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東京と横浜の日降水量の記録は、58年前の狩野川台風

饒村曜気象予報士
皇居外苑(写真:アフロ)

日本は降水量(雨や雪の量)が約1800ミリで、世界平均の2倍も降ります。

日本の降水の3本柱は、梅雨期の雨、台風の雨、冬の季節風による雪ということになります。したがって、これらの影響が少ない瀬戸内海沿岸、中部地方の内陸部および北海道では、年降水量が1500ミリ以下と少なくなっています。

台風による雨

日本の3本柱のうち、台風による降水(雨)は、記録的な強い降り方をするために大きな災害に結びつきやすいと言われています。

また、水害を起こした大雨の原因のうち、半分が台風によるものと言われています。

日本の日降水量の記録を見ると、ほとんどが台風によるものです(表1)。

表1 最大日降水量(気象庁HPより)
表1 最大日降水量(気象庁HPより)

日降水量ではなく、1時間降水量や10分間降水量といった短い時間の降水量となると、雷雨や低気圧によって台風以上に強い雨を降らせることがあります。このことは、1時間降水量の記録に、台風シーズンではない4月や11月の記録が含まれていることからも分かります(表2)。

表2 最大1時間降水量(気象庁HPより)
表2 最大1時間降水量(気象庁HPより)

しかし、この場合は、狭い地域で、しかも限られた時間しか降らないということが多く、総降水量としてはそう多くなりません。

広い地域に多量の雨ということになると、やはり台風による降水ということになります。

東京と横浜の日降水量の記録

東京の日降水量の記録は、昭和33 年9 同26 日の392.5ミリで、狩野川台風によるものです(表3)。それも、2位の278.3ミリを大きく離しての1位です。

表3 東京の日降水量の記録(気象庁HPより)
表3 東京の日降水量の記録(気象庁HPより)

また、横浜の日降水量の記録は、昭和33 年9 同26 日の287.2ミリで、これも狩野川台風によるものです(表4)。

表4 横浜の日降水量の記録(気象庁HPより)
表4 横浜の日降水量の記録(気象庁HPより)

狩野川台風は、9月26日夜に伊豆半島をかすめて関東地方に上陸した台風22号のことで、名前の由来となった伊豆半島の狩野川が決壊し、1000人以上の死者を出しています。

このとき、自分の住んでいる場所の危険性を正しく認識し、情報入手に努め、自らも周囲の状況に気を配り、適切な行動を素早く行って人命を守るという、温泉療養学研究所長の藤巻時男博士の行動は、「月ケ瀬の教訓」として語り継がれています。

日降水量の記録と24時間降水量の記録

降水量の観測は、昔は日降水量の観測のみでした。このため、降水量の統計は日降水量についてだけでした。

東京の日降水量の記録は、明治8年(1875年)6月から、横浜の日降水量の記録は明治29年(1896年)10月からとなっています。

その後、1時間毎に降水量が観測するようになると、1時間降水量の統計をとるようになり、任意の24時間における降水量の統計も作られています。

今では、10分毎に降水量が観測するようになり、10分間の降水量の統計も作られています。

一般的には、任意の24時間における降水量は、日降水量より多くなります。

例えば、横浜の24時間降水量の記録は、平成26年10月5日の306.5ミリですが、日降水量では、10月5日195ミリ、10月6日187ミリと、日降水量ではベスト10にも入っていません。

狩野川台風の東京と横浜の日降水量の記録は、いずれも24時間降水量の記録より大きい値となっています。もし、狩野川台風時に1時間降水量の観測があり、任意の24時間における降水量の統計が作られていたら、東京で24時間に400ミリという、とんでもない記録となっていたと思われます。

東京も横浜も狩野川台風クラスの雨は半世紀以上経験していない

狩野川台風というと、伊豆半島の豪雨という印象を受けます。

しかし、首都圏で記録的な大雨が降った台風で、先輩の予報官に聞いた話ですが、気象庁脇の皇居の堀の水があふれ、気象庁に鯉が打ち上げられていたとのことです。

狩野川台風により首都圏の各河川が氾濫しています。死者が多かったのは伊豆半島の狩野川流域ですが、首都圏でも記録的な大雨により大きな被害が発生しました。

その後、58年間、狩野川台風クラスの雨が降っていません。その間、道路の舗装が進んで降雨から出水までの時間が短くなり、宅地開発が進んで遊水地が減り、崖下に多くの住宅が作られています。つまり、災害を受けやすくなっています。

地球温暖化で極端な豪雨が増えたと言われることがありますが、そうであっても、なくても、58年前の狩野川台風以降、狩野川台風クラスの大雨が降っていないのは事実です。

狩野川台風クラスの大雨が降った場合でも大丈夫か、防災対応について、今一度の見直しが必要です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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