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イーストウッドにジョン・ヴォイト:少数派ながらいることはいるトランプ派セレブ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
クリント・イーストウッドは「トランプに投票する」と語っている(写真:ロイター/アフロ)

接戦、接戦と言うけれど、ドナルド・トランプ派なんてどこにもいないじゃないか。カリフォルニアにいると、ついそう思ってしまうのだが、あまり表に出ないだけで、実際にはどこかに潜んでいるらしい。

セレブのほとんどがヒラリー・クリントン支持を表明しているハリウッドだけでなく(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161104-00064069/)、98%がクリントン派とされるシリコン・バレーでも、それは同じだ。そんな中、先月は、PayPalの創設者でビリオネアのピーター・シールが、トランプに125万ドル(約1億2,900万円)を献金したことが明らかになり、バレーを震撼させている。しかも、彼は、トランプが下品な発言をする2005年のビデオが公開された後に、この献金をしているのだ。

今週月曜日、シールは、「今回の大統領選は狂っているように見えるかもしれないが、この国が置かれた状況のほうがもっと狂っている。長いこと、(政治の)エリートは、厳しい現実から目を背けてきた。そうやってバブルに包まれてきたのだ。トランプは、政治に必要とされている人間性を持ち込んでくれる」と、自分の行動を弁護した。彼はまた、ロシアとうまくやれないクリントンのほうが、アメリカを核戦争に巻き込む危険がずっと高いとも指摘している。

その一方で、トランプ派だと告白した後、シリコン・バレーのコミュニティから強烈な反応を受けたことも、シールは認めている。シールはまた、ハルク・ホーガンがセックスビデオ流出をめぐってガウカー・メディアを訴訟した時、弁護士代を陰で出してあげてホーガンを支援し、古い恨みをもつガウカーを倒産の危機に追い込んだ人でもある。ホーガンもトランプ派を公言しており、その部分でもふたりはお友達なのだ。彼らのお仲間には、ほかにも以下のような人々がいる。

クリント・イーストウッド

共和党員であるイーストウッドは、2008年の大統領選でジョン・マケイン、2012年はミット・ロムニーへの支持を表明していた。今回の大統領選で、彼はトランプへの支持を公言こそしていないものの、米「Esquire」9月号のインタビューで、「(今回の選挙は)難しいけれど、僕はトランプを選ばざるを得ないね。彼女(クリントン)はオバマのやってきたことを踏襲すると言っているから」と語っている。「みんな、密かに、政治的に正しいことをしなければという風潮に飽き飽きしているんだ」と言うイーストウッドは、トランプが人種差別者と呼ばれていることについても、「今の世代は臆病者だ。みんなびくびくしている。人種差別だとか言って批判したりするが、僕が子供の頃、ああいうのは人種差別と呼ばれなかったんだよ。(中略)彼は、たしかに、バカなことをたくさん言った。でもほかのみんなもそれは同じじゃないか。両方に言えること。なのに、マスコミも人も、人種差別だと大騒ぎしている。もう忘れろと言ってやりたいよ」と述べた。自らも北カリフォルニアのカーメルで市長を務めたことがあるイーストウッドは、「彼女は政治家になってお金を儲けた。僕は政治家になるためにお金をあきらめた。ロナルド・レーガンも同じだ」とも言って、クリントンを批判している。

イーストウッドの発言に対する感想を聞かれたメリル・ストリープは、「彼がそんなことを言ったなんて知らなかったわ。彼と話をして、彼の間違いを正してあげなければ。今、すごくショックを受けている。彼はもっと優しい人のはずよ」と答えた。ストリープはクリントンへの支持を表明しており、7月の民主党大会で舞台に立ってもいる。

ジョン・ヴォイト

アンジェリーナ・ジョリーの父でオスカー俳優のジョン・ヴォイトは、若い頃はリベラルだったが、近年は保守的になり、2008年の選挙ではマケイン、2012年はロムニーを支持した。今年3月には、保守派のニュースサイトbreitbart.comに、トランプ支持の声明文を発表。その中で、彼は、「彼はファニーで、遊び心があり、おもしろい人。何にも増して正直だ。彼が大統領選に出ると決めた時、僕は、彼ならばこの国に再び繁栄をもたらしてくれると確信した。それができる人は、彼しかいない」と述べた。トランプを批判するメディアについては、「ドナルドに関する嘘やプロパガンダを語るトーク番組のホストたちには、がっかりさせられている。それはなぜか。彼には、これまでに見たことのないような自由があるからではないか。そのことに驚き、脅威を感じているのかもしれない」と分析している。最後は、「オバマ時代にアメリカの崩壊を感じたすべてのアメリカ人が、ドナルド・トランプのために闘ってくれることを願う。彼は僕らを裏切ったりしない。正しい投票がこの国を救うのだ」という言葉で締めくくった。トランプのセクハラ発言ビデオが公開された後も、彼は堂々と「トランプこそ大統領にふさわしい」と主張し続けている。

ところでヴォイトは、マケインが2008年の共和党指名を受ける前、元ニューヨーク市長ルドルフ・ジュリアーニへの支持を表明していた。ジュリアーニも4月にトランプ支持を表明しており、今もその姿勢を崩していない。

スティーブン・ボールドウィン

アレック・ボールドウィン(58)の末の弟であるスティーブン(50)は、トランプのリアリティ番組「The Celebrity Apprentice」に出演している。大統領としても彼を応援するという彼は、CNNに出演し、「彼はすばらしい大統領になるよ。彼は人にどう思われるかなんて気にしない。だから支持を集めているんだ。彼は自分の思うことをそのまま言うからさ。投票者にとって、それは新鮮なんだ。彼が言うこと自体に賛成するかどうかは別だけどね」と語った。さらに、「トランプはアメリカンドリームの象徴。彼は、この国に再び繁栄をもたらしたいと本気で思っている」とも付け加えた。

そんな彼は、一番上の兄アレックが「サタデー・ナイト・ライブ」でトランプを演じ、大受けしているのを(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161007-00062983/)、おもしろく思っていないようだ。CBSニュースに対し、スティーブンは、「みんなをしらけさせて悪いけど、あれはそんなに可笑しくないと思う。この選挙に可笑しいことは何もない」と答えている。

彼はまた、ツイッターに、「もし僕の父が今も生きていたら、メディアの偏見や、アンダーソン・クーパーみたいな人がやっているメディア操作を見て、恥ずかしさと怒りを感じるだろう」とメッセージを投稿している。それを見て、もうひとりの兄ビリー(ウィリアム、53)は、「もし僕らの父がまだ生きていたら、トランプを支持しているお前の頭を殴っているよ」と反論した。ビリーはクリントン支持者。まだツイッターを始めたばかりだが、最近もビリーは、トランプ批判のメッセージを頻繁に投稿している。

ジェシー・ジェームズ

サンドラ・ブロックの元夫である彼は(彼がストリッパーと不倫をしていたことがブロックのオスカー受賞直後に発覚し、ブロックは究極の幸せから不幸に陥れられ、彼と離婚している)、バイクについてのリアリティ番組でファンを獲得したが、トランプの「Celebrity Apprentice」にも出演している。彼は今年1月、インスタグラムにトランプ支援のメッセージを投稿。その後、フォックス・ニュースチャンネルに出演し、「彼は大統領にふさわしい人だ」と宣言した。このインタビューで、彼はトランプの移民政策に触れ、「僕は人生の大半をカリフォルニアで過ごしたから言うが、こんなふうに入ってくる人たちのために僕らの税金を使い続けることはできないよ。そんなことをしていたら国はどんどん悪い方に向かう。もうそうなっている。それに、アメリカ市民になることは、すごく特別なことであるべきだ。市民権を得る人は、移民弁護士をつけ、一生懸命努力し、税金を払って、その目的を達成している。勝手に国境を越えてきてあっさりともらえるべきものであってはいけない」と語った。

ティラ・テキーラ

女性票獲得に苦しんでいるトランプだが、少なくともここにひとり、女性の支持者がいる。モデル、ミュージシャン、TVパーソナリティのテキーラは、早々とトランプ支持を表明し、YouTubeに6分弱のビデオを投稿した。「私はトランプの絶大な支持者。あなたもそうあるべき。今から理由を言うわ」という言葉で始まるそのビデオで、彼女は彼がワクチン接種に反対していること、ロシアとの戦争を避けようとしていること、彼の税金制度改革などを挙げている。彼女はトランプの極端な移民制限にも賛成だ。このビデオが投稿されたのは、まだバーニー・サンダースがクリントンと民主党指名を争っている時で、彼女は、サンダースのことを“コミュニスト(共産主義者)”と批判もしている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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