Yahoo!ニュース

舛添都知事の「辞任ムード」と、新都知事のコスト――4年で3度目の都知事選は必要?

松谷創一郎ジャーナリスト
2016年6月6日、記者会見における舛添要一東京都知事(写真:長田洋平/アフロ)

高まる「辞任ムード」

舛添要一東京都知事の政治資金流用疑惑が、連日マスコミを賑わせています。6月6日には、舛添知事の任命で調査にあたった弁護士ふたりが、「不適切だが、違法性はない」との調査結果を発表しました。これを受けて舛添知事は、職を続ける意向を示しています。

今回の舛添知事の疑惑とは、税金による公的な政治資金をプライベートなことに流用したというもの。そこには、神奈川県湯河原町の別荘に公用車で通うことなども含まれています。114万円を返金し、別荘も売却すると表明しましたが、7日からの都議会では厳しい質問が予想されます。

『週刊文春』の報道を発端に、各マスコミが一斉に追従したことで「辞任ムード」が高まっていた舛添知事ですが、これで幕引きになるのでしょうか。

ワイドショー向きのネタ

今回の舛添知事の疑惑は、実はワイドショーでも大注目されています。たとえばフジテレビの『直撃LIVE グッディ!』(毎週月〜金曜日・13時45分~15時50分)では、記者会見を生放送し、それを元妻の片山さつき参議院議員が解説するという、なかなか凄まじいアングルを構成するほど。その間、オバマ大統領の広島訪問や北海道の小2男児行方不明などのニュースもありましたが、それらが収束すればふたたび大きく扱われています。

ワイドショーでこのニュースがG7サミットや消費増税の再延期などよりも大きく扱われるのは、おそらく「税金の不正使用」という側面が庶民の感情に突き刺さるネタだと判断されているからでしょう。

具体的には、舛添知事のこの資金流用の中身が、極めてわかりやすい“雑さ”だったことがワイドショー向きなのです。公用車での別荘通い、高額な海外出張費、ヤフオクでの美術品落札、会議兼木更津への家族旅行等々――それらはなんとも庶民のハートを逆なでするような贅沢さです。「われわれの血税で贅沢するな!」ということです。

たしかに今回の舛添知事の疑惑は、なんともケチくさい内容です。都知事の給料は、145万6000円、ボーナスを含めた年収では約2200万円です(※1)。これは全国の知事のなかでもトップクラスで、国会議員の給料(歳費)ともほぼ同じ額です。つまり、相当のお金持ちのはずなのにケチくさいわけです(※2)。

都知事選の費用はいくらか

そういえば、ニュースやワイドショーではしばしば「街の声」を取り上げます。今回の件でも、ワイドショーがインタビューしたふたりの中年女性が「こんなひとに都政を任せておくことはできません」「もう辞任しかないですよ」と真っ直ぐな目をして熱く話していました。溢れんばかりの正義感です。

これでもし舛添知事が辞任すれば、都民にとっては4年で3度目の都知事選ということになります。石原慎太郎氏の辞任(衆院選への鞍替え)による2012年12月の選挙、猪瀬直樹氏の辞任(公選法違反疑惑)による2014年2月の選挙は、ともにまだ記憶に新しいところです。舛添知事の任期は、まだ1年8ヶ月残っている段階です。

そこで気になってくるのは、選挙にかかる費用です。これはもちろん公開されています。2012年の選挙は50億5600万円、2014年の選挙は49億900万円の補正予算が組まれています(※3)。つまり、もし舛添氏が辞任して再度都知事選が行われれば、約50億円の費用がかかるということになります。

4年で3度目の都知事選は必要?

都知事選の費用、約50億円――「辞任ムード」がピークに達するなかで都民が冷静に考えなければならないのは、この額をかけて新たな都知事を選び直す必要があるかどうかということです。そこではおそらくふたつの立場があるでしょう。

ひとつが、それでも舛添都知事は辞任して、50億円を使って再選挙をすべきだとする立場。これは、今回の政治資金流用によって舛添都政への信頼を完全に失ったので、致し方ないというものでしょう。「次の新都知事には50億円分の価値がある」とする立場だと言い換えることも可能かもしれません。

もうひとつは、50億円かかる選挙をせずに舛添知事は続投すべきだとする立場。今回の調査と114万円の返金、さらに別荘売却を踏まえて、これで幕引きにしようとするものです。これは、「次の新都知事には50億円分の価値はない」とする立場だと言い換えることができるでしょうか。

このふたつにはそれぞれ固有の正当性がありますし、都民の間でも意見がかなり分かれるところでしょう。ただ、そのどちらの立場を採るにせよ、もうひとつ都民が強く意識しなければならないのは、過去2回の選挙において誤った選択をしたのは都民自身だということです。

一方、猪瀬元知事と舛添現知事が当選したこの2回の選挙において、リベラル層の支持を受けた弁護士の宇都宮健児さんはともに次点で落選しています。2012年の選挙では約97万票、2014年の選挙では約98万票とそれなりの得票をしたうえでの落選でした。もちろん、猪瀬氏の434万票、舛添氏の211万票には遠く及ばない数字でしたが、宇都宮さんに投票した都民はいまごろため息をついているでしょう。

舛添氏を辞任させるにせよ、続投させるにせよ、それらは都民の選択です。ふたたび50億円をつぎ込む必要があるのかどうか、都民は真剣に考える必要があるでしょう。

※1……「東京都知事等の給料等に関する条例」

※2……とは言え、むかし国会議員の秘書の方にお会いしたとき、給料は確かに高いが出て行く金も多いので、副業や資産のない議員は本当につつましい生活を送っているという話を訊いたことがあります。

※3……2012年11月「都知事選挙及び都議会議員補欠選挙にかかる補正予算について」、2014年1月都知事選挙にかかる補正予算について

■関連

・スタジアムの建設費はどのくらい?――予算2520億円の新国立競技場はいかに高いか(2015年7月)

・「民主主義のバグ」を使ったトランプの躍進──“感情”に働きかけるポピュリズムのリスク(2016年5月)

・「やさしさ」が導く“一発レッド社会”――ベッキー、宮崎議員、ショーンK、“謝罪”の背景にある日本社会(2016年4月)

・忘れっぽい日本人のための“安保法制に至る道”──安倍晋三首相の3つの戦略(2015年9月)

・改憲論者が反対する安保法制――小林節・小林よしのり・宮台真司はなぜ反対するのか(2015年9月)

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

松谷創一郎の最近の記事