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なぜ知らない言葉が多い?流行語大賞候補

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
流行を作る人、追いかける人

流行は、人と全く違うことをしたいと感じるイノベーターと、人と同じことをしたいと望む大衆によって作られます。

■新語・流行語大賞ノミネート50語

毎年恒例「流行語大賞」2014。

知ってる、知ってる!という言葉もあれば、え?これが今さら新語流行語と思う言葉もあれば、「聞いたことももない!!」という言葉もあるでしょうか。

「「塩レモン」「J婚」「絶景」... 流行語大賞候補は「知らない言葉だらけ」」(Jcastニュース2014.11.20)では、候補の中の「塩レモン」「J婚」「昼顔」なんて「全然知らない」という声を紹介し、また一方「なぜか今さら「塩対応」がノミネート」とあります。

それでも「塩対応」なんて聞いたことない人もいるでしょうし、知らない人がいるなんて信じられないという人もいるでしょう。「常識」も「流行」も人によって違うのです。

候補の中の「ありのまま」は、かなり知られたと思いますが、「レリゴー」はどうでしょうか。日本エレキテル連合の「ダメよ~ダメダメ」は、バラエティーを見ない人にも知られているでしょうか。「妖怪ウォッチ」は、小さな子どもがいない人でも知っているでしょうか。

■流行語大賞とは? 新語とは? 普通の言葉なのに流行語?

知らない言葉があるのは、「流行語大賞」ではなくて、実は「新語・流行語大賞」だからという人もいます。「新語」なら、知らなくても当然でしょうか。「新語」とは、「危険ドラッグ」のように新しく誰かが作った言葉、あるいは新しい意味が付けられた言葉です。だから、一番最初はもちろん他の人には分かりませんが、でも大賞候補ということなら、新語と言っても多くの人が知っていても良いでしょう。

また候補の中の「絶景」などは、普通の言葉で特に流行語ではないのでは?という意見もあるようです。たしかに、昔から国語辞典に出ているような言葉ですが、その言葉や、その言葉で表現される行動や思想が新しく広がると、「流行語」となるのでしょう。

■「新語・流行語大賞」とは

公式サイトによれば、「新語・流行語大賞」とは、こんな賞です。

「この賞(「現代用語の基礎知識」選「ユーキャン新語・流行語大賞)は、1年の間に発生したさまざまな「ことば」のなかで、軽妙に世相を衝いた表現とニュアンスをもって、広く大衆の目・口・耳をにぎわせた新語・流行語を選ぶとともに、その「ことば」に深くかかわった人物・団体を毎年顕彰するもの」(新語・流行語大賞)。

■流行とは:「流行」してるのになぜ知らない?:分野と世代

「流行」と言っても、全国民が知っているわけではありません。

みんな知ってる?:流行語大賞2014ノミネート50語(1)」でもご紹介しましたが、社会心理学的には「流行」には、3つの種類があります。

  1. 物の流行:危険ドラックとか、和食とか、スマホとか。
  2. 行為の流行:j婚とか、リベンジポルノとか、旅行とか、スポーツとか。
  3. 思想の流行:歌とか、本(に書かれている考え)とか、ありのままでとか。

そして、「新語・流行語大賞」の言葉の分野は、多種多様です。政治、経済、文化、芸能、スポーツなどなど。

多くの分野にまたがる、物、行為、思想の流行に関する言葉が取り上げられています。こうなると、多様な分野の様々な事柄すべてに関心と知識を持っている人は、少ないでしょう。

「流行」とはいっても、ある分野のある世代の人々にとっての流行も多いのです。若い世代では常識的な流行語、略語、新語等が、年配には全く分からないというのも珍しくありません。

新聞一面トップニュースの見出しの言葉が分からないという青年もまた、珍しくありません。

私(50代男性)は、候補の一つ「塩レモン」を聞いたこともありませんでしたが、妻や多くの女子学生はにとっては、知っていて当然の言葉でした。

■流行とは:「流行」してるのになぜ知らない?:広がりの時期

みんなが普通にしていることは、それはもう「流行」ではありません。

流行には、目新しさ(新奇性)が必要です。人とは違う新しくて変わっていることが好きな人が、流行を作り出します。

もし社会が40人のクラスなら、その中の1人が、流行を最初に作り出す「革新者」(イノベーター)です。2〜3人の新し物好きが、それを取り入れます(初期採用者)。すると、クラスの半分が真似をします(前期多数者)。

クラスの半分がそうしはじめると、残りの半分の多くも焦り始めて取り入れます(後期採用者)。そして、最後に乗り遅れていた7〜8人が取り入れます(遅延者)。

ところが、多くの人がその流行を取り入れ始めたころには、革新者や初期採用者は、別のことを考え始め、新しい流行の芽が出始めるのです。

「流行」といっても、ごく一部の人だけが知っているものから、日本人のほとんどが知っているものもあります。ごく一部の小規模な流行で終わることもあれば、日本中を巻き込む大流行になることもあります。

誰がイノベーターになり、誰が後期採用者になるかといったことは、決まっているわけではありません。ファッション、パソコン、自動車、政治、経済、それぞれのイノベーターがいるでしょう。

新語・流行語候補の言葉が、いつ、どこで生まれたかは、様々なです。あまりにも広がってしまえば、「今さら」と感じるでしょうし、まだ広がりが少なければ「知らない」「流行なんかしていない」とも感じるでしょう。

今回の候補50語の一つ、「トリクルダウン」は、まさに流行に関する人の心理と行動です。

「下の階層は、上の階層を追いかけます。上の階層はさらに上に逃げます。こうして、新しい消費が生まれ、流行が広がり、景気が良くなるというわけです。」(「心の財布と買い物の心理・衝動買いの心理」:Yahoo!ニュース個人有料)

■流行のパターン

流行には3つのパターンがあります。

一般化型

急激に普及し、流行が目新しくなくなり、もう流行とは言えなくなった後も、生活に定着するパターン。

減衰型

急激に普及し、急激にすたれるパターン。

循環型

繰り返されるパターン。

ある流行がどうなるかは、最初は分からないことも多いでしょう。流行語大賞候補としては、新奇で新鮮で目新しくて、そしてみんなが知っているという絶妙のタイミングが求められるわけですが、これはなかなか難しいでしょう。

これまでもいろいろな流行語が生まれては消え、そしてある流行語は日常に使われる言葉になっていきました。1984年第一回の新語・流行語大賞から歴代の年間大賞を見てみると・・・

オシンドローム・分衆・究極・マルサ・ペレストロイカ・セクシャル ハラスメント・ファジィ・「…じゃあ~りませんか」・きんさん ぎんさん・Jリーグ・「すったもんだがありました」・無党派・「自分で自分をほめたい」・失楽園(する)・ハマの大魔神・「凡人・軍人・変人」・「だっちゅーの」・雑草魂・「おっはー」・米百俵・聖域なき改革・骨太の方針・タマちゃん・毒まんじゅう・W杯・「なんでだろう~」・チョー気持ちいい・小泉劇場・想定内(外)・イナバウアー・(宮崎を)どげんかせんといかん・ハニカミ王子・アラフォー・グ~!・政権交代・ゲゲゲの・なでしこジャパン・ワイルドだろぉ・今でしょ!・「お・も・て・な・し」・じぇじぇじぇ

■流行の条件

前のページでも、簡単に紹介しましたが、流行が広がるためには、いくつかの条件があります。

  1. コストがかかり過ぎない:値段が安いとか、覚えるのに時間がかからないとか。
  2. 予備知識がいらない:とっつきやすさ、分かりやすさなど。
  3. それを持つ、それを使うことによる効果:仲良くなれる、自慢できる。ウケるなど。
  4. 保持性:習慣化する、口癖になるなど。

何が流行するのかは予測できないのですが、流行したものには、このような特徴があるのでしょう。

■新語・流行語

『日本語雑記帳』(田中章夫著 岩波新書)には、様々な日本語の話題が登場します。

たとえば、事務職の女性を表す言葉としては、かつて「BG」(ビジネスガール)がありました。ところが、この言葉は英米人が聞くと変な言葉に聞こえるということで、マスコミで使われなくなります。

そこで代わりの言葉として様々な提案があったのですが、『週刊女性自身』が読者の応募の中から「オフィス・レディー」(OL)を選び、後に普及したそうです。しかし実は、読者の意見では「オフィス・レディー」(OL)は、第7位だったそうです。それを当時の編集者が強引に選んだということです。

一方、委員のみなさんが選んだ「E電」とか「お母さん助けて詐欺」は、普及しませんでした。(読者のご指摘により誤りを訂正。正:「母さん助けて詐欺」。普及しないとはこういうことでしょうか。)

その時の多数派の意見が必ずしも正しいのではなく、委員や専門家が必ずしも正しいわけでもなく、時代を読む力のある人々が新語・流行語を作り上げ、そして後に大衆が受け入れてくれるのかもしれません。

今年は、どんな言葉が新語・流行語大賞を獲得するでしょうか。どんな言葉が、長く残っていくのでしょうか。

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みんな知ってる?:流行語大賞2014ノミネート50語(1):「ありのままで」「ダメよ~ダメダメ」など

みんな知ってる?:流行語大賞2014ノミネート50語(2):JKビジネス、妖怪ウォッチ、壁ドン~

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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