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中東の印象と実際〜イスラム国人質事件から、報道とメディアリテラシーを考える

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

イスラム国による日本人人質事件をきっかけに、中東に関する報道が過熱していますが、普段は報道されずに、このような緊急時ばかりに報道されることで中東のイメージが偏って作られてしまう可能性があります。中東を知るジャーナリストの話から、報道側の姿勢とメディアリテラシーについて考えてみます。

◆日本人の印象とは裏腹、中東地域の日本ひいき

昨年横浜の小学生100人に中東のイメージについてアンケートを採ったところ、およそ80%が「行きたくない」と回答し、理由の大半は「テロ」と結びついていました。友好的な意見はごくわずかで、「石油を輸出してくれるから」という教科書的な理由が主でした。メディアでの情報が少ない以上、当然情報ソースは学校教育の場に偏ることになります。

しかし、中東地域で精力的に活動するフォトジャーナリストの久保田弘信氏は、中東の印象についてこう話します。「中東の国々で、日本人だからチャイはタダでいいよ、タクシーはタダでいいよ。なんて事を何度も言われている。ヨーロッパもアメリカも嫌いだけど、日本は好きだ!と言う人が多い」。その理由として、平和憲法や戦後の復興、更に日本製品の品質の良さなどがあげられますが、一番はイスラム圏の戦争に関与してこなかったという実績があるといいます。実際に行く機会の少ない地域だからこそ、「メディア」や「教育」における情報の偏りは大きな先入観を作り出してしまいます。当たり前ですが、これは小学生に限ったことではありません。

◆報道されない中東の現状

久保田氏は、こうなった以上日本も無関心では居られないと警鐘を鳴らします。「集団的自衛権の容認、イスラエルでの安倍首相のユダヤ人贔屓の発言、右傾化する日本を世界は見ている」。せっかく日本に対して良い印象を持ってくれていた中東地域に対して、日本の政策や「伝え方」は期待を裏切るような形になっていないでしょうか。今回の事件に対する安倍政権の対応についてネット上でも様々な意見が飛び交っていますが、まず前提となる情報自体が少ないのでユーザー側が判断することが難しくなっています。

久保田氏はメディアに対し、日本人にとって無縁の話ではないから戦闘そのものではなく、現状を伝えて欲しいと依頼しても「イラクやイスラム国のニュースをやっても視聴率が取れない」と断られてしまうといいます。

◆偏らないように考えようとすること

「僕は国民であれば誰であろうとどんな人であろうと助けられるべきだと思う。彼が当時批判していたことなど関係ない」これは2013年に辛坊治郎さんが太平洋横断中に遭難した際に、イラク人質事件の被害者であり、辛坊氏から「自己責任」論を突きつけられた今井紀明氏が取材に応じてくれたときの言葉です。とてもシンプルではありますし反論もあるかと思いますが、今井氏の考え方は先入観に囚われないものです。相手がイスラムや中東だからという前提で考えてしまうと、そもそもイスラムや中東に対して理解のない状態で偏った判断を下すことになりかねません。

今回の事件をきっかけに、普段から情報を発信し、印象が偏らないように努力するメディア側の姿勢と、情報が偏っていないか批判的に見るメディアリテラシーの必要性を多くの日本人が感じることが出来れば、第二第三の事件を防ぐことに繋がるのではないでしょうか。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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