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【COP21開会!】本音トーク:地球規模の気候変動リスクと向き合う(第4回)国会議員編(1/2)

江守正多東京大学 未来ビジョン研究センター 教授
(写真:アフロ)

パリで開会した国連気候変動枠組条約COP21において、地球温暖化対策の新しい国際枠組づくりが大詰めを迎えている。

そこでの議論の背景となる重要な認識は、国際社会が「産業化以前を基準に世界平均気温上昇を2℃以内に抑制する」という目標を掲げていることと、その達成のためには今世紀末までに世界のCO2排出量をほぼゼロにする必要があるというIPCC報告書の結論である。我々はこの壮大な課題にどう向き合ったらよいのだろうか。

国民を代表して、このような国政レベルの大きな意思決定に携わっておられるのはの国会議員の方々である。筆者が代表を務める研究プロジェクト(ICA-RUS)の活動として、今年11月に5名の国会議員、元国会議員にお集まりいただき、この問題についての座談会を開いた。

本企画の実施にあたり、地球環境問題に取り組まれた国会議員の先駆者である元衆議院議員の小杉隆氏に最初にご相談に伺った。小杉氏は快く企画の実現にご尽力くださり、座談会当日もご参加くださった。そして、現役の議員の方々として、若松謙維 参議院議員(公明党)、福山哲郎 参議院議員(民主党)、水野賢一 参議院議員(無所属)、鈴木馨祐 衆議院議員(自民党)をお招きした。若松議員を除く3名には、事前に個別インタビューにご対応頂いた(若松議員には座談会直前に小杉氏からお声掛け頂き、ご参加をお願いした)。

筆者はインタビューの聞き手と座談会の進行役を務めた。

正直に申し上げて、メンバーはいわゆる「環境派」の議員に偏ったという感があり、国会議員の代表的な「ホンネ」を聞き出せているかどうかは、今回は割り引いてご覧頂く必要があるかもしれない。これ以外にも何人かの議員に依頼を試みたが、ご対応頂けなかった。このテーマで自信を持ってご自分の言葉を語ってくださる国会議員は限られているのもまた事実であろう。

安保法制等でたいへんお忙しい中でご対応頂いた4名の議員の皆さま、全般にわたってお力添え頂いた小杉氏ならびに地球環境国際議員連盟GLOBE Japanの上田尋一 事務局長に心より感謝を申し上げる。

以下に、2回に分けてその内容をICA-RUSのホームページより転載させて頂く。前半に3名の議員の個別インタビューのまとめを、後半に座談会の内容を掲載する。メンバーのご略歴は、転載元をご覧頂きたい。

また、シリーズのバックナンバーもぜひご覧頂きたい。

第1回 行政OB編

第2回 企業とNPO・NGO編

第3回 エネルギー編

インタビュー編

インタビューの質問項目(同時に座談会のテーマ)は以下の4点。

1. 国際的な衡平性と日本の国益について

気候変動問題は、先進国(や新興国)が排出した温室効果ガスにより、貧しい途上国が最も深刻な被害を受ける不公正の問題であるという見方があります。この不公正の問題に対処することと、日本の国益を確保することとのバランスについてお考えをお聞かせください。また、ここで日本の国益として何をお考えであるかについてもお聞かせください。

2. 現在世代と将来世代の負担について

現在世代が温室効果ガス削減の努力を怠ると、削減努力が将来世代に先送りされると同時に、将来世代における気候変動影響のリスクが増大すると考えられます。しかし、現在世代が将来世代の利益を十分に考慮することは一般に難しく、将来が様々な点で不確実であることがこの問題をさらに難しくしています。この点についてお考えをお聞かせください。

3. 産業や社会の構造転換の必要性と現実性について

気候変動問題に対処するためには産業や社会の大きな構造転換が必要であるという見方があります。特に、先のエルマウ G7 サミットで「今世紀中に世界経済を脱炭素化する」ことが宣言されたように、化石燃料利用からの脱却が言及され始めています。そのような転換の必要性と現実性について、お考えをお聞かせください。

4. 気候変動問題に関する民主的な意思決定について

気候変動問題は国や世界の将来を左右する重大な問題であり、同時に対処方針が人々の価値観に依存する論争的な問題です。しかし、非専門家が十分な知識と実感を持って議論に参加することが難しく、選挙の大きな争点になることもありません。このような問題に対する日本の方針を意思決定する際に、現状で民主主義がどのように機能しているか(いないか)、お考えをお聞かせください。

