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今年多く発生した「スーパー台風」だが誤解も多い

饒村曜気象予報士
台風の渦巻き(写真:アフロ)

平成27年の台風発生数は、11月までに26個です。例年ですと12月に1個くらいは発生しますので、平年値25.6個を若干上回った年になりそうです。

しかし、「スーパー台風」という言葉がよく使われたように、猛烈に発達した台風の数というと、例年よりかなり多い年でした。

近年、地球温暖化との関係で「スーパー台風」の日本接近が増えるのではないかということが話題となっていますが、「スーパー台風」には誤解が多くあります。

「スーパー台風」は日本の定義ではない

気象庁では、最大風速が17.2m/s(34ノット)以上の熱帯低気圧を台風とし、台風の中でも、最大風速が大きいものは、「強い台風」「非常に強い台風」「猛烈な」と、特別な形容詞をつけて表現しています。「猛烈な台風」が一番強い台風です。

表1 台風の強さの分類(気象庁HPより)
表1 台風の強さの分類(気象庁HPより)

これに対して、アメリカ軍の合同台風警報センター(JTWC)は、平均風速の最大が130ノット(67m/s)以上の台風をスーパー台風として統計をとっていますが、このときの平均風速は1分間の平均風速です。

「スーパー台風」は、日本での気象用語としての定義はありませんし、もともとは比べられない平均風速が基準となっています。というのは、日本で使う平均風速は10分間の平均風速だからで、平均する時間が短いアメリカ軍の平均風速のほうが、必ず大きくなります。平均する時間がもっと短くなって3秒になれば瞬間風速ということになりますので、アメリカ軍の平均風速は、日本でいう平均風速より瞬間風速に近い値です。

平均風速の定義が違うので「スーパー台風」はほぼ「猛烈な台風」に該当

気象庁が台風作業で用いている換算表によると、JTWCの130ノットは、気象庁の105ノット(54m/s)に相当します(表2)。気象庁の台風の分類で最強は、10分平均で54m/s以上の「猛烈な台風」ですので、JTWCの「スーパー台風」は、気象庁の「猛烈な台風」にほぼ該当します。

表2 気象庁の風速とJTWCの風速の換算表(単位はノット)
表2 気象庁の風速とJTWCの風速の換算表(単位はノット)

最初の「スーパー台風」は昭和51年の台風6号

日本から南へ飛行機で約3時間、そこに長さ52km、幅6~16kmの細長いグアム島があります。アメリカにとって戦略上重要な基地の島ですが、昭和51年5月21日に台風6号が南東海上から直撃しています(図)。

図のA地点で最低気圧931.7hPa、B地点で最大風速71m/sを観測しました。

台風の移動速度が遅く、グアム島通過時には時速5~6kmくらいで、小さなグアム島を通過するのに3時間半もかかっています。

このため、グアム島は長時間にわたって強い風が吹き荒れ、50m/sという猛烈な風が6時間、25 m/sという暴風が30時間も続いています。

このため、グアム島の建物は約半分が破壊されるなど、5億ドル以上(当時のレートで1,000億円以上)の大きな被害を受けています。

JTWCの発表する報告書の中に、「Super Typhoon」という文字が見られるようになったのは,この台風6号からです。したがって、台風6号は最初の「スーパー台風」ということができます。

図 グアム島と昭和51年の台風6号の眼
図 グアム島と昭和51年の台風6号の眼

増えている「スーパー台風」

手持ちの資料から「スーパー台風」を計算すると、昭和51年以降の20世紀は年平均3個だったものが、21世紀にはいると年平均4個と増えています。

そして、今年の「スーパー台風」は7個、昨年は8個と2年連続で特に多くなっています。

地球温暖化が進むと台風の発生数は減るものの、強い台風が増えるという研究がありますが、海面水温が高くなると、台風が北上しても衰えにくくなります。

このため、日本に上陸する「スーパー台風」の数が増えることが懸念されますので、より一層の台風対策が必要です。

図、表2の出典:饒村曜(1993)、続・台風物語、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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