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「インバウンド消費」はあさましい。身銭を切ってお客さんを歓迎すべきだ

大宮冬洋フリーライター

2014年の訪日外国人客数が1300万人を超えたらしい。新聞などを見ると、「年間2兆円のインバウンド消費をつかめ。外国人客は宝の山!」といった論調の記事が目立つ。ごく一部の小売業やサービス業には必要な考え方なのかもしれないが、全国紙で日本人全体に呼びかけるのはおかしいと思う。普通の商売ならばリピーターや常連さんを大事にできるのに、外国人相手になると「どうせ一見さんなのだからあれこれ押しつけて買ってもらおう」という雰囲気になるのはなぜなのか。

多くの日本人にとって、外国人観光客は「宝の山」なんかじゃない。遠いところからわざわざやって来てくれた物好きな愛すべきお客さんたちだ。僕は1年前にも「遠来の客に喜んでもらえるか。お金ではなくプライドの問題だ」という文章を書いた。愛知県蒲郡市という地方都市での暮らしが長くなるにつれて、この気持ちはますます強くなっている。

お金も時間もかけて遠くから来てくれたお客さんに対して、「お金をたくさん使ってもらおう」と考えるのはあさましいと思う。それが言い過ぎなら視野が狭すぎる。むしろ「できるだけ負担を少なくして、安心して大いに楽しんでもらいたい。そして、いつかまた訪ねて来てほしい」という姿勢が大切だ。

なぜお客さんは丁重に扱わなければならないのか。遊牧民のフィールドワークをしている人類学者の知恵を拝借したいところだが、個人的な実感をもとに考えてみたい。

いい顔をした多様なお客さんが頻繁に訪れる家や地域、国は全体として安全で豊かだと思う。安全かつ豊かだから千客万来になるという面もあるけれど、お客さんがたくさん来ることによって場の風通しが良くなり、誇りと活気が生まれ、人々も洗練されていくのだ。

いわゆる観光名所ではなく、大きな商業施設やレジェ―施設もない場合、この点が際立つ。お客さんが来てくれるのは、僕たち住民が楽しげに暮らしている様子が不思議と遠くまで伝わるからだ。気持ちのいいお客さんが次々に来るからますます楽しくなる。人間には、安全で豊かな場所を感じ取る本能のようなものが備わっているのだと思う。そして、その場所に引き寄せられていく。

逆のケースを考えるとわかりやすい。観光客だけでなく、街を出て行った若者たちすら一度も帰ってこない場所に明るい未来などあるだろうか。

千客万来とは、僕たちの家、土地、国家が魅力的で居心地が良いことの証である。その証から必要以上のお金を得るのではなく、むしろ一人ひとりが身銭を切ってより輝かせるべきだ。昨年、日本に来た1300万人の外国人客のうちでどれぐらいの人が「ぜひまた来たい。ありえないほど良くしてもらったから」と思ってくれたのだろうか。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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