸】

お酒を飲む人は特に気をつけなければならないビタミンと謂えるでしょう。アルコールは葉酸吸収を悪くするだけでなく、葉酸の肝臓などでの代謝にも悪影響を及ぼし、巨赤芽球性貧血をはじめ、妊娠後の胎児の成長への悪影響、大腸がんや直腸がん発生リスクの上昇など深刻な問題を引き起こす可能性があるため、とても注意が必要です。

【マグネシウム】

アルコール依存症や大量の飲酒を習慣的に行う人ではマグネシウム欠乏が心配されます。マグネシウムは様々な代謝酵素に関わる重要な物質ですので、影響は多岐にわたりますが、不整脈のような命にも関わる深刻な病気を招く危険性があります。

【亜鉛】

アルコールは亜鉛の吸収も低下させますが、マグネシウムと同様に体の反応をすすめる複数の酵素にかかわる重要な栄養素ですので不足による影響は様々です。アルコール分解を担うADHという酵素があるのですが、合成には亜鉛が必要であるため、亜鉛欠乏がアルコールの害をさらに増強させる悪循環に陥る可能性が心配されます。

■ほどほどの飲酒は健康に良い?

アルコールの問題点を指摘してきましたが、ほどほどの飲酒は日常生活に潤いを与えることで健康面に対しても良い効果をもたらすと考えられております。

【食欲の増進】

なんとなく食欲がない時にもアルコールが入ると食が進むことがあります。食事を美味しく楽しめる節度のある飲酒は食生活を豊にするかもしれません。

【心理的効果】

普段の生活やたいへんなお仕事からちょっと離れ、新鮮な気持ちで親しい人とコミュニケーションをとるのにお酒は役立つと考えられます。また、落ち込んだ気持ちを切り替える効果もあることでしょう。しかし、この楽しい経験がお酒の依存症への動機付けにもなりかねません。

【心臓の保護作用】

いわゆる善玉コレステロールと呼ばれるHDLは習慣的なアルコール摂取により血中の濃度が高くなります。これがアルコールの心保護作用に影響しているとも指摘されます。このHDLを増大させる効果の他に、ほどほどの飲酒習慣の人に良い食習慣の人が多いことも関係しているともいわれていますので、お酒の効果を過信しないほうが良いでしょう。この他、アルコール自体に血液がかたまってしまうのを防ぐ抗凝固作用があり、心筋梗塞や脳梗塞の予防に良い影響を与えているようです。

【死亡率低下】

アルコール摂取と死亡率の関係を調査した結果をグラフにすると、少量の飲酒者については全く飲まないグループと大量に飲むグループに比べると死亡する人の割合が少ないことが、信頼性の高い疫学調査の解析結果*2より確認されています。これを「Jカーブ効果」呼び、少量飲酒に健康効果があるという話の根拠として紹介されます。死亡率が一番低いとされるアルコール摂取量は1日あたり7gで、この量を上回るほど死亡率は少しずつ高くなっていきます。

■量に気をつけて楽しい飲酒を

アルコールの健康に良い作用も紹介しましたが、それが発揮されるのは適度な飲酒を行った場合であるという事を忘れてはいけません。では、適度な飲酒とはどれぐらいなのでしょうか?

厚生労働省の進める「健康日本21」では節度のある適度な飲酒量を1日平均純アルコール量で20g程度としています。

ただし、この節度ある適度な飲酒量は誰にでも当てはまるものではないことに注意が必要です。例えばお酒を飲むとすぐ赤くなってしまう人ではもっと少ない飲酒量が適量になりますし、平均的な女性は20g未満が望ましいと考えられます。また、高齢者の適量や基礎疾患のある人では飲酒量に注意が必要です。

適量には個人差があるので、この程度なら大丈夫と安易にお酒を勧めるのは避けた方が良いでしょう。

では、この20gのアルコール量は実際のお酒ではどれぐらいになるのでしょうか?

アルコール飲料のラベルなどにはアルコール濃度が記載されておりますが、%(パーセント)や度などと書かれています。これを重量に換算する必要があるのですが、アルコールは水よりも比重が小さく(水を1とすると0.8)次のようにすると計算できます。

画像

この例ではちょうど適量ということになりましたが、思っていたよりも少ない量ではないでしょうか?

健康的なアルコール量というのは意外と少ないということをおぼえておいてほしいです。

■今回のまとめ

アルコールは私たちの生活を豊かにしてくれますが、それは節度を守ってこそのものです。楽しい飲酒習慣を続けるために、今回の記事が参考になれば幸いです。

'''・適量の飲酒は生活や健康に良い効果があると考えられます

・日本人の適量は1日あたりアルコール量では20g程度とされています

・適量はビールなら500g1本、ワインなら200ml程度、日本酒なら1合ほどです

・栄養素の吸収を邪魔します。お酒はバランスの良い食事と一緒に

・飲み過ぎは様々な病気の原因になります

・適量には個人差があります。他人には無理にお酒をすすめないように'''

  • 1 エタノールをアセトアルデヒドへ、アセトアルデヒドを酢酸へ代謝するときに、NADHという物質が生成しますが、大量飲酒でNADHが大量につくられバランスが偏ると、糖新生の中間代謝物であるピルビン酸を乳酸に、オキサロ酢酸をリンゴ酸に還元してしまうためグルコースの産生が低下します。食事由来の糖質が少ないと低血糖に陥る可能性があるため注意が必要です。
  • 2 Di Castelnuovo A, Costanzo S, Bagnardi V, Donati MB, Iacoviello L, de Gaetano G. Alcohol dosing and total mortality in men and women: an updated meta-analysis of 34 prospective studies. Arch Intern Med. 2006 Dec 11-25;166(22):2437-45.
管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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