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子どもがネット依存症になったら

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■ネット依存の中高生が全国に51万8000人

いつもスマホが手放せない子。オンラインゲームやLINE、動画。食事の時も風呂やトイレまで、自転車に乗りながら。

厚生労働省の10万人調査による推計によると、「ネット依存の疑いが強い」とされた中高生は全国で8%(大人の約4倍)、51万8000人にのぼります。高校生の半分がネット依存予備軍だと言う人もいます。

・ネットをやめようと思ってもやめられない。

・やめるとイライラしたり、落ち込んだりする。

・始めると、つい長時間になってしまう。

・ネットのためにリアルの大切な人間関係、学校や部活の活動が台無しになったり、危なくなったりしたことがある。

・ネットにのめり込んでいることを隠すために、大人にウソをつく。

・不安や嫌な気持ちから逃げるためにネットを使う。

このような状態の中高生が、8パーセント、52万人です。

リビングにあるデスクトップ・パソコンを使っていたうちはまだ良かったのですが、スマホが普及し、さらにゲーム機やiPod touchをWi-Fiで使うようになって、状況は悪化していったように思います。

悩んでいる親もたくさんいることでしょう。

■ネット依存は病気か(ネット依存「症」か)・どうすれば良いか

まだ意見は分かれていますが、インターネット依存もアルコール依存と同様に考えるべきとの意見もあります。アルコールの専門病院である久里浜医療センターでは、「ネット依存治療部門」が作られました。

軽い依存は、用もないのにネットにつなぐ、いつもスマホが手放せないといった程度です。親子でネットにつなぐ時間を決めたり、本人に記録を取らせネットのやりすぎを自覚させるなどで改善もするでしょう。

■重度のネット依存

重度の依存は、ネットのために学校を休んだり(不登校になったり)、ネット以外のことは全くしなくなったりします。食事や風呂の時間も惜しみます。外出もせず、運動もせず、満足に食事もせず、昼夜逆転となる子もいます。

親は、勉強しないことで悩み怒り、学校を休んでしまうことで猛烈に悩み怒り、さらにその不健康な生活に頭を抱えます。

家族から見ると、人が変わったように見えます。以前とは目つきが違うと言う親もいます。

■重度のネット依存への誤った対処

この重度のネット依存の段階で無理に、スマホを取り上げたり、ネットの接続を切ると、暴言暴力が出ることもあります。アルコール依存と同様です。ふだんはおとなしい子からは想像もつかない言動が出たりします。

親も混乱し、孤独と絶望に陥るでしょう。

■親の孤独と絶望

子どもの困った状況を、なかなか人には話せません。学校の先生に話したとしても、なかなか理解してもらえないことも多いでしょう。いくら急激に増えたとはいえ、アルコール依存症のようには、社会の理解が深まっていません(アルコールの問題への理解だって低いですが)。

親が、その壮絶な状況をなかなかそのまま話せないこともあるのですが、聞く方からすると、ただのゲーム好きぐらいにしか思えなかったりします(悪気はないのですが)。

でも、ただの酒好き、大酒飲みと、アルコール依存症は違います。重度のネット依存の状態は、ただのゲーム好き、ネットに熱中しているといったこととは、大きく違うのです。

親が良く受けるアドバイスとして、ゲーム機を取り上げろ、スマホの契約を切れ、時間を管理しろ、子どもと約束しなさい、Wi-Fiのスイッチを切りましょうといったものがあります。

子どもとの約束は、最初にスマホやゲーム機を買うときにはとても有効でしょう。取り上げたり、スイッチを切るのも、軽い状態なら効果があるでしょう。しかし重度の依存になれば、そんなに簡単ではありません。

アルコール依存症者の家族に、酒を取り上げれば良いでしょ、それで解決でしょと、簡単に言えないのと同じです。

アドバイスする方も、なんとか力になりたいと思ってはいるのですが、重度のネット依存は、まだなかなか理解してもらえません。親は、アドバイスのようにがんばるのですが、結局失敗し、自分を責め、絶望感を強めます。

■子どもの重度ネット依存への対応

重度のネット依存になると、普通の方法は効きません。だからといって、特別な特効薬があるわけではありません。久里浜病院のようなところへ行けると良いのですが、全国にあるわけでもありません。

親はまず、情報を集めましょう。ネット依存とは何なのか。地元にはどんな支援機関があるのかを調べましょう。周囲の人にも理解してもらい、支援者を作ります。

子どものネット依存の裏に、クラスの人間関係や発達障害など、他の環境的問題や本人の心の問題が潜んでいることもあります。「自分探し」でネットにのめり込む中高生もいます(「自分探し」はなぜ失敗するのか。ネットの私が本当の私?)。

ネット依存は、ネットの問題だけではなく深い根がある場合もあるでしょう。冷静に、もう一度、問題を見直しましょう。

そして、人間関係の修復です。ここまで来る間にこじれた親子関係をほぐし、信頼関係を取り戻しまましょう。

信頼関係が回復し始めると、かえって子は理不尽なことを言うでこともあります。「みんな、おかあさんが悪いんだ!」などと言ってくることがあります。親はとても辛いのですが(客観的事実でもないのですが)、頭ごなしに否定せず、やたらと反論せず、受け止めます(ただし、殴る蹴るの暴力は受け止めてはいけません。逃げましょう)。

子どもも少しずつ変化が生まれるでしょう。ネット依存状態であることの自覚が生まれ、ネットのために失ったことを自覚します。これは、大きな進歩です。そして新たな希望を発見し、医師や教師、スクールカウンセラー、そして家族らの支援者と共に解決の道を歩み始めます。

ここまでくれば、ネット接続の時間制限なども、今度は効果が出ることもるでしょう。

子ども、中高生にとって良いことは、生活に区切りと変化があることです。様々な学校行事、定期試験、入試、そして卒業。本人もしだいに、このままではいけないと感じ始めるでしょう。

学校の活動を上手に活用しましょう。先生との連携も大切です。

しかし、少し意欲が出ても簡単には行動できません。大人たちが、安心感を与えた上で、学校行事や入試を頑張らせるための支援を進める必要があるでしょう。

簡単には行かないかもしれませんが、まずは小さな一歩を進めましょう。幸せを取り戻すために。子どもたちの未来のために。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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