ネット炎上を引き起こす「ラジカル・フィードバック」は娯楽なのか?
なぜネット上で「炎上」は起こるのか?
ネットの世界で過激な発言が増えています。近年、「ネット炎上」「ネットバッシング」という言葉が一般的に使われるようになってきました。
『第64回NHK紅白歌合戦』のステージで、大島優子さんがAKB48を卒業すると突然発表した後もそうです。紅白という国民的番組で卒業を発表した大島さんに対するネットでの「炎上」がすぐさま起こりました。
「炎上」の原因は、不特定多数の「ラジカル・フィードバック(過激、急進的な反応)」です。特定人物の発言や態度に対するフィードバックが、極端に単純化することで発生します。「ラジカル・フィードバック」は刺激物とも言えますから、退屈な毎日に何らかのアクセントを加えたいという人にとってはリーズナブルな「娯楽」にもなり得るでしょう。ネット掲示板やツイッターなどを媒介にして一気に拡散していきます。
「ラジカル・フィードバック」の影響に関しては後述するとして、まずはフィードバックが単純化される原因を解説していきます。原因は以下の2つ。
1)非言語データの省略
2)選択的認知
コミュニケーションに重要なのは「非言語データ」。相手と面と向かって話をするときは「目つき」「表情の変化」「息遣い」といった非言語データが相手に伝わります。「電話」の場合もそうです。相手の「声色」だったり「ため息」などが耳に入ってきます。いっぽうネット上のコミュニケーションには「非言語データ」がほとんど含まれません。このようにコミュニケーションにおける重要なデータがネット上では削ぎ落とされているため、言葉に込められた感情やニュアンスが省略されてしまいます。
省略されたデータを補うのは、コミュニケーションの受け手です。つまり受ける側が、正しくそのデータを埋め合わすための情報(業界特有の知識、体験、書き手の思い等)を持ち合わせていなければ、歪んだ受け止め方になります。
省略されたデータに「先入観」というフィルターがかかる
また、先入観や思い込みにより、認知する事柄を無意識のうちに選択してしまうことを「選択的認知」と呼びます。つまり何らかの「言語データ」と出会っても、そのデータを正しく認知することなく、自分の勝手なフィルターによって省略させたり、歪曲化させることがあるのです。
俳句と同様、削ぎ落とされた文章に触れたとき、句を味わう感性や、余韻を楽しむ精神の余裕がなければ正しい鑑賞ができません。選択的認知が働き、あるはずの「季語」を認知しなかったり、言葉の裏に隠された作者の思いを読み取れないのであれば、「なんのこっちゃ」「意味がわからない」となるでしょう。
「二元論」が極端な感情を生みだす
単純化されたデータは、感情をも単純化していきます。極端に単純化されると、感情の階層さえも省かれます。要するに、「1」か「0」、「白」か「黒」で物事を判断するようになる、ということです。
物事を2つの相対立するファクターに基づいてとらえることを「二元論」と呼びます。二元論で物事をとらえる人を「二元論者」と呼び、「あれは良い/あれは悪い」「あれは支持できる/あれは支持できない」という両極端な感情で物事を判断するようになります。問題は、両極端な感情を持つことにより、応報性(やられたらやり返す)が強くなることです。昨年、「やられたらやり返す。倍返しだ」というフレーズが流行語大賞となりました。ドラマを見続けた人ならこのフレーズの意味、奥行きも理解できるでしょうが、この言葉だけに触れていると、まさに極端な感情が生まれてきます。
ツイッターで炎上しやすいのは、140個の文字列の中に、省略されたデータを自分で補うことができない人が多数いるからです。先入観という名のフィルターをかけて曲解し、歪曲化したコメントが流布すると、さらに極端な反応が相乗効果で生まれてきます。たとえばある企業が「ブラック企業」ではないかとレッテルを張られ、その噂がネット上で駆け巡ると、極端な反応(ラジカル・フィードバック)が独り歩きをはじめます。現場を知らない人、社会経験が少ない学生たちは、情報を補うためのデータが欠落しているため、表面的なデータに翻弄されることになります。また、「自爆営業」の報道に、営業コンサルタントが物申す!で書いたとおり、根本的な問題を調べ尽くしていない人が記事を書くことで、上っ面の情報に自分の感情だけ乗せてバッシングするお祭り騒ぎみたいなことが起こります。
「ラジカル・フィードバック」にはドラマの要素が
先述したとおり「ラジカル・フィードバック」は刺激物です。こういった過激で急進的な反応がまるで世論のごとく力を持ち、間接的にでも芸能人を休業に追い込んだり、政治家の信条をも揺り動かしたりすると、それらに触れる「野次馬オーディエンスたち」はハラハラドキドキし、葛藤や不条理を覚えたりすることでしょう。テレビドラマよりも刺激的で、ドラマ性を感じます。
政界や芸能界、スポーツ界のスキャンダラスな出来事そのもの以上に、それらの記事のコメント欄やツイッターで目にする「ラジカル・フィードバック」のほうにこそ興奮を覚える所以です。
「炎上」と聞くたびに好奇心を抱き、野次馬根性で注目する人は多数います。こういったオーディエンスを対象として、あえて「ラジカル・フィードバック」を受けられるような発言や記事を書く人も実際にいます。こうなってくると、何が「真実」で「茶番」で「出来レース」なのか、よくわからなくなることもあるでしょう。ネット上で繰り広げられる独特のコミュニケーションには気を付けるべきです。特定の著名人のみならず、企業や学校、社会システムへのバッシングも増加傾向にあり、実社会への影響が少なからずあります。あまり振り回されたくはないですね。急進的な思想を持つ人たちに、「炎上」そのものが仕組まれている可能性もあるわけですから。
(※コラム「綺麗ごと」を真に受けるな! 「キラキラワード」が日本をダメにするは、内容もさることながら大量に寄せられたコメントが面白いと言われ、2日で160万アクセスを記録した)