Yahoo!ニュース

グアム島で世界で初めて毎秒105メートルの瞬間風速を観測

饒村曜気象予報士
平成9年12月16日15時のひまわり赤外画像

最大瞬間風速が毎秒70メートルという非常に強い台風27号が西進しながらフィリピンを襲いました。晩秋から初冬になっても、低緯度では台風が存在し、記録的に発達することが珍しくありません。クリスマスから年末年始、海外にゆかれるかたも多いと思いますが、低緯度の国々では台風のオフシーズンではありません。希ですが、夏~秋の台風以上の強い風が吹くことがあります。

台風27号とほぼ同じ経路を通ってフィリピンに上陸した2年前の台風30号では、高潮で5000名以上がなくなるという大きな被害が発生しました。このとき、ハワイのオアフ島にあるアメリカ軍の合同台風警報センター(JTWC)では、衛星などの観測からフィリピン上陸時の最大瞬間風速205ノット(毎秒105メートル)と推定しています。

毎秒105メートルというと、時速378kmに相当します。新幹線より早い風が吹くことがあるのでしょうか。

あるのです。

グアム島とアメリカ軍の合同台風警報センター

日本から南へ飛行機で約3時間、そこに長さ52キロメートル、幅6~16キロメートルの細長い島、グアム島があります。世界一周の航海中のマゼランの発見以後スペイン領となり、アメリカ・スペイン戦争の結果、明治31年(1898年)からアメリカ領となっています。

基地の島であると同時に、サンゴ礁で囲まれた美しい熱帯の島であり,日本からも多くの観光客が訪れています。

このグアム島に、昭和34年から平成11年までアメリカ空軍とアメリカ海軍が合同して台風の観測と予報を行う組織「合同台風警報センター」がおかれていました。

その北西太平洋におけるアメリカ軍の要の地を、平成9年の台風28号が襲い、実際に毎秒105メートルという瞬間風速を観測しています。

図 グアム島と台風28号の経路(ハッチは標高150メートル以上の地域)
図 グアム島と台風28号の経路(ハッチは標高150メートル以上の地域)

平成9年の台風28号

平成9年の台風28号は、12月16日にグアム島のすぐ北を時速15キロメートル位の速さで通過しています(図)。このとき、グアム島にある米軍のアンダーソン基地では、15時31分に最大瞬間風速205ノット(毎秒105メートル)を観測しています(表)。

アンダーソン基地の風速計は、グアム島北部にある2つの小高い丘のうち、東側の標高162メートルのところにありますが、ここで105メートルの風を観測し、通報したのです。

このため、日本などで「世界で初めて毎秒105メートルの瞬間風速を観測した」という報道がなされました。

一般的に、猛烈な風になればなるほど、ものすごい破壊力のために風速計を設置した塔が傾いたり、風速計自身が損傷しますので、正確な観測値を求めるには非常な困難が伴います。台風28号のときも、あまりの強風で風速計が壊れてしまったため参考記録となっていますが、グアム島で実際に毎秒105メートルの風を観測したのは事実です。一昨年の台風30号の105メートルという推定は、過去に観測したことがない数値を推定したのではないのです。

表 グアム島のアンダーソン基地における気象観測(平成9年12月16日)
表 グアム島のアンダーソン基地における気象観測(平成9年12月16日)

昭和51年の台風6号より被害が少ない理由は速度

グアム島では、平成9年の台風28号により、突風で割れたガラス片などで約20人が負傷した他、家屋倒壊や停電、農作物被害がありました。クリスマス直前の閑散期とはいえ、数千人の日本人観先客が訪れており、日本人旅行者にも重軽傷者がでたほか、日本とグアムを結ぶ全航空便が欠航したために、多くの人が日程の延長をしいられています。

最初にスーパー台風と呼ばれた昭和51年の台風6号がグアム島を襲ったときよりも強い風が吹きましたが、このときより被害が小さかったのは、台風の速度が速く、暴風期間が短かったためです。

日本では毎秒100メートルを超える風は観測していない

日本では、昭和41年9月25日に台風第23号により、富士山頂で毎秒91.0メートルの最大瞬間風速を観測しています。また、平地では、昭和41年9月5日に第2宮古島台風により宮古島で毎秒85.3メートル、昭和36年9月16日に第2室戸台風により室戸岬で毎秒84.5メートル以上を観測しています。室戸岬での観測が「以上」となっているのは、途中で風速計が損傷したためです。これ以上の風が吹いていたかもしれませんが、以上としか言いようがありません。

とはいえ、日本では毎秒100メートルを超えた風は観測していません。グアム島やフィリピンでは、私たちの想像以上の強い風が吹くことがあるのです。

それも初冬にです。

図表の出典:饒村曜(1998)、グアム島で最大瞬間風速の極値を観測か?、月刊誌「気象」、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事