福山 哲郎 氏

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  • 2009年のCOP15以来、気候変動問題へのモーメンタムがおちている。

1. 衡平性と国益について

  • リーマンショック以降、気候問題と経済問題はパラレルに扱われるが、足元の経済と長期の地球温暖化問題は違う。同時に議論されると合意形成が難しくなる。
  • 途上国と先進国間の公平性の問題はあるが、温暖化に対処することは、地球益になる。先進国が一定の合意形成のリードをすることは、自国の国益にもなる。
  • 図式としてはイノベーションを通じて、CO2を減らすとともに、途上国も豊かになり、経済界にとってもプラスになるというサイクル。目先のコストだけを見るのではなく、日本の技術が世界をリードすることを目指すことが重要。

2. 現在世代と将来世代の負担について

  • 気候変動問題は、地理的範囲が幅広く、現在から未来にわたる世代的な広がりもあるために、誰が利益を得るのか特定しにくく、全体を考える政治も団体もない。見えないところへの想像力が必要(知的想像力の限界への挑戦)。
  • ただ単に市場に委ねても各ステークホルダーが自分に都合のよいデータのみを取り上げて主張するため、気候変動だけ取り上げても国際的な合意はしにくい。科学者が合意できるIPCCのようなプラットフォームと、国連のようにステークホルダーが合意できるプラットフォームの両方が緊密に連携しあうことが必要である。
  • 40年間分の電力確保と豊かさを享受するために原発を建設し、数万年も処理に要するゴミを出し続ける権利は現世代にはないし、気候変動の影響についても将来世代に対して謙虚であるべき。

3. 産業や社会の構造転換の必要性と現実性

  • G7で政治家が2℃で合意した以上、削減はやらなければならない。社会構造の変化/イノベーションは必須だが、既得権益者をむやみに悪者にするのではなく、自分たちで変化できるインセンティブを与え、マーケットを作っていくことが重要である。また、化石燃料産業を転換するコストは社会全体で負うべき。
  • 規制や転換は歴史的に社会を豊かにしてきた。コスト受容を理解できる議論を政策決定者がしていく必要がある。産業界も変化をポジティブにとらえるべき。

4. 気候変動問題に関する民主的な意思決定

  • 東日本大震災と原発事故を受けて、民主党政権下では脱原発に向けた国民的議論と熟議を行なった。
  • 各専門家の異なる情報ではなく、専門家間で合意できる事実が重要である。事実に基づいた政策のポジティブな点とネガティブな点を国民に提示して、知識を共有した中で議論しなければならない。
  • トータルとしての国民の集合知を信じなければ、民主主義が成り立たない。今後問われるのは、情報が錯綜する中でのマネジメントシステムづくり。また、先進国間で議論をリードする競争になるので、民主主義をより強化する必要がある。

水野 賢一 氏

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  • 温暖化問題に関しては科学的に100%確実ということはなかなか言いにくく、不確実性はどうしても残っている。IPCCの報告書も温暖化の原因は「人為的に排出されるガスによる可能性は高い」としつつ断言はしていない。気温の上昇による影響も予測できない。そのため懐疑論も出てくるわけだが、一方で100%とは言えないにしても、可能性がかなり高い以上は、政治は先手を打って対策を取る必要がある。水俣病の時もチッソの排水が原因だと断定されるまで排水を流し続けたら被害が広がったが、そうした教訓を活かすべきだ。

1. 衡平性と国益について

  • 温暖化問題は幅広い課題であり、国際的な連携が必要。しかしCO2の排出削減について、中国などの新興国は、現在の温暖化の原因は先進国にあるとして、自国が発展する権利を主張する。公平性の客観視はきわめて難しい。
  • 削減量について産業界は慎重で、経済的発展にキャップをかけるものとし、GDPあたりで見れば日本の排出はそれほど多くないと主張している(絞った雑巾理論)。それには一理あるが、それを対策に手抜きをするための言いわけにはすべきではない。基本的には、先進国が率先して行なっていくしかない。また、産業界のいう「国益」は単なる業界益にすぎない場合もあるので注意する必要がある。
  • 温暖化により、すぐ誰かが死ぬわけではないので、一般の人にはピンとこないだろうが、被害は長期的で深刻になる。政治家は、先に考えておく必要がある。

2. 現在世代と将来世代の負担について

  • ブレア政権末期に出されたスターン報告は、早期の温暖化対策の費用をGDPの1%と見積もったが、対策を怠れば5〜20%相当の被害が出る可能性があるとした。病気と同じく早めの対策をした方が経済的にも望ましい。逆に新しいエネルギーによる新産業創出の可能性も出てくる。

