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つまようじ動画事件の犯罪心理学:英雄になりたかった少年の心理とYouTubeの誘惑

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■つまようじ動画事件の少年逮捕「英雄になりたかった」

つまようじ動画事件の少年が逮捕されました。報道によれば、少年は次のように供述しています。

「少年法を改正するため、英雄になる必要があった」

「少年法を改正するため有名になる必要があった」

「発言力を増すために、いたずら動画を投稿した」

「有名になれてうれしかった。英雄に近づけた」

「18、19歳は判断ができるので少年法の対象にすべきではないと思う」

「私みたいに19歳の人間が捕まっても、刑務所ではなくて少年院に入る。それはおかしい。ちゃんと刑事罰を受けさせるべき。少年法を改正する必要がある」

「捕まりたくなかったので、実際に万引きはしていなかった」

「昨夏以降、万引きは一切やっていない」

「捕まりたくなかった。警察をだますつもりはなかった」

■典型的な少年犯罪か

同じ悪いことをする場合にも、大人と少年の動機はしばしば異なります。大人は、金が欲しくて盗み、早く目的地に着くためにスピード違反をします。できるだけ捕まらないようにします。

ところが少年の場合は、欲しくもないものを万引きしたりします。警察官の前でわざわざ暴走して見せることがあります。先生の目の前でガラスを割ったりします。

今回の少年の場合も、何の得にもなっていません。

少年犯罪は、昔の貧しかった時代の生活型犯罪から、遊び方犯罪、さらに自己確認方犯罪へと変化しているといわれます。お腹がすいてパンを盗むといった犯罪から、スリルや仲間内での賞賛を求めた犯罪になり、さらに、生きている実感が欲しいといった犯罪に変化しているわけです。

「表現としての犯罪」とも言えるでしょう。「ぐれてやる」と表現する少年もいます。今回も、犯行を誇示しています。

■少年法改正のため?

彼は立派なことを言っていますが、残念ながら、今回の件で少年法改正の声が特に大きくなっているわけではないでしょう。目立ちたいという思いを正当化するための、彼なりの正義、彼なりの理屈なのかもしれません。

非行少年、少年犯罪者は、少年法にけっこう詳しいので、自慢げに話す少年は珍しくありません。でも本当に少年法を熟知し、悪用しようとしているなら、そんな発言はせず、反省したふりをするでしょう。また、本当に少年法改正を願っているなら、当たり前ですが、もっと地道な方法なり、もっと効果的な方法を考えるでしょう。

ところで、彼は19歳は刑務所に行かないといったことを話していますが、罪状によっては少年刑務所に行くこともありますし、死刑判決が出たことも、ありますね。

■表現としての犯罪とネット動画の誘惑

人は、面白おかしいことを他の人に話したくなります。普通の人は、普通のことを話しますが、中には、悪いこと自慢、危険自慢をする人もいます。悪ふざけ投稿の問題は、ずいぶん話題になりました。

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ネットの世界はどんどん変わります。今は、「動画」でしょうか。YouTubeや、ニコニコ動画はずいぶん浸透しました。有名になってお金を稼いでいる「ユーチューバー」が、一般のマスコミにも登場しています。時の人という感じです。

周囲からウケたい、高く評価されたいとは、多くの人が願います。そこで、いろんな話を人にします。ネットが登場して、ネットでも話します。店に有名人が来たとツイートして、怒られたりもします。ちょっとした悪事や、おふざけをツイートして、結果的に大問題になったりもしています。ネットがなければ、仲間内の笑い話で済んでいたのですが。

ネットは、大きな力を持っていて、普通の人が有名人になれます。だからこそ、大きな誘惑になります。有名になるためには、ユニークな能力や、すごい偶然が必要です。でも、そんなものがなくても注目されるのが、「悪いこと」です。

スポーツや勉強で注目されない子どもが、注目されたいと思って悪いことをするのは、昔から非行少年のパターンでした。現在では、そこにネットが絡みます。今回は、さらにネット動画でした。

たしかに彼のネット動画は、注目されました。しかし、誰も彼を英雄とは思ってくれないでしょうか。

■少年ネット事件防止のために

犯罪防止のためには、刑罰を重くすることがまず考えられます。しかし、今回のようなきわめて小心者と思われる事件もあります。法律でなかなか大きく罰せられない悪いことを繰り返す少年もいます。その一方で、大人の打算的な犯罪者ならなかなかしないような、とんでもない悪いことをしてしまう少年もいます。

人生に絶望し、自分の人生なんてどうなっても良いと思っている凶悪犯罪少年がいます。また、「ぐれてやる」と言いながら、心の中で「オレのぐれた姿を見て、オレの悲しみや辛さを理解しろ、大人のやつら反省しろ!」と訴えている非行少年もいます。この少年たちは、懲役1年なら実行するけど、懲役3年ならやめておくとは、なかなか思ってくれません。

今回の19歳は無職でした。無職青年が起こす事件はたくさんあります。無職青年を減らすことは、防犯につながるでしょう。気の長い話ですが、楽しい学校、やりがいのある仕事、良い仲間や家族、将来への希望、これらが犯罪のブレーキになるでしょう(社会的絆理論)。

もう一つが、ネット安全教育です。ネットで被害者にも加害者にもならない教育が必要でしょう。

■補足:18、19歳は大人か

少年法の範囲を何歳にするかは、議論があります。選挙権が18歳になれば、18歳は大人として、少年法から外れ、裁判員にもなれるし、酒タバコも認めるという考えもあるでしょう。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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