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北朝鮮はICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射するか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
軍事パレードの登場した北朝鮮のICBM

金正恩朝鮮労働党委員長が今年の「新年の辞」で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射準備が「最終段階に達した」と述べたことが俄然注目を集めている。

金委員長は新年辞で北朝鮮が「いかなる強敵も下手には手が出すことのできない東方の核強国、軍事強国となった」と豪語しているが、その根拠として▲初の水爆爆弾を試験したこと▲それぞれ異なる攻撃手段(一連のミサイル発射)の試験発射をしたこと▲核弾頭爆発試験が成功裏に行われ、先端武装装備研究機開発事業が活発化したこと、そして▲大陸間弾道ロケット試験発射準備が最終段階に達したことなどを挙げていた。

ICBMと称される長距離弾道ミサイルの「KN-08]及び改良型の「KN-14」はすでに配備されていると伝えられていたが、これまで一度も発射実験をしたためしがない。性能がテストされないままの配備は常識では考えられないが、発射準備が最終段階に至ったということは「時間の問題である」ことを示唆したことに等しい。

(参考資料:新たな追加制裁で北朝鮮の核実験、ミサイル発射は止まるか!

金委員長は発射時期については明言しなかったが、米国に関する言及のくだりで「米国とその追随勢力の核脅威と恐喝が続く限り、また我々の門前で恒例の帽子被った戦争演習騒動を止めないならば、核武力を中枢とした自衛的国防力と先制攻撃能力を引き続き強化する」と言明したことからICBMのカードを使って1月20日に就任するトランプ大統領に米韓合同軍事演習の中止を迫ったと言えなくもない。仮に合同軍事演習が例年とおり3月前後に開始されれば、その対抗手段として強行される可能性も現実味を帯びている。

それにしても、不思議なことがある。北朝鮮はまだグアムを標的に定めた射程3500-4000kmの中距離弾道ミサイルの「ムスダン」を完成させていないはずだ。昨年4月から10月までの間延べ8回発射実験が繰り返された「ムスダン」はたった一度しか成功していない。確か6月22日の6度目に成功しただけで、その後、10月15日、20日と2度立て続けに試みたが、いずれも「失敗した」と報道されていた。これが事実なら、「ムスダン」は未完成のままだ。グアムにまでまだ届かない状態で、米本土を狙った射程1万2千km前後のICBMの発射は常識では考えにくい。ということは、10月の2度の発射は本当に「ムスダン」だったのかという疑問が沸く。

(参考資料:失敗した中距離弾道ミサイル「ムスダン」の謎

実は、昨年10月の失敗したミサイルは「ムスダン」ではなく、「KN-08」の発射テストの可能性が指摘されていた。疑問を提示したのはジェフリー・ルイス非拡散センター東アジア担当局長で、当時発射場となった平安北道亀城市のパンヒョン飛行場を撮影した商業用衛星写真を分析した結果、試験場に残されていた焼け跡が「ムスダン」のそれよりもはるかに大きかったことから「KN-08」の可能性をワシントンポスト紙(10月26日付)で指摘していた。

北朝鮮は昨年3月に中距離弾道ミサイル用大出力固体エンジン地上噴射実験を行い、1か月後の4月にはICBM用の大出力エンジン地上噴射実験を行っていた。また、9月には停止衛星用とされる新型ロケットエンジンの実験も行っていた。

北朝鮮が6月22日に「発射に成功した」と発表した「ムスダン」は「頂点高度1413.6kmまで上昇し、400km前方の予定された目標水域に落弾」したとされている。ほぼ固体燃料の装填を故意に少なくして、垂直に発射して、高度1400km以上まで上昇し、発射地点から400kmの地点に着弾したならば、正常の燃料、角度(45度)で発射すれば、射程距離は3500~4000kmと推定される。発射基地の元山からグアムまでは3500kmなので北朝鮮は「ムスダン」でグアムを叩くことができる。

次に最高度が1413.6キロメートルでならば、ミサイルは大気圏外に突入し、再度大気圏に再進入したことになる。大気圏外からの弾頭の再進入には7千度前後の高熱と振動に耐える技術が必要だが、弾頭が燃え尽きず、狙い通りの「目標水域に落弾」したならば、北朝鮮は大気圏再進入の技術を取得したことにもなる。仮に650kg~700kgの重量の模擬核弾頭を搭載して今回実験が行われたならば、北朝鮮はグアムに対する核攻撃の能力を有することになる。

グアムの米軍基地は、沖縄の在日米軍基地とともに有事の際に朝鮮半島に増援戦力を展開する任務を遂行する後方基地、B-2ステレス爆撃機、B-52戦略爆撃機、さらにはF-22ステルス戦闘機などの発進基地だけに仮に朝鮮半島有事の際に北朝鮮が先制攻撃を掛ければ、米軍の後方支援は無能化する恐れがある。

そして、今年は今まさに、米本土を標準に定めたICBMの発射が焦点となっている。

「KN―08」は、2012年4月15日平壌で開催された金日成主席生誕100周年の軍事パレードでその存在が明らかとなった全長約18m、弾頭重量700kgの移動式大陸間弾道である。ノドンなどの射程1200kmクラスの中距離弾道ミサイルに比べ、格段に高度な製造技術を必要とする。

米本土防衛を担う米軍北方軍・北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)のゴートニー司令官は2015年4月7日、国防総省で記者会見し、北朝鮮が核弾頭を小型化し、移動式の大陸間弾道ミサイル「KN―08」に搭載する能力を保持しているとの見方を示した。

また、米情報当局のクラッパ国家情報局長も昨年2月25日、米下院情報委員会に提出した文書の中で「北朝鮮はまだKN-08の発射実験をしていないが、配置のための初期的な手続きに入っている」と言及していた。

北朝鮮は昨年2月23日の最高司令部の重大声明で朝鮮半島有事の際の第一次攻撃対象は韓国の青瓦台(大統領府)と韓国内の基地及び施設、第二次攻撃対象として「太平洋上の米軍基地と米本土である」と公言し、それに従って、韓国全土を標的にした500kmの弾道ミサイル、在日米軍基地とグアムのアンダーソン基地をターゲットにした「ノドン」と「ムスダン」に続き、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射実験も並行して行ってきた。

最高司令部の重大声明に基づけば、次は米本土を狙った大陸間弾道ミサイ「KN-08」及びその改良型の「KN-14」の番になる。「ICBMの試験発射準備が最終段階に達した」との「金正恩発言」はどうやらハッタリではなさそうだ。

(参考資料:トランプ大統領当選で北朝鮮とは電撃和解か、それとも戦争か!

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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