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天才打者ハミルトンを復活させるために、レンジャーズはエンジェルスからもう一人獲得すべきだったのでは

宇根夏樹ベースボール・ライター

テキサス・レンジャーズは700万ドル足らずで、ロサンゼルス・エンジェルスからジョシュ・ハミルトンを手に入れた。その金額は、トレード直前に「自伝の映画化よりも本人に注目。エンジェルスのハミルトンがコカイン再使用を経てレンジャーズ復帰へ」で伝えたよりも少なかった。

トレードは4月27日に成立。ハミルトンの契約は、今シーズンの残り約2000万ドルと2016~17年の各3000万ドルを合わせ、計8000万ドルあまりだったが、ハミルトンは2017年に関してオプト・アウト(契約破棄)の権利を得ることで、金額を13.3%削減することに合意した。

カリフォルニア州の所得税が13.3%であるのに対し、テキサス州は所得税がないため、ハミルトンが得る金額は変わらない。ハミルトンとチームメイトになるシンス・チューが、2013年のオフにFAとなった時に、ニューヨーク・ヤンキースから提示された7年1億4000万ドルを蹴り、それより少ない7年1億3000万ドルでレンジャーズと契約したのも、この所得税が理由にあったようだ。

13.3%減って7000万ドル弱となった総額のうち、6000万ドル以上はエンジェルスが負担する。従って、年平均にすれば、レンジャーズの支払い額は250万ドルに満たない。ちなみに、今シーズンのイチロー(マイアミ・マーリンズ)の年俸は200万ドル、青木宣親(サンフランシスコ・ジャイアンツ)は400万ドルだ。

レンジャーズにしてみれば、この金額なら、リスクはほとんどない。ただ、このトレードでハミルトン以外にもう一人をエンジェルスから獲得していれば、ハミルトンの復活に力強い後押しとなった気がする。その人物とは、エンジェルス傘下のAAA、ソルトレイク・ビーズで打撃コーチを務めているジョニー・ナロンだ。

ドラッグとアルコールに溺れたハミルトンが立ち直り、2007年にシンシナティ・レッズでメジャーデビューした時、そこにはナロンがいた。そのオフにハミルトンがレンジャーズへ移籍した際には、ナロンもレッズからレンジャーズへ移った。

ナロンのレッズでの肩書きは、ビデオ&アドミニストレイティブ(管理)・コーチだった。レンジャーズでは、最初が特別アシスタント・コーチで、数年後にアシスタント打撃コーチとなり、マイク・ナポリ(現ボストン・レッドソックス)の成長などにも手を貸した。だが、どちらのチームでも、ナロンの役目はコーチだけではなかった。ハミルトンのアカウンタビリティ・パートナーとして、ハミルトンの行動にアカウンタビリティ(責任)を負って目を配った。

遠征先のホテルでは隣接する部屋に泊まり、ハミルトンの財布も管理した。ハミルトンがドラッグやアルコールに手を出さないようにするためだ。2011年のオフにナロンがミルウォーキー・ブルワーズの打撃コーチに就任するまで、2人の関係は続いた。彼らが最初に出会ったのは、ハミルトンが9歳の時だったという。ハミルトンがプレーするバスケットボールのチームに、ナロンの息子がいた。

今回のトレードでレンジャーズがナロンを欲したとしても――少なくともそういう話は表には出てこなかった――、エンジェルスが手放したかどうかはわからない。また、エンジェルスが移籍を了承したとしても、ナロン自身に、再びハミルトンのアカウンタビリティ・パートナーになる気があったかどうか。

それでも、ハミルトンの復活――まったく力みのないスウィングから長打を放つ姿は天才としか思えない――を望む一人としては、ナロンも一緒にレンジャーズへ戻ってきてほしかった。もっと多くの金額を負担しても、レンジャーズはそうすべきだったと思う。ハミルトンは2月にコカインの再使用を告白し、ほぼ同時に離婚を申請している。

2010年のディビジョンシリーズ(地区シリーズ)でタンパベイ・レイズを下したレンジャーズは、シャンパンやビールをかけ合う前に、ジンジャーエールを互いに浴びせて祝福した。アルコール中毒の前歴を持ち、地区優勝のシャンパン・ファイトに参加できなかったハミルトンを気遣い、C.J.ウィルソンとイクイップメント(用具)・マネージャーのリチャード・プライスがノンアルコールを用意した(C.J.はアルコールを口にしない)。

プライスは現在もレンジャーズで働いているが、C.J.はチームにいない。ハミルトンより1年早く、2011年のオフにFAとなったC.J.は、5年7750万ドルでエンジェルスへ入団した。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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