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いわゆる「健康食品」と「いわゆる健康食品」の微妙な違い。健康食品の差別化は消費者の選択に役立つのか?

佐藤達夫食生活ジャーナリスト

■いたずらに「健康にいい」ことを強調してはいけない

5月3日のコラム(下記)でも書いたとおり、私たちが口にしているすべての食品は何らかの機能性を持っている。つまり、「すべての食品は体にいい」といえる。一般的に「体に悪い」といわれている食品でも、ほとんどの場合、大量に食べたりするから健康を害することになるにすぎない。要は食べ方の問題だ。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20150503-00045361/

すべての食品は機能性を持っているので、いたずらに「健康にいい」などということを強調してはいけない、というのが、日本の食品表示の大原則である。ただし、一般の食品の中で、例外が2つある。栄養機能食品と特定保健用食品(いわゆるトクホ)だ。

そこに新たに登場したのが機能性表示食品である。この機能性表示食品の登場によって、前述の大原則は一挙に崩れることになりそうだ。規制緩和をして経済効果を生じせしめようというアベノミクスの弊害で、味噌も糞も一緒になりつつある、ことを心配したのかどうか、ここへきて急に(?)健康食品をきちんと評価し直そうという動きが見られるようになった。

その1つが、食品安全委員会の企画専門調査会において、平成27年度には「いわゆる健康食品」のワーキンググループを設けて検討することになったこと。2つめは、消費者委員会の本会議(第193回)で、特定保健用食品等の在り方に関する論点整理が行われたことだ。この2つの動きは、はからずも(両委員会が連携しているとは思えないが)同じ大きな流れの中にある、と私には感ぜられる。

■「いわゆる健康食品」に関するワーキンググループがスタートした

食品安全委員会は、外部から「この食品の安全性を確かめてほしい」と諮問される案件以外に、自分たちが「必要だ」と考える食品について「自ら評価」ということを行なっている。この中に、「いわゆる健康食品」の安全性を確かめる作業を行なうためのワーキンググループを設置することを決めた。

これはおそらく、この6月からスタートした「機能性表示食品」の中に安全性の不確かな物があるのではないかという危惧からであろう(と私は推測する)。「機能性の効果が不確かでありかつ安全性も不確かである」食品が「特別な食品」であるかのような印象を与えることが常態化してしまっては、大問題である。

機能性表示食品制度の実施には「安全性に関しては食品安全委員会と連携するように」という条件が付いていたのだが、今のところ、そのような様子が見られない。という状況に食品安全委員会が業を煮やしたのではなかろうか。

一方、その消費者委員会のほうでも、トクホの条件を見直す作業に入るようだ。こちらも、機能性表示食品の登場で、「トクホとはどこが違うの?」という質問を突きつけられた(のではなかろうか?)。突き詰めて考えてみると、トクホが登場してから20年以上が経過したが、その間「見直し」は行なわれていない。すでにこの世から姿を消してしまった商品もあるし、その機能の科学的根拠が失われている商品もあるようだ。

制度としては、機能性表示食品制度と比べて、情報の公開度がきわめて低いという大きな課題をも含んでいる。スタートした当初は、「専門的なことは専門家に任せろ。知識のない消費者に情報を公開してもどうせわからない」というムードだったであろうと、推測する。

この機に、こちらも(トクホも)しっかり点検しようということになり、やはりそのためのワーキンググループを立ち上げることになった。それはそれで悪いことではないが(個人的には)機能性表示食品制度の見直しも早急にしてほしいと願うところだ。

■消費者の選択の役に立つような「差別化」を!

この一連の(というか2つの)動きの中で、気がついたことがある。それはいわゆる健康食品という言葉の使い方だ。以下、チョット複雑なので注意深く読んでいただきたい。

私の記憶では、今まで官公庁(消費者委員会とか食品安全委員会など)では、普通の食品とは別に、健康機能を標榜する食品をいわゆる「健康食品」と表現していたように思う。ところが、この間の新しい動きの中では両委員会ともに「いわゆる健康食品」と表現しているのだ。

このいわゆる「健康食品」「いわゆる健康食品」との微妙な違いを、皆さんはどう感ずるだろうか? 私はいわゆる「健康食品」「健康食品」「いわゆる健康食品」とに分類しようという意図だと受け取った。

ひと言でいうならば「健康食品」を「いい健康食品」と「悪い健康食品」に区別したいのではなかろうか。「健康食品」の差別化だ。消費者委員会は「機能性」のほうからアプローチし、そして、食品安全委員会は「安全性」のほうからアプローチする。

悪評高い(?)機能性表示食品に、唯一「存在理由」があるとすれば、それは、玉石混淆の「いわゆる健康食品」から、健康に資する食品を、消費者が選択しやすくなること、である。現状ではそれが敵わない、と私は判断しているが、今回の新しい動き(ワーキンググループの設置)によって、それが実現できるようになるとすれば、それには大いに期待したい。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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