Yahoo!ニュース

幅広い世代に広がるその人気 ”美しいブレイク”を果たしたback numberの魅力

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

2015年、人気CMのCMソングへの起用が続く中、シングル「クリスマスソング」が”クリスマスソング”の定番に。ファンの新規開拓が進む

2016年の音楽シーンで“売れた”といえば、星野源、宇多田ヒカル、欅坂46、RADWIMPS、ピコ太郎……2016年のヒット曲、売れたアーティストはチェックするには2015年後半からのシーンの動きを見てみる必要がある。2015年のクリスマス時期によく流れていたのは、back numberの「クリスマスソング」だ。back numberはボーカル・ギター、作詞・作曲を手掛ける清水依与吏を中心に、2004年に群馬県で結成され、幾度かのメンバーチェンジを経て2007年に清水、ベース・コーラス小島和也、ドラム栗原寿の現在のメンバーになり、2011年にメジャーデビューを果たした。清水が描くせつない歌詞と美しいメロディ、骨太なサウンドが作り出す、多分にポピュラリティを湛えた歌ものロックは、若い女性を中心にジワジワとその人気は広がっていった。

「クリスマスソング」は、フジテレビ系“月9”ドラマ『5→9〜私に恋したお坊さん〜』の主題歌に起用され、11月18日に発売。週間シングルランキングの2位を獲得した。シングルでは「ヒロイン」「手紙」に続いて、小林武史がプロデュースを手掛け、より広い層に届けるためにメジャー感を湛えたシングルに仕上がっている。この曲のヒットが、それまで日本武道館、横浜アリーナを満杯にし、2015年は発表したシングルがどれも、「JR SKI SKI」、大塚製薬「ポカリスエットイオンウォーター」など、若い層から注目を集めている人気CMのCMソングにも起用され、着実に、順調に道を切り拓いてきた彼らの人気を押し上げる結果となった。この曲は2016年のクリスマスシーズンにもあらゆる場所で流れ、山下達郎「クリスマス・イブ」、ワム!「ラストクリスマス」などと共に、クリスマスシーズンのスタンダードナンバーの仲間入りをしたといってもいい。

2011年発売の「花束」は結婚披露宴の定番ソングに。どの作品も、清水が描く失恋や片想いに対しての後悔、未練が情熱として昇華された歌詞が魅力

話を2015年の年末に戻そう。「クリスマスソング」のヒットの勢いは、12月9日に発売された5thアルバム『シャンデリア』の大ヒットにもつながり、同アルバムは初めてアルバムランキングの1位を獲得した。またこの年の「第58回日本レコード大賞」の優秀アルバム賞も受賞するなど、彼らの代表作になった。こうして“美しいブレイク”を果たしたback numberだが、2011年にリリースし、今や結婚披露宴の定番ソングになっている「花束」がロングヒットした時点で、ブレイクといっても過言ではないと思うし、よりお茶の間と近くなったという部分で、ブレイクという言葉を使うとしたら、2015年に“美しいブレイク”を果たしたといっていいのかもしれない。

画像

明けて2016年は、ホールツアー、アリーナツアーが全箇所即日ソールドアウト。シングルが相次いで映画主題歌に起用されるなど、若いファンだけではなく、そのファン層は全世代に広がり、結果、ライヴ会場には親子連れ、男性ファンの姿も多くみられるようになった。では一体なぜback numberがそこまで支持されるのか、その人気の秘密は、ここでも2015年に「10代、20代の若いファンを魅了するback numberの“魔法”の歌詞と人気の秘密とは?」という記事で触れたが、清水が描く歌詞の世界、失恋や片想いに対しての後悔、未練が情熱として昇華された歌詞は、まず若い女性ファンの心を打ち抜いた。back numberの歌詞は、大手歌詞検索サイト「歌ネット」のアーティスト別ランキングで、2年連続1位を獲得。50位以内に10曲もランクインしており、その“言葉”の良さが認知され、その人気が若い女性から徐々に広がっていった。もちろん人気の秘密は歌詞だけであるはずがなく、清水が書くメロディも、その切ない詞に、より切なさを纏わせ、聴き手の心に真っすぐ伝える。メロディの素晴らしさが、忘れたくない想い、2度と戻れないあの日々の事、そんな誰もがふとした瞬間に思い出す、ほろ苦い感傷的な想いをくすぐる。清水の歌と、ライヴハウスで鍛えられた、強力なリズム隊を中心に高い演奏力を持つバンドが弾き出す、骨太なロックサウンドとが相まって、強力な伝播力を持つ音楽になる。

