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コンフェデ杯で出た課題をおさらい~2014年のための備忘録(中編)

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

備忘録前編http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaiyumiko/20130628-00026031/

備忘録後編http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaiyumiko/20130701-00026104/

■6月19日 日本 3-4 イタリア(レシフェ)

日本は前半21分、本田のPKで先制すると、同33分には香川が追加点を決め、2-0とリードした。ところが前半41分にCKから1点を返されると、後半5分に内田のオウンゴールで同点。同7分にはマリオ・バロテッリのPKで2-3と勝ち越されたが、同24分に岡崎が同点ヘッド。3-3と振り出しに戻す。しかし、守備が耐えられず、同41分に4失点目を喫し3-4の逆転負けで2連敗。第3戦のメキシコ戦を待たずにグループリーグ敗退が決まった。

★セットプレーの守備

前半41分の失点は、ザックジャパンの失点パターンとして指摘され続けているセットプレーからのものだった。

日本は第1戦で選手たちが最も感じていた「トライしなければいけない」という反省を生かし、アグレッシブなプレーを見せ、2-0とリードしていた。「前半41分で2-0とリード」なら、無失点で折り返すことへの比重を上げるべき時間帯である。

そこに訪れた相手の右CKの場面。ピルロの精度の高いキックがゴール前に蹴り込まれると、デ・ロッシについていた長谷部が競り負け、ヘディングシュートを決められた。

長谷部誠は、「いい形で自分たちのゲームができていたのに、前半残り5分というところでセットプレーでやられた。あれは明らかに自分のミスであり、自分の責任。あの1点が試合の流れを変えてしまった」と悔やんだが、単純なミスとして片付けてはいけない。

ザックジャパンのセットプレーの守備はマンツーマン。誰が誰をマークするかは監督が決めており、ミーティングで選手に伝えられる。ごくたまに選手側からの提案で監督案の一部が変更されることもあるというが、基本的には指示通りのマークになる。

そもそも、ザックジャパンには高さのある選手が少なく(吉田麻也は身長189センチだが空中戦は身長のわりには強くない)、世界規模の大会になるとほとんどがミスマッチになる。

ここでは、「高さのある選手を入れるべき」という議論をひとまず横に置き、ミスマッチという状況を前提としたうえでの反省点を挙げたい。

デ・ロッシをマークしていた長谷部のコメントは前述の通りだが、川島永嗣は俯瞰した目線で以下のように述べている。

あの場面ではCKの守備への切り替えが遅くて、チームとしてオーガナイズできていなかった。大事な時間帯ではそういう意識をよりハッキリと持っていかないといけない。ハーフタイムに皆にも言った。攻撃のときのCKやFKはいいけど、守備のときは休んでいる暇がないのだと」

高さのある選手がいないなら、いないなりにやらなければならない。W杯で上にいくには、最低限、集中力の欠如は御法度になる。

★後半の立ち上がりに連続2失点

今大会でむしろブラジル戦よりも最悪だったのは、後半5分と7分に立て続けに2失点し、一気に逆転された場面だ。

2-2に追いつかれた後半5分の失点は、吉田のプレー選択に関わるミスと、対人守備のミスという、二重のミスが内田のオウンゴールを招いたものだった。

吉田に関しては、3月26日のW杯アジア最終予選ヨルダン戦での2失点目の際の軽い守備の記憶も鮮明だが、世界大会でペナルティーエリア内でミスを2つ起こせば、失点は覚悟しなければいけない。

さらに詳細に振り返ろう。二重ミスの1つめはボールをキープしようとした判断に関することだ。あの場面では蹴って外に出し、プレーを切るという判断も考えられたが、吉田によれば「クリアするか、体を入れるか、迷った。クリアしても良かったが、味方から声が掛ったので体を入れようとしたら、入れ替わってしまった」という状況だった。

ここで問題なのはキープという判断ではなく「迷った」ということだ。(蹴り出す方がベターだったとは思うが。)危険なエリアでの判断の遅れは致命傷につながる。

2つめのミスは、身体を入れ替わられてボールを奪われたことだ。これは単純な1対1のミス。プレミアリーグでトップレベルの相手と対戦する機会もある選手としては、言い訳無用のミスだった。

★勝負どころを察知する力

後半5分の失点で同点とされた日本は、さらにその2分後に2-3とされてしまった。相手のシュートが、ブロックに入った長谷部の足に当たり、コースが変わってハンドとなり、PKを献上。これには不運も混ざっており、長谷部1人の責任ではない。チーム全体が浮き足立っていたことで、一気呵成の攻撃を受けることになったのがPK献上につながった。

この時間帯について、選手たちはどのように考えているのか。

内田は言う。「日本と戦って1-2で負けていればイタリア人は許してくれないと思う。そういう意味で、あの時間帯はイタリアがやってきたなと感じた。ザッケローニ監督はハーフタイムに『後半の10分で試合が決まる』と言っていたのだが、イタリアもそれが分かっていたのかなと思う

勝負どころを見極める経験値、勝負勘で日本は劣っていた。

★決定力不足

後半24分、3-3とするゴールを決めた岡崎慎司は、チャンスの回数と得点数について言及した。

「日本は最後のところで点を決められず、向こうは効率よく決めた。攻撃陣としてはあれだけ手数があればもっと決めないといけない。イタリアは全然良くなかったが、日本は負けた」

シュート数は日本の17本に対してイタリアは12本。決定力不足は古典的かつ永遠の課題であり、選手個々が、シュートの精度を上げるための鍛錬を繰り返すべきなのはもちろんのことだ。ただし、それができないからこそ、組織としてチャンスの回数を多くしていくという方向性が現在のコンセプトになっており、その方向性は間違っていないだろう。イタリアとメキシコから点を取った岡崎はむしろこの大会で伸びたのではないか。

★ミスの連鎖が招いた4失点目

日本が3-3と追いつくと、イタリアは最後の力を振り絞ってゴールに向かってきた。

今野泰幸は言う。

「4失点目は完全に僕のクリアミスであり、判断ミスでもあった。あのときはたぶんフリーだったと思うので、もう少し余裕があれば、トラップして、ビルドアップを開始できたと思う。判断がうまくいかず、ダイレクトでクリアするということだけが頭にあった。予想以上にパスが速くて、クリアが大きくならなかった」と悔いた。

「今日は勝たなければいけない試合だった」(今野)。だが、最後の最後でイタリアの執念が上回った。

(後編に続く)

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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