Yahoo!ニュース

コンフェデ杯で出た課題をおさらい~2014年のための備忘録(後編)

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

備忘録前編http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaiyumiko/20130628-00026031/

備忘録中編http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaiyumiko/20130630-00026079/

■6月22日 日本 1-2 メキシコ(ベロオリゾンテ)

日本は立ち上がりから攻撃陣が連動しながら積極的に敵陣へ攻め込んだが、前半10分、岡崎のシュートがきわどい判定でオフサイドになると、前半20分ごろから疲労の色が濃くなり、足が止まった。その後はずるずるとラインが下がるなど間延びが著しく、チャンスを作れなくなった。

2失点はいずれも後半。日本は後半41分に岡崎が1点を返した後、川島が相手のPKを止め、さらには同点とするチャンスもあったがかなわなかった。

システムは4-2-3-1でスタート。後半20分から今大会で初めて3-4-3にしたが、同32分に長友が負傷し、残り時間は4-2-3-1で戦った。日本は3戦全敗で終戦。3試合で4得点9失点と、失点が余にも多かった。

★ポジショニングのミス

互いにグループリーグ敗退の決まっているチーム同士の対戦。連戦の疲れもたまっており、両チームとも立ち上がりからゆったりとしたテンポで試合を進めたが、0-0で折り返した前半もプレーの質ではメキシコが上回っていた。

後半9分に先制されたシーンは、相手のサイドチェンジに対し、マークの遅れた酒井宏樹がグアルダードにかわされてクロスを上げられ、ニアに走り込んだエルナンデスにヘディングシュートを決められたもの。日本は前半にも似たような形から決定機を与え、相手シュートがポストに当たって難を逃れているが、“2度目”は容赦ない結果となった。

この失点では複数の選手のポジショニングミスがあった。右サイドバックで今大会初先発した酒井宏は言う。

「中に絞っていれば、逆サイドからのロングボールへの対応が遅れるのはしょうがない。そこからどれだけアプローチできるか。自分としては最短距離で詰めていたのだが、相手の動きが速くて遅れてしまった。クロスを僕が触ってしまったことでコースが変わり、反応されてしまったという面もある」

クロスに対応して足に当てるのは通常なら正しい守備だが、この場面ではコースが変わったことが災いしたという。

酒井宏と同様に大会初先発だったCB栗原勇蔵も詳細に言及している。

「(酒井)宏樹サイドへボールを出されたとき、僕が(細貝)萌から(エルナンデスの)マークを受けた。だが、そこまで行ったときに早いクロスを上げられて、(エルナンデスに)うまく裏を取る動きをされた。身体の向きでは付いていけなかったから、ニアだけ切ろうと思ったのだが、映像を見ると、中も(長友)佑都と今ちゃん(今野)くらいしかいなかった。僕がもっと中で守ればよかった」

今野は「個人能力も、組織も、まだまだ成り立っていない。1つ2つのポジショニングのミスがあっても、アジアならカバーできていたし、何とかなっていた。でも、このレベルになると、ポジショニングミスがあったらやられる」と悔やんだ。

★個の力量差が出るパターンとは?

間延びすると個の力の差が出るというのは本田圭佑の指摘だ。いわく、「どこで差が出るかというと、間延びして、スペースができたとき。コンパクトにできているときは日本の良さを出せるが、間延びしたときに、どうしても個の差が出る。組織で戦えることは証明できたけど、個で試合を決定づけるプレーが少なかった」

陣形をコンパクトに保てないときに個人の力量差が出るのは、攻撃だけではなく、守備にも同じだ。1対1ではどうしても守り切れない場面が出てくるからだ。

股関節に不安を抱えて別メニュー調整の日が多く、大会を通じていいところのなかった吉田は南アフリカW杯から受け継がれている「組織守備の強さ」に自信をのぞかせつつ、こう話していた。

「局面ではやられているけど、組織は大きく崩されていない。個の部分を詰められるようになれば組織は十分に通用する。ずっと言っているけど、個のレベルアップが必須」

吉田の言う「局面」とはそのほとんどがセットプレーや単純な1対1を指している。攻撃陣の言う「決定力」と近い悩みと言える。

今大会の9失点の内、防ぐことのできた失点はいくつあるだろうか。

吉田は「ブラジル戦の2失点目、3失点目。イタリア戦の2失点目、4失点目。メキシコ戦の2失点目(セットプレー)も防ぎようはあった」と5失点を挙げた。その上で、「問題は1歩2歩を寄せることができるかどうか、集中力(欠如)とイージーなミスは僕の課題」と潔く認めた。

★「勝ち方を分かっていない」

コンフェデ杯の3試合を通じて、ザックジャパンの戦士たちが最も痛切に語っていたのが「勝ち方が分からない」ということだった。イタリア戦を分析した中編でも述べているが、日本選手はこの大会で、勝負どころを察知する勘どころをつかめていないという問題を突きつけられたのだ。

ザックジャパンにはかつてない人数の欧州組がおり、先発メンバーのほとんどが欧州組で構成されている。日ごろから異文化でもまれ、世界各国の選手と対戦している選手が多いのだから、個の経験値では確実に以前の日本代表より上がっているはずだ。それでも「勝ち方が分からない」のである。

「どうすれば勝てるのか」。この命題は他の問題と比べて難易度が高い。逆の言い方をすれば、この答えが分かれば優勝できる。

「相手より1点多く入れれば勝つ」というのが最もシンプルな答えだが、ではどうすれば「相手より1点多く入れる」ことができるのか。タイムレースではなく、相手のいる競技。個人スポーツではなく、11人による団体競技。ピッチで起こりうることは実に多様だ。

この命題に対する回答として、選手たちはメンタルの内側に分水嶺があることまではつかんでいる

本田はこう言った。「イタリアは中2日で僕らに勝った。どういう状況でも勝つメンタルが必要だ」

内田も、言葉は違えど同じようなことを口にしている。

「自分たちがしっかり準備をしていれば、ある程度やれる時間帯はあるけれど、そういうことよりも勝敗のところ(分かれ道)を感じる。何だろう。いいサッカーをした方が勝ちに近いのだけど…。オリヴェイラ監督(元鹿島アントラーズ監督)が『勝者のメンタリティー』というのを口酸っぱく言っていたのだけど…」

そんな中、岡崎慎司はフィフティフィフティーの流れの中では「集中力」が勝敗を分けたととらえており、メキシコ戦後、こう話していた。

「自分たちの時間帯も相手の時間帯もある中で、日本は勝つための集中力に欠けている。サッカー的にはやれることが分かったが、勝つための集中力に欠けていた。勝負を分けるポイントを自分たちは分かっていなかった」

★ブラジルでさえも

「勝ち方を分かっていないことが分かった」というのがコンフェデ杯の教訓であるなら、それは今までの日本代表にはなかったハイレベルの課題なのではないだろうか。

大会中、ブラジルのフェリペ監督は「勝利が問題をかき消すくらいなら、負けて課題が浮き彫りになった方がいい」と話していた。どの国も1年後のW杯を最終目標としている今は、ブラジルでさえこういうスタンスなのだ。

ブラジル、イタリア、メキシコを相手に、現在の立ち位置と課題を自覚したザックジャパン。残り1年でどのような修正をし、本大会でどこまでたどり着けるか。じっくり、期待を抱いて見ていきたい。

(終わり)

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

矢内由美子の最近の記事