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連続放火事件「くまぇり」への読者の手紙に対して本人から届いた返事とは

篠田博之月刊『創』編集長
くまぇりから届いたマンガ

11月9日にこのブログ(ヤフーニュース個人)で連続放火事件のくまぇりへのメッセージを募集したところ、たくさんの人から反応があった。メッセージは全て本人に転送したが、それに対してくまぇり本人から返事が届いた。その返事と彼女の描いたマンガを公開しよう。11月9日の記事を読んでない方は下記へアクセスいただきたい。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/20151109-00051207/

彼女は読者からの激励のメッセージにかなり感激したようで、ひとりひとりに返事を書いた。しかし、何と、それが全て不許可になってしまった。刑務所というのは特定の人にしか発信ができないのだが、たとえ編集部経由の転送であっても多数の人に発信を行うのは不許可というわけだ。残念だが仕方ないので、彼女がそれらの激励に対して感じたことをマンガに描いたというものを紹介しよう。

http://www.tsukuru.co.jp/kumaeri/#fm

マンガはいつも色鉛筆で描いているので薄く見えるが拡大すれば読めると思う。

同時に感謝の気持ちを手紙にあれこれと書いてきたのでそれも紹介する。手紙の途中で日付が変わるが、発信制限もあって何日かにわたって書いたものを一度に送ってくるためだ。

その彼女の返事の前を紹介する前に、読者からどんなメッセージが彼女に送られたのか、3人分のみ紹介しよう。

ちなみに彼女へのメッセージはフォームに書き込んで下されば今からでも彼女に転送するのでぜひトライしてほしい。

くまぇりへのメッセージ(3人抜粋)

●11月9日付ハンドルネーム「太陽」さん

私は貴女の事件を鮮明に覚えております、何故かおそらく熊田さんに似てたから只其だけの理由です、似てるのが良かったのか悪かったのかな???人には色んな生い立ちがあると思います。恵まれてる人そうでない人私は後者の部類にはいるかな、何をもって幸か不幸かにもよりますが貴方は色んな事に悩み苦悩をし苦しんで来られたのだろうと察します。でもだからと言って犯罪を犯しては駄目そこに逃げ込む選択をなされた貴方は弱かったんだと思います、出所が近いとの事ですが何か目標を見付けられましたか?偶然出会った感じのいい婦警さん将来の夢を持って邁進されてる姿を目の当たりにして自分も前へ!とポジティブにと…目標があるって事はどんなに生き甲斐を感じるものか。是非貴方には過去に負けない強い気持ちで生きていってほしいと思います、死のうなんて二度と思わないように、頑張る姿を見せることできっと明るい未来が待ってると思います。マンガ楽しみにしております、決して上手くは無いけどそれが逆に心と気持ちが凄く伝わって来るように思えます、負けないで頑張れ!ずっと応援してるから!

●11月9日付ハンドルネーム「村の井戸」さん

くまぇりさんのことは創誌の配信フェイスブックで読みました。刑期終了まであと少しだそうですね。よかった。がんばって下さい。復帰後も山あり谷ありで、決して楽ではないのだろうなと思いますが、屈託無く笑顔になれる機会もこれからの人生でめぐり合えると思いますし、そう願っています。ご自分のハンドルネーム作った方がよいと思いますが、とりあえず今は、くまぇりさんを声援したい気持ちです。がんばれー!!

●11月13日付匿名

くまぇりさん、篠田編集長、はじめまして。よろしくお願いします。

事実は消えないのはわかってますし100%擁護してる訳でもありません。が、くまぇりさんの服役生活を知ってから私はくまぇりさんに同情してしまうところがあります。

私もいじめに苦しんでました。家族からの言葉による虐待やモラハラにも苦しんでました。私の実家のあるところはくまぇりさんの地元以下で保守的な考えが多いです。それらと闘い、今を生きています。実家からは数年前に自分から逃げました。

くまぇりさんの逮捕時は漢字の量が少なかったのですが今は人並みに増えましたね。くまぇりさんの仰る通りかなり努力を重ねたでしょう。やはり、篠田編集長との出会いが大きいと思います。今回の自殺未遂のエピソードを読ませて頂きましたが、美容師に転身したであろう 警察官との出会いが大きいと思います。

「一番楽しみたい20代を刑務所で云々」から服役生活を通して色んな資格を取り、漫画でエピソードを公表してるんですね。もし書籍化になったら、印税は賠償金に充てるでしょうが買おうと思います。

出所後はどんな困難になるかはわかりませんし、今はネットで悪く言う人が大概かもしれない。私はくまぇりさんを少しでも支えてあげたいです。それが、再犯防止につながると思います。行政も一方的に刑務所からポーンじゃなくてどうしたら再犯防止につながるか支援すべきかなと思います。

それではくまぇりさん、篠田編集長、お元気で。失礼します。

くまぇりから届いた返事

読者からのお手紙が届いた件。すっごくすっごく嬉しかったです!!! 今迄アンチや、叩きやらそんなのばかりで、私自身を否定されている様でしたが初めて世間に認められた気がして何というか救われた気がして本当に心から嬉しかったです。

初めて自分のしている事が間違ってなかったんだ、これで良かったんだ、って思う事が出来ました。それと共に、これからも、私に出来る事をして行きたい、人に迷惑をかける事なく、もう二度と悪い事・罪を犯す事のないような全うな生き方をして行きたい!!そう思えました。

日付変わり、今日は11/21です。送って頂いたお便りコーナーの激励のプリントコピーが届きました!!!すっごく×100超×100嬉しかったです!!嬉しすぎて涙が出てしまいました。今迄アンチばかりで正直もう生きている事自体を否定されている様な気がして生きて行く事に絶望を感じていました。でも、こうして、中には私を励ましてくれ応援してくれる方々も居るんだナァと知り、まるで地獄で神の光をあびた様な感じがしました…。

今日は11/25です。実は、今回お便りコーナーに来た5人の方へお返事を書いて出したら、今日、統括の先生と主任の先生に呼び出され、「返事は書いちゃダメだ」と言われ、こうして今、書き直している訳です…というのは、刑ム所の決まりで、登録してる人以外の人への伝言や、メッセージ的な事は書いてはいけないのです。返事を書くなら発受信の許可の手続等をしなくちゃいけないのカモ…

なので本当に一人一人全員にお返事を書きたい気持ちは一杯あるのですがそういう事でお返事を書く事が出来ないのです(涙)

でも、届いた皆様からのメッセージを飛んで思った事は、あの婦警さんと出逢って、“夢”ってどこまでも終わりのないものなんだナと感じました。自分がどんな境遇であっても夢を持つ事の素晴らしさを教えて貰いました。あれから10年経った今、私にも“夢”といえるものが出来ました。それはいつの日か、機会があればマンガにして描けたらいいナと思っています。私が捕まって今迄、いばらの様な道のりでした。 人生には上り坂、下り坂、まさか、があると言います。私もまさか刑ム所に来る人生になるとは思っていませんでした。生まれて初めて刑ム所に入り、今迄社会に居た時には経験出来なかった沢山の事を経験しました。人と接する事が人一倍苦手な私には刑ム所の集団行動は「苦」の何ものでもありませんでした。しかしこんなに沢山の人達と共同生活をしていく上で、沢山の人達と接し触れ合って行く中で、今迄学べて来なかった「人間らしさ」を学ぶ事が出来た気がします。何故「自分は罪を犯す事をしてしまったのか?」その答えを見つける為に過去の自分を見つめ直し自分の足りなかった所、弱かった所、今迄怖くて、認めなくなくて、見ようとしなかった自分の黒い陰の部分をちゃんと目を背さず見つめ直す事が出来るようになりました。

私の様に不幸な生い立ちの人はこの世に沢山居ます。私にお便りをくれた方の中にも居ましたね。でもだからって、全員が犯罪を犯すかと言ったらそうじゃない、だから「不幸な生い立ち」という事を言い訳に罪を犯した私は、やはり弱かったんだと気付きました。私は「甘え」ていたんだと思います。今迄は、右を見ても左を見ても上をみても下をみてもアンチや叩きばかりで、正直な事を言うと私の存在自体を否定されている様で、生きて行く事に不安を抱いていました。今も、出所する事が怖いと感じているのは事実です。それに、出所後は今より今迄よりももっと厳しく辛い日々になると思います。そんな不安だらけの中、今回こうして、沢山の方々から激励の励ましのお手紙を頂き、どう言葉で言ったら良いか分らない位、嬉しくて、初めて嬉し涙を流しました。

嬉しいという言葉では表せない位、感激しています。たくさんの方達からのエールで、「私、生きてても良いんだ!!」って、救われる気持ちになりました。本当はお便りをくれた方々一人一人全員に返事を出したかったのですが、それが出来ず悔しい気持ちでいます。でも、お便りは全て読ませて頂いています。私の宝物です。死んだ時は棺桶に入れてあの世へ持って行きます! 罪を犯した十字架を一生背負って、償いの気持ちは死ぬ迄持ち続けます。こんな人生になってしまったけど、こんな私にしか出来ない事があるんじゃないか。私に出来る事の1つ、それはこれからも下手くそだけど、一生懸命、伝えたい事をマンガにして描き続け沢山の人達に残して行く事、だと思っています。

沢山の方達のエールに支えて頂きながらこれからも頑張って行きますのでどうかこれからも見守って頂けたら幸いです。一人の罪を犯した人間がどう生きて行くのか…。その中で何か気付きや思う事、色んな事を考え、沢山の方達に何かを与えられる事が出来たら…と思っています。又いつか、笑顔になれる日が来る事を信じて…。お便りを下さった方々に心から“ありがとう”の気持ちで一杯です。もう二度とこんな心温かい方々の事を裏切ることはしません。約束します!!

※彼女の手紙についての篠田からのコメント

読者から激励をもらったことへの感激ぶりがあまりにすごくて面はゆい気もするが、大きな犯罪を犯した人の多くがそれまで否定され続けた人生を送って来たという事情を指摘しておきたい。私は多くの死刑囚とも接して来たが、例えば奈良女児殺害事件の小林薫死刑囚など、それまでの人生は学校でも否定され、親にも否定され、社会に出てからも周囲に否定され続けたものだった。もう生きていてもしかたないとして死刑事件を起こしてしまうこととそれは結びついている。くまぇりも過去、ほとんど否定されてきた人生だったゆえに、激励のメッセージにこれほど感激したのだと思う。「黒子のバスケ」脅迫犯の手記にもあるが、生育の過程で自己肯定の機会に出会わなかったというのは、その人の人格形成や犯罪の背景にも大きな影を落としていることがしばしばだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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