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中国企業、パラマウントの半分を買収するかまえ。問題はお家騒動

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

中国の大連万達グループが、パラマウント・ピクチャーズの49%を買収しようとしている。ウォール街のアナリストは、パラマウントの資産価値を80億ドルから100億ドルの間としているが、大連万達は50億ドルを払うつもりでいるようだ。パラマウントの親会社ヴァイアコムのCEOフィリップ・ドーマンは、以前から、パラマウントのオーナーシップのごく一部を売却するつもりであることを表明してきていた。しかし、49%となると、ほぼ半分だ。アナリストの中には、大連万達がスタジオ内での権力をやがてもっと増大させていくことを視野に入れていると見る向きもある。

大連万達は、近年、猛烈な勢いでハリウッドに参入してきている。今年1月には、「GODZILLA ゴジラ」「ウォークラフト」などを製作したレジェンダリー・ピクチャーズを40億ドル弱で買収(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160108-00053219/)。2012年には、アメリカで2番目に大きいシネコンチェーンAMCを買収しているが、今週、AMCは、ヨーロッパで最大の劇場チェーン、オデオン&UCIシネマを12億ドルで買収すると発表した。交渉が難航しているものの、AMCは、アメリカ国内に2,954スクリーンを所有するカーマイク・シネマズも買収しようとしている。すでに大連万達は中国で最大の劇場チェーンを持つが、その勢力を世界規模に広げていこうとしているのは明らかだ。

箱を持っているだけに、コンテンツにも関わりたいというのは、次のステップとして当然のこと。だが、企画製作から配給まですべての機能を兼ね備えたハリウッドスタジオは数が少なく、自分たちで新しく作ろうと思っても、実際のところ、なかなか作れるものではない。一方、ドーマンは、ヴァイアコムの株価を上げたがっている。今年、パラマウントは「Zoolander 2」を失敗させ、「ミュータント・ニンジャ・タートルズ 影<シャドウズ>」も期待されていたほどの数字にはならず、ふるわない状態だ。ヴァイアコムが抱えるケーブルチャンネルのコメディ・セントラルやMTVも、視聴率がぱっとしない。手っ取り早い方法として考えたのが、スタジオの一部を売却することだったのである。

しかし、この売買が成立するかどうかは疑問だ。

ヴァイアコムの創設者ソムナー・レッドストーンをめぐるお家騒動は(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160409-00056411/)、収まるどころかますます混乱をきわめている。仲が悪い親子として昔から有名だったソムナーと長女シャリーは、今や結託して、レッドストーンを継いでCEOに就任したドーマンを追い出そうとしているのだ。93歳のレッドストーンがまだ十分な判断能力をもっているかどうかは愛人との裁判沙汰でも焦点となったばかりだが、ドーマンは、シャリーが判断能力のないレッドストーンを言いくるめて自分を追い出そうとしていると主張している。

ドーマンとしては、CEOの肩書きを持っているうちに売買を成立させて、株価を上げ、手柄を残したいところ。だが、1994年にパラマウントを買収し、パラマウントをヴァイアコムの最も貴重な資産と考えているレッドストーンは、どんな小規模であれ、スタジオの一部を売ることには大反対という姿勢を貫いてきた。レッドストーン一家は、ナショナル・アミューズメント社を通じてヴァイアコムの投票権の8割を所有しており、彼らの同意が得られないのは、大きな障害だ。米西海岸時間15日(金)にも、ナショナル・アミューズメントは、パラマウントの売却は長期的に見れば株主にとって損だと主張する声明を発表している。その中で、ドーマンについて、「もうすぐ役員ではなくなる人が決めるべきことではない」とも付け加えた。これを受けて、ヴァイアコム側はただちに、「なぜナショナル・アミューズメントが邪魔をし続けるのか理解しがたい。これは、長期的にパラマウントとヴァイアコムの資産価値を上げるすばらしい機会だ。私たちは、ヴァイアコムの株主のために最高の結果を追求し続ける」と声明を発表している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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