また、2014年から「オールナイトニッポン」(ニッポン放送)の火曜日レギュラーパーソナリティを務め、清水の飾らないトークがリスナーから人気で、せつないラブソングを歌うボーカルのこのギャップ、メリハリも彼らの武器のひとつでもある。

2016年はCD、音楽配信、カラオケのランキングを席巻。満を持してのベスト盤は「すごく重要。これを聴いてもらえればどんなバンドなのか、どんなバンドでありたいか、という基準で選曲した」(清水)

『アンコール』(通常盤/2016年12月28日発売)
『アンコール』(通常盤/2016年12月28日発売)

2016年は彼らのそんな魅力が全開となって、カラオケランキング、音楽配信サービスのランキング、様々なメディアの好きなアーテイストランキングを席巻し、そんな中、back numberが“次”を見据えた強い意志の元に12月28日にリリースしたのが、初のベストアルバム『アンコール』だ。現在までに出荷枚数は65万枚を優に超え(レコード会社発表)、ロングセールスになっている。このアルバムに込めた想いを、清水は「バンドを始めて、曲を作って、ライブをして、CDを出す。これまで僕ら自身、色んなback numberと出会ってきました。自分達なりに思う、らしさ、らしくなさ。そこに大きくとらわれない為に、back numberのまま新しい自分達になる為に、このベストアルバムはすごく重要だと思っています。 これを聴いてもらえばどんなバンドか分かる、のと同時に、どんなバンドでありたいか、という基準で選曲しました。日本語が分かる人全員に聴いてほしいです」と語っている。バンドとして次に進むための“重要な位置づけ”の作品であり、この2枚組全32曲は、単なるシングル集ではなく、「stay with me」「そのドレスちょっと待った」などのインディーズ時代の作品から、シングル曲、そしてこのアルバムを発売する直前の11月16日に発売した最新シングル「ハッピーエンド」(映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』主題歌)も収録し、未来を指す現在進行形の音も含め、back numberというバンドの全貌がわかる作品になっている。

全曲通して聴くと、やはり清水が書く詞の“説得力”には唸ってしまう。詞の一行目、ワンセンテンスで共感でき、二行目からは「彼」と「彼女」がいる風景が見えてきて、そしてどんどんその人の人間的な背景までもが想像できる。同じ経験や体験をしている人も、まだそういう想いやシーンを経験した事がない人も、優しく包み込んでくれる感覚になる。改めて言葉の持つ力を感じ、その言葉が持つ匂いや意味を、聴き手の心の奥深くまで届けるためには、上質のメロディと“サウンド”が必要だという、そんなシンプルな事を教えてくれる。

ライヴ音源、スタジオライヴ映像、そしてベスト盤を引っ提げての自身最大規模のアリーナツアーで、ライヴバンドとしての実力を堪能したい

また【初回盤A】には、昨年6月に行われた幕張メッセ国際展示場でのライヴを完全収録し、ライヴバンドとしての彼らの力を感じる事ができる。【初回限定盤B】にはミュージッククリップ集と、島田昌典と小林武史というback numberにとってのキーマンでもある音楽プロデューサーが、それぞれリアレンジした「花束」、「クリスマスソング」のスタジオライヴ映像が収録されていて、このパフォーマンスも素晴らしい。彼らの代表曲といっても過言ではないこの2曲が、改めて誰からも愛される“グッドミュージック”だという事を感じさせてくれる。

2月25日の幕張メッセ幕張イベントホールを皮切りに、全国アリーナツアー「back number "All Our Yesterdays Tour 2017"」がスタートする。15会場全て2daysという自身最大規模のツアーだ。是非生でこのアルバム『アンコール』を聴いてみたいし、今最も人気があるバンドと言われているその理由を、目と耳と肌で確かめ、感じるべきだ。

画像

<Profile>

(L⇒R)小島和也(B,Cho)、清水依与吏(Vo,G)、栗原寿(D)の群馬県出身3ピースバンド。2007年に現在のメンバーになり、2009年1stミニアルバム『逃した魚』をリリース。2010年1stアルバム『あとのまつり』をリリース。2011年4月シングル「はなびら」でメジャーデビュー。2013年初の日本武道館公演を行う。2014には横浜アリーナで初のアリーナ公演を成功させる。2015年に発売した5thアルバム『シャンデリア』で初のアルバムランキングの1位を獲得。これまでにシングル16作、アルバム5作を発表。2016年12月28日にインディーズ時代から現在までの作品を収録した、初のオールタイムベストアルバム『アンコール』を発売。

back number スペシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事