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マイケル・ムーア:「トランプは本当に壁を作る。ムスリムの入国も禁止する」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ムーアは就任式前夜の反トランプ集会にも参加する(写真:Splash/アフロ)

ハリウッドの悪夢が現実になる日が、いよいよ近づいてきた。あと3日で、ドナルド・トランプが、正式にアメリカの大統領になってしまうのだ。

このぎりぎりの段階になっても、まだ就任式や前夜のイベントで演奏を依頼されたミュージシャンが辞退したり、「サタデー・ナイト・ライブ」が先日のトランプの記者会見をネタにしたジョークで笑いを取ったりするなど、ハリウッドの抵抗は続いている。そんな中、業界紙「Variety」は、「これからどうなる?トランプ就任を前に、ハリウッドとメディアが声を上げる」という見出しを打ち出した特別号を発行した。

この号のインタビューで、マイケル・ムーアは、トランプを文字通りには受け取ってもばかにしていたメディアと違い、自分は彼を最初から文字通りに受け取りつつ、ばかにしてこなかったと語っている。だからこそ彼は、ハリウッドやメディアがヒラリー・クリントンの当選を信じて疑わなかった中、トランプの勝利を警告することができたのだ(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161110-00064275/)。

そんなムーアは、インタビューの中で、「トランプが言うことはまともに受け止めなきゃいけない。『彼は本当に壁を作ったりはしないさ』と言う人がまだいるけれど、彼は作るよ。少なくとも、壁と呼べるかもしれないというものは、作るね」と述べている。ムスリムを締め出すという公約についても、「絶対やる」と断言。「だが、『以下の国に住むムスリムの入国を禁止します』というただし書きを付けるだろう。そういう逃げ道を作るんだ。彼の支持者が、『ムスリムを全部禁止するわけじゃないのか。彼にはなかなか理解があるねえ』と言ってくれるように」と予測した。しかし、彼は、トランプ時代へ突入することに恐れを感じている多くのアメリカ国民に対して、「恐れなくていい」とのメッセージを送ってもいる。「なぜなら、君は多数派だから。トランプがひどいと、ほかの人を説得しなくていいんだよ。その説得は、トランプ自身がやってくれている。だから勇気を持ってくれ。行動に出てくれ。下院議員か上院議員に電話をしてくれ。それを毎週の課題にしてくれ」と語りかけた。

同様のメッセージは、Facebookを通じても送っている。アメリカ時間16日に投稿されたメッセージで、ムーアは、就任式に出席しないでくださいという電話を地元の国会議員にかけるよう、人々に呼びかけた。現段階では、36人の国会議員が就任式への出席をボイコットしている。「精神が不安定であること、ロシアが(ハッキングをして)選挙に関与したこと、彼のビジネスが利害関係の衝突にあることなどの理由で、僕らは、トランプには大統領の資格がないと信じています。国会議員の人々は、人種差別者で女性嫌いの人が大統領になるのを祝福すべきではありません。多くのアメリカ人は、彼に投票しなかったのです。彼は、18世紀、まだ奴隷を使っていた州を説得するために、妥協として生まれたルール(筆者注:選挙人制度)のおかげで当選したのです。金曜日の就任式で、国会議員の人たちの多くにボイコットをしてもらうことが必要です。それは、実は気の弱いトランプに、力強いメッセージを送るでしょう」と訴えた。

ムーアはまた、就任式前夜の現地時間19日(木)、ニューヨークで行われる大規模な反トランプ集会にも出席を表明している。参加者は、ほかに、マーク・ラファロ、アレック・ボールドウィン、ニューヨーク市長ビル・デブラジオなど。集会は、午後6時、トランプ・インターナショナル・ホテル&タワーの前で行われる。

「サタデー・ナイト・ライブ」でトランプを演じるアレック・ボールドウィン
「サタデー・ナイト・ライブ」でトランプを演じるアレック・ボールドウィン

「サタデー・ナイト・ライブ」でトランプのバカさ加減を名演するアレック・ボールドウィンには大絶賛が寄せられているが、彼の弟スティーブンは、トランプの就任式に出席する、ごく稀なハリウッド関係者だ。ボールドウィン兄弟の末っ子であるスティーブンは、トランプのリアリティ番組「The Celebrity Apprentice」に出演したというつながりがある。もうひとりの兄ビリーは、アレック同様、反トランプで、ツイートでトランプ支持者のスティーブンを非難したりもしているが、彼の信念に揺るぎはないようだ。「Variety」にアレックが演じるトランプについて聞かれたスティーブンは、「アレックは次の4年、すばらしい役を確保したよね。トランプのツイートだけでネタになるんだから。トランプがツイートをやめることなんて、ないからね。彼は、ツイートで直接人々に語りかければいいんだと、直感的に知っていたんだ。そして、それは本当に効果があったんだよ」と語っている。

ここでスティーブンが「次の4年」と言ったところにも、見解の違いが見える。兄アレックは、ツイートで、就任式は「(トランプ時代)終焉のカウントダウンが始まる日」と語っている上、先週末の「サタデー・ナイト・ライブ」でも、またもやトランプとして登場し、「1月20日、私ドナルド・J・トランプは45人目のアメリカ大統領になります。そして2ヶ月後に、(副大統領の)マイク・ペンスが46人目に就任します」と言い、大きな笑いを取っている(ムーアも、トランプは4年持たないと発言し続けてきている)。

ここのところ、スティーブンは、兄たちに「どうしてる?」と聞かれると、「ノーコメント」と答えるようにしているということである。この4年か、それ以下の間に、この兄弟の関係はどうなるのだろう。もっとも、その焦点である男のせいでアメリカと世界がどうなるのかに比べれば、些細すぎることか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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