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シリーズ:ギャンブル依存問題を考える(4)

木曽崇国際カジノ研究所・所長

「最初に依存者のアセスメントをする人を『ギャンブル依存症』という解決策しか持たない人にしてしまうと、ただ相談者を自助グループや回復施設に繋げて、ご家族は依存症について勉強してくださいというだけの対処になってしまう。」

本稿は「ギャンブル依存問題を考えるその1その2その3」の続きです。未読の方はそちらを先にどうぞ。

木曽:

現在、IR推進法の成立に伴って、依存症対策をしなければならないといういう事で政治側はあわてて施策検討を前に進めているワケですが、今のお話を聞いていると最初にギャンブル関連の相談を受け、相談者の状況を見極めて適切な支援を差配するというアセスメント側の体制作りが一番大切になりそうですね。この辺り、どうやったら適切な体制が構築できるのでしょう?

ギャンブル依存者支援の在り方(中村さん提供)
ギャンブル依存者支援の在り方(中村さん提供)

中村:

まずはそういうところにギャンブル依存だけを扱っている人を配置しないことです。最初にアセスメントをする人を「ギャンブル依存症」という解決策しか持たない人にしてしまうと、ただ相談者を自助グループや回復施設に繋げて、ご家族は依存症について勉強してください、というだけの対処になってしまう。そのことでギャンブル問題の背景にあるその他の問題と、多様な支援の在り方が見過ごされてしまうんです。こういう感覚って「依存症の対策をするんだ!」とか言ってるタイプの人達には理解できないことが多い。逆に発達障害とか知的障害の支援をやっている人の方がすごくよく理解できる人が多いですよ。

木曽:

確かに。その他の障害分野と依存分野の支援が違うのは、依存の世界は元々自分自身が支援される側にあった人が、回復後に支援する側に廻るケースが多いという点かもしれませんね。そういう人達は、どうしても自分が救われた方法論を信奉し過ぎているところがあると、彼らとお話をしていて私自身も感じることはあります。12ステップで救われた人の念頭には、結局、12ステップしかない。ご自身は確かにあれで救われたのだろうから、その気持ちも判らないことはないんですけど、やっぱり客観性に欠けると感じることは多いです。

12ステップとは:

現在のギャンブル依存者支援で広く使われる回復プログラム。あらかじめ定められた12のメッセージを、己に刷り込むように繰り返し学ぶことでギャンブルからの離脱を試みる。詳細はGAの公式サイトを参照。

中村:

今回巻き起こっている論議で危ういなと思っているのは、こういう依存者支援の在り方があたかも「これしかない」かのように広がってしまうことです。その結果、本来多様な問題背景のある依存の問題で、単純化された判り易い一つの方法論に皆が飛びついてしまうこと。特に国や地方の公的機関がそれに乗ってしまうと、マズイだろうと思うんです。

木曽:

これから先、行政が具体的に電話相談やアセスメント体制を構築するとして、行政側の設定する窓口に関しては各地の精神保健福祉センターだとか保険所だとかになるわけですよね。彼らは国民の保健衛生を複眼的に見ている組織ではあるわけですが、その点ではとりあえずは問題ないと言えそうですか?

中村:

依存者支援の範囲は彼らが扱っている範囲よりも更に広い分野であるべきで、そう言う意味では本来的にはそこを担うべきはNPOでしょうね。行政はどうしても柔軟に動けないので、やっぱりそこはNPO的な動きが必要だと思います。

木曽:

うーん、私的には個々の多様な支援策を提供する主体として様々なNPOが活躍する姿というのは容易に想像できるのですが、それらを取り纏めて相談者にアセスメントを提供する主体にNPOがくるというのは正直、イメージが沸かないところもありますが…。

中村:

そうですね。まぁ、最近は精神保健福祉センターなんかでも、依存問題の多様な問題背景を理解し始めるところは出て来ています。良くも悪くも、役所にはそういう転換となるタイミングがあったりするんですよね。

木曽:

というと、具体的には?

中村:

「異動」です。役人って数年ごとに配置転換があるじゃないですか。そうすると、例えば以前は知的障害を担当していた人が、次に依存症の担当になるタイミングがあったりするんですね。その時に、元々自分が担当して知的障害の支援プログラムを提供していたようなタイプの人に対して、何故かこちらの分野では依存症のプログラムが当てがわれて、無理やりミーティングに参加させられたりしている現状を目の当たりにするんです。そういう時に「ちょっと待て。それは意味ないだろ」と、思う人が出て来るかどうかなんですよね。その点、行政機関でも理解を深めている窓口が徐々に出来てきていると思います。

「その5」に続く

【追記 2016/12/25 7:59】

本記事に関して中村さんから以下のようなメッセージが寄せられています:

私は知的障害や発達障害という言葉をよく使います。ワンデーポートの利用者は知的障害や発達障害がある人ばかりなのかとか、ワンデーポートに行くと知的障害や発達障害にされてしまうのではないかと思う方もいると思います。でも、そうではありません。障害者手帳を取得する人は全体の2割弱です。それなのになぜ、知的障害や発達障害の考え方に惹かれるのかと言うと、これらの障害を突き詰めて考えると、「人間とは何か」というところに行き着くからです。障害の有無に関わらず、ギャンブル依存問題の背景に関わらず、支援のヒントが得られると考えています。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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