Yahoo!ニュース

愛媛・伊予市女性遺体事件:たまり場・居場所の心理学:少年少女を守るために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
若者たちは何を見ているか。どこに集まるのか。(写真はイメージ)

■愛媛・伊予市女性遺体事件・少女遺体発見場所は「少年のたまり場」

愛媛・伊予市の市営団地の一室から、17歳の少女が遺体で見つかった事件で、警察はこの部屋に住む36歳の無職の女と、16歳の少年ら3人を死体遺棄の疑いで逮捕した。〜(被害者の)大野さんの顔は、殴られたように腫れ上がっていて、警察は今後、死因などを調べる方針。

出典:フジテレビ系(FNN)愛媛・伊予市女性遺体事件 逮捕の少年ら、被害少女と面識あり 8月16日

被害者少女は、自宅から出ていたようです。事件現場となった部屋は、多くの少年達のたまり場となり、トラブルが多発していました。被害者少女への暴力を目撃していた人もいました。警察にも情報は行っていました。

大野裕香さんが遺体で見つかった窪田恵容疑者の部屋は、普段から窪田容疑者の子供の友人が数多く出入りしていたという。ベランダで花火をしたり物を壊したりするなど周囲とのトラブルも絶えず、周辺住民はこれまで何度も伊予市や県警伊予署に相談していたという。

住民の女性は「普段から暴力的な行為が多かったみたいだ。14日夜も物音や女性の叫び声などが聞こえた」。別の女性も「あの家族が迷惑で出ていった人もいる。何かが起きてからでは困るので、住民のほとんどは市に相談していたはず」と話す。

出典:愛媛少女遺体 死亡の少女1カ月前も顔腫らす 容疑者宅「少年のたまり場に」 産経新聞 8月15日

■なぜ逃げなかったのか

死に至るほどの暴力を受けながら、なぜ逃げなかったのか。鎖で繋がれていなかったのに、なぜ逃げなかったのか。疑問に感じる人もいるでしょう。でも、おそらく少女は逃げなかったのではなく逃げられなかったのです(ネットと世間に流れる「少女はなぜ逃げなかったか」に答える)。

今回のケースは、まず「逃げる場所」がなかったのではないかと思います。家族は、捜索願いを出し少女のことを探していたのですが、彼女は家には帰れないと思いこんでいたかもしれません。

家庭以外にも、警察や、信頼できる友人宅や親戚宅など、本当はどこかに逃げ場所はあったのでしょうが、少女の心の世界では、逃げ場所がない、ここにいるしかないと、思っていたのかもしれません。

また、世の中には、人を支配するのが得意な人がいます。彼らは、洗脳やマインドコントロールを使うカルトのように、人を支配する様々な方法を使います。

激しい暴力、気まぐれな優しさ、細かいルールを守らせる、独自のルールや価値観でしばる、健康を奪う。このような状況で、人の心は縛られて、逃げられなくなるのです。

逃げられるのは、逃げ場所があり、と体の健康が保たれている人なのです。

■たまり場・居場所

家庭にも、学校にも、職場にも、「居場所」がないと感じている青少年達がいます。居場所がなくなるとき、人の心は不安定になります。不安定なまま、「たまり場」を探し出します。

何となく無職青年らが集まることもあれば、悪意を持った大人が彼らを集め、ルール違反を許したり、少年達を悪用したりしようとする場合もあります。

たまり場は、周辺住民の人々から見れば、異様で怖い集団に見えますが、そのように見られることがさらに、たまり場に集まる人々の凝集性を高めます。

自分たちだけで集まり、周囲を敵視し、独自の価値観で動くサブカルチャーが作られることもあります。

私たちにとっては、小さくても、自分の周りが「世界」になってしまいます。子どもにとっては学校のクラスが、社会人に取っては職場が、主婦や幼い子どもにとっては家庭が、その人にとっての「世界」なのです。

そこから一歩外に出れば、救いや別の価値観があるのですが、見えなくなります。その集団が良い集団なら良いのですが、いじめ非行の世界に飲み込まれる人もいるでしょう。

■少年少女を守るために

問題は多発しているのに、なかなか対応できないことが多いでしょう。家庭、学校、自治会、町内会、児童相談所、市役所、警察など、一つの組織の力では太刀打ちできないかもしれません。

不幸な犯罪を起こさないために、あるいは本当はSOSを出している少年少女を守るために、大人たちの連携が必要ではないでしょうか。

青年たちは、大人に反発するものです。社会のルールを破っている青少年は、甘やかさず制裁を加えることも必要でしょう。しかし、彼らには居場所が必要です。

悪の居場所ではなく、彼らに未来を与える居場所が必要です。彼らにとって、周囲の人々はうるさい存在かもしれませんが、「敵」になってはいけないと思います。

家を飛び出すこともあるかもしれません。大げんかをすることもあるかもしれません。それでも、最後には帰れる居場所を、子どもたちのために作れればと思います。

閉じ込められ、アルバイトを辞めさせられるなどしていた〜遺体に多数のあざ〜洗濯や食器洗い、小さい子供の保育所の送迎など家事を全部やらされていたらしい。

新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は「家出するなどして逃げる場所のなかった少女は、窪田容疑者に経済的にも心理的にも依存せざるを得ない状況になったのではないか」と推測したうえで、「窪田容疑者は、人を支配することが巧みだったのではないか。最初はやさしく接し、次第に支配するためのルールを厳しくするなど、心を操る関係を築いた可能性がある。そうなれば、鎖で監禁したのと同じ状況に陥る」と分析する。

出典:<愛媛少女遺体>昨秋から「監禁」か 「家事を全部」証言も 毎日新聞 8月16日

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

心理学であなたをアシスト!:人間関係がもっと良くなるすてきな方法

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

心理学の知識と技術を知れば、あなたの人間関係はもっと良くなります。ただの気休めではなく、心理学の研究による効果的方法を、心理学博士がわかりやすくご案内します。社会を理解し、自分を理解し、人間関係の問題を解決しましょう。心理学で、あなたが幸福になるお手伝いを。そしてあなた自身も、誰かを助けられます。恋愛、家庭、学校、職場で。あなたは、もっと自由に、もっと楽しく、優しく強く生きていけるのですから。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

碓井真史の最近の記事