3. 産業や社会の構造転換の必要性と現実性

  • 化石燃料を使用すれば必ずCO2が発生して温暖化の原因になる。化石燃料の使用を抑制する必要があるが、規制は容易ではないので、環境税・炭素税などの名目で課税して価格を上げ、使わない方向へ誘導するのが現実的と思われる。
  • CO2は長期的な影響はあるが、人体には直接有害な物ではない。たとえばカドミウム・水銀などは有害なので禁止しやすく、排出工場を止めればすむが、CO2は広範囲な問題であり、個々の家庭などを規制することはできない点が難しい。

4. 気候変動問題に関する民主的な意思決定

  • 温暖化は長期的には極めて深刻な問題を引き起こすが、一般の人にとっては今日明日の問題ではない。一方で排出削減を迫られる産業界にとっては明日の利益の問題となっているだけに削減に必死に対抗することもある。それだけに政治が先見性をもって対応することが必要となる。

鈴木 けいすけ 氏

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  • 気候変動問題は温暖化するだけではなく、変動の波が大きくなるということであり、しかもそれが加速していく可能性がある。温暖化対策はもはや選択ではなく現実、絶対にやらなければならない。

1. 衡平性と国益について

  • 温暖化問題は、科学的知見によって地球全体でどこまで削減せねばならないかという科学のステージ、それをどう各国が負担するのかという政治のステージに分かれる。政治のステージが先になった結果これまでの削減枠組みは実質的に機能しなかった。
  • 新興国と途上国では脆弱性も危機感の持ち方も違う。それを理解したうえで、新興国には先進国に準じたレスポンシビリティを求めねばならない。
  • 正しい規制は正しいイノベーションを生む。エネルギー効率に関連する日本の技術は高い。正しい規制が世界的にかけられれば、結果的に国産の技術を各国が使わざるを得なくなる。気候変動問題は日本にとっては地球益と国益がほぼ合致する問題である。

2. 現在世代と将来世代の負担について

  • 気候変動問題は、気づいたときには遅く、対策をとってから効果があらわれるまでにも時間がかかるところに特徴がある。そのために科学的知見に基づき危機を感じた人間が危機感を共有すべく啓蒙しなければならない。
  • 温暖化対策は行動をとるのが早ければ早いほど負担を抑えられる。
  • 原発から石炭発電へのシフトが日本で見られているのはとんでもない話。将来の課税によるコスト上昇の可能性を示唆することで事業者の石炭へのインセンティブを抑えることが必要。
  • 将来の負担を大きくしない為に新興国・途上国も含め今の世代から負担を始めねばならない。長い目で見れば、適切な規制や適切な税によって国益が生じる。

3. 産業や社会の構造転換の必要性と現実性

  • 構造転換は必ずできる。最終的には風力発電など再生可能エネルギーに移行させるが、蓄電の技術が高いレベルに達するまで20〜30年ほどかかるだろう。そこまでのつなぎとして現状においては原子力の使用は避けられない。
  • 日本一国の脱原発は結果として電力コスト上昇による工場のシフトを促し、中国等の危険な原発の増加につながってしまう。殆どの国では原子力のリスクと温暖化のリスクのトレードオフを考え、結果として原子力を選択している。冷静な議論が求められる。最終的に我々が目指すべきは日本のみの脱原発ではなく全世界での脱火力、脱原発。

4. 気候変動問題に関する民主的な意思決定

  • 目に見えるものは民主主義になじみやすいが、気候変動リスクなど目に見えないものは、肌で感じられないので、理解されるのが難しいことが大きなチャレンジ。
  • 企業や消費者を動かすのは価格であり、適切な選択を促すためには税でビルトインするしかない。たとえば一般間接税を消費税から環境税にシフトさせることは経済的にも合理的であり、気候変動の面からも考えるべき選択である。

2/2につづく)

*環境省環境研究総合推進費課題S-10の研究活動として実施した。

協力:上田尋一

執筆:小池晶子 撮影:福士謙介

編集:青木えり、江守正多、高橋潔

東京大学 未来ビジョン研究センター 教授

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。同研究所 気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域 副領域長等を経て、2022年より現職。東京大学大学院 総合文化研究科で学生指導も行う。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?」、監修に「最近、地球が暑くてクマってます。」等。記事やコメントは個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

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