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安倍首相が中学生以下の間違い「立法府の長」発言ー閣僚、与党幹部の認識も問われる

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
16日の衆院予算委員会に出席した安倍首相(写真:ロイター/アフロ)

今月16日、衆院予算委員会で、安倍晋三首相は民進党の山尾志桜里政調会長への答弁の中で「私は立法府の長であります」と発言。実際には行政府の長であり、安倍首相が、中学生が公民など授業で習う「三権分立」を理解していない可能性が明らかとなった。

問題の発言は、山尾政調会長が待機児童問題に関連して、民進党が提出した保育士給与を引き上げる法案が審議されないことを問いただした際に飛び出した。

議会についてはですね。私は立法府、立法府の長であります」「国会は国権の最高機関として誇りを持ってですね、言わば立法府とは、行政府とは別の権威としてどのように審議をしていくかということについては、各党各会派において議論をしているわけでございます。その順番において私がどうこういうことはないわけでありますし(以下略)」

〇言い間違いなのか、ご都合主義の帰結か?

全く意味不明な答弁である。安倍首相は自身を立法府の長、つまり国会の最高責任者だと宣言した上で、国会審議の運営は立法府たる国会の委員会で決めることとしながら、同時にそれは自分が決めることではない、と言っているのだ。単なる言い間違いなのかもしれないが、それにしては2度も、「立法府」と強調しており、この時だけでなく、幾度も間違えている(関連報道その1その2

行政を内閣が、立法を国会が、司法を裁判所が司るという、三権分立は近代・現代の民主主義国家の基本的な制度であり、中学生が公民の授業で習うことだ。安倍首相が三権分立をきちんと理解していないのであれば、その認識は中学生以下、ということになる。しかも、安倍首相は「立法府の長」発言の前に、山尾政調会長に対し「国会の運営について勉強した方がいい」と説教しているのだから、これ以下はないほどの赤っ恥だ。安倍首相こそ勉強しなおすべきだろう。

内閣官房内閣広報室の子ども向け三権分立の解説
内閣官房内閣広報室の子ども向け三権分立の解説

ちなみに、安倍首相は過去の審議において「行政府の長」「立法府の一員」、そして今回の「立法府の長」と、自分の都合によって立場を使い分けている。そのようなご都合主義の発想だから、自分でも混乱しているのかも知れない。

「委員御指摘のように、六十年間、残念ながらしかし改正されてこなかった。やはり立法府の責任としてここまで議論がなされ、そして十分な議論の下にこうして法律が出され議論されているということは、私も大変、内閣総理大臣であると同時に立法府の一員でもございますから、大変喜ばしいことであると、このように思う次第でございます」

出典:第166回 参議院 日本国憲法に関する調査特別委員会(平成19年05月11日)

「海江田さん、この場で政治を動かそうじゃありませんか。国民の声は、一票の格差是正を進めよ、この声に私たちは立法府の一員としてこたえていく責任があるんですよ」

出典:第183回両院国家基本政策委員会合同審査会(平成25年04月17日)

「まず、私は行政府の長ですから、それが立法府の議員に対して議員を辞めろというのは、これは三権分立の関係から適切ではないと、こう思うわけであります」

出典:第189回 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会(平成27年08月21日)

〇不勉強すぎる安倍政権の面々

政権を担うものとして、政府や与党幹部らには、憲法や法律、民主主義の基本的な制度等への理解・知識は欠かせないはずだが、そういう点で安倍政権はあまりにひどい。今回の安倍首相の「立法府の長」発言のみならず、例えば、憲法はその暴走を防ぐため国家権力を縛り、国民の権利を守るものという「立憲主義」について、

「学生時代の憲法講義では聴いたことがありません。昔からある学説なのでしょうか」

とツイッターで書いた磯崎陽輔・内閣総理大臣補佐官(当時)。さらに、放送法第4条の「政治的公平性」は、本来、放送事業者の倫理規範であると同時に政府からの介入を防ぐためであるのに、

「放送法違反のテレビ局の電波を止めることもあり得る」

と脅した、高市早苗総務大臣(関連記事)。そして、「公共の福祉」、つまり、現在の憲法の個人と個人の権利衝突の調整機能と、「公益及び公の秩序」つまり、国家都合にとる人権の制限との区別をつけず、

「公共の福祉も公益及び公の秩序も同じ」

と放言した高村正彦・自民党副総裁(関連記事)などなど、本来であれば、政治家としての資質を問われ辞任させられるくらいの暴言が、安倍政権の面々から次々飛び出している。彼らは、政治家失格なくらいに無知なのか、それともどうせ有権者はわからないだろうと舐めてかかって、意図的にウソをついているのか。いずれにしても、このような面々が参院選後に改憲を目指すというのだから、日本の人々にとっても無関係でないどころか、危機的状況である。例えるならば、造船技術も学んでないズブの素人が作った船に乗り沈没するか、ハイジャック犯が機長の飛行機に乗って案の定、人質にされるかのようなものである。

党としての好き嫌いや政策の是非、という以前に、今の安倍政権がかなりおかしいことを、むしろ自民党支持者の有権者こそ、真剣に憂慮した方が良いのではないか